American Headache Society(AHS)の最新の診療ガイドラインにある大後頭神経ブロックのレベルA推奨は妥当か

片頭痛救急治療に対して大後頭神経ブロックがレベルAで推奨されていることが少し前に話題になっているが,その推奨を出した2025年のAmerican Headache Society(AHS)の最新の片頭痛診療ガイドラインを斜め読みしてみた.
2025年のAHSの片頭痛診療ガイドラインに示されている推奨
推奨
| 【レベルA:必ず提供する】 | 【レベルB:提供すべき】 | 【レベルC:提供する可能性がある】 | 【レベルC:提供しない場合がある】 | 【レベルB:提供すべきでない】 | 【レベルA:提供してはならない】 |
| プロクロルペラジン静脈内投与 大後頭神経ブロック(GONB) | デクスケトプロフェン静注 ケトロラク静脈注射 メトクロプラミド静注 スマトリプタンSC 眼窩上神経ブロック | アセチルサリチル酸IV クロルプロマジン静脈注射 デキサメタゾン静脈内投与 ジクロフェナク筋注 ジピロンIV ドロペリドール筋注 ハロペリドール静脈注射 バルプロ酸静脈注射 | ジフェンヒドラミン静脈内投与 モルヒネ静脈注射 オクトレオチド皮下注射/静脈注射 パラセタモール静脈注射 | なし | ヒドロモルホンIV |
確かに,大後頭神経ブロック(GONB)はレベルA(必ず提供する:level A – must offer)にランクされている.これを見て最初,プロクロルペラジンは国内では使用できないので,急性片頭痛発作には,第一選択としてGONBを行わなければならないのかと思った.「レベルA:必ず提供する」と書いてあるからだ.
独特な推奨の表記
問題はこのあまり聞き慣れない推奨の表記の仕方である.方法にあるエビデンスの質の評価と推奨の決め方の部分をまとめる.
システマティックレビューによって得られた各研究は,バイアスのリスクが評価された.研究はRoB基準(例:ランダム化の方法、盲検化、割り付けの隠蔽、結果データの完全性、およびintention-to-treat分析への準拠)に基づいてクラスIからクラスIVに分類された.
クラスⅠはLow risk of bias,クラスⅡはModerate,クラスⅢはModerately high,クラスⅣはVery high risk of biasとして推奨事項の作成から除外された.
そして,確実性のレベルが以下のように定義されている.
複数のクラスⅠ研究:「Are highly likely to be in/effective…」
複数のクラスⅡ研究または1つのクラスⅠ研究:「Are likely in/effective…」
複数のクラスⅢ研究または1つのクラスⅡ研究:「Are possibly in/effective… 」
複数のクラスⅣ研究または1つのクラスⅢ研究:「There is insufficient evidence to support or refute the effectiveness of…」そのうえで,推奨の強さを,エビデンスのクラスと質,利益の一貫性と大きさ,および有害性の可能性を統合して次のように分類した.
レベルA = 提供必須または提供不可(level A – must offer)
レベルB = 提供すべきか、提供すべきでないか(level B – should offer)
レベルC = 提供する場合と提供しない場合があります(level C – may offer)
レベルU = 推奨なし(no recommendation)費用,実現可能性に関する懸念,潜在的なリスク,および副作用は検討されているようだが,患者の価値観のばらつきについては検討されないようだった.
この方法は,いわゆるMinds2007方式と言われる旧式の,しかも独自のものである.
これだと,研究を選り好みして,効果があった研究を都合よく取り上げて推奨を作成してしまうことが容易にできてしまう.
そして,推奨の根拠を見てみる.
Question 2: Are nerve blocks, including sphenopalatine ganglion blocks, effective for the treatment of adults with migraine who present to an ED?(質問2:蝶形骨口蓋神経節ブロックを含む神経ブロックは、救急外来を受診した片頭痛の成人患者の治療に効果的ですか?)
大後頭神経ブロック(GONB)では,3つのクラスⅠ研究と1つのクラスⅡ研究で評価された.
1つ目のFriedmanらによる2018年のクラスⅠ研究では,メトクロプラミドに抵抗性を示す患者において,0.5%ブピバカインを用いた両側3mLのGONBを受けた参加者の31%(4/13)が30分後に頭痛消失を達成したのに対し,偽手術(0.5mLの0.5%ブピバカイン,浅い深さ)を受けた参加者では0%(0/15)であった(95%信頼区間6~56,p = 0.035).
効果は示されたが,症例数がわずか28例しかなく,しかも,静脈内メトクロプラミドによる標準治療にもかかわらず中等度または重度の頭痛が持続していると報告した救急外来(ED)患者が対象となっていることに注目したい.
2つ目のFriedman らによる2020年のクラスⅠ研究はGONBが静脈内投与のメトクロプラミドと同等の片頭痛治療効果を持つかどうかを評価した研究で,0.5% ブピバカインを使用した両側 3 mL GONBはメトクロプラミド 10 mg IV と疼痛重症度の平均改善に違いが見られなかった.
サブグループ解析では,GONB の経験豊富な注射者 (15/51) の平均改善は 6.9 (SD 2.6)、経験のない注射者 (36/51) の平均改善は 4.1 (SD 2.9) で (差 2.8、95% CI 1.1–4.5),経験によって効果が異なることが示されたという点が大事.
3つ目のHokenekらによる2021年のクラスⅠ研究では,1%リドカインGONBを評価し,120分後のVASの平均変化は,GONB 0.75 mLで-54.1(95% CI -58.5~-49.7),眼窩上神経ブロック(SONB)0.25 mLで-42(-46.5~-37.4),併用で-59.3(-63.0~-55.7),生理食塩水を用いた偽処置で-9.9(-14.5~-5.3)だった.しかし,この研究も症例数は128例しかなく,他の薬物療法との比較がなかった.
4つ目のKorucuらによる2018年のクラスⅡ試験(n = 60)では,45分時点での疼痛スコアの平均変化を評価したところ,デクスケトプロフェン・トロメタモール50mg静脈内投与とメトクロプラミド10mg静脈内投与の併用(7,IQR 5~8)は,0.5%ブピバカイン1mL+生理食塩水1mLのGONB(7,IQR 6~9,p = 0.39)と有意差はなかったが,どちらも偽手術(5,IQR 2.25~7,GONではp = 0.016, IV治療ではp = 0.03) より優れていた.
考察
GONBは偽治療と比較して効果があることは間違いなさそうだが,他の内服・静注の薬物療法よりも優れるかどうかは微妙で,このレビューの結果からは結論が出せないが,どちらかというとメトクロプラミドとは同等である可能性のほうが高い.GRADE approachを用いていないが,あえてGradingすると,InconsistencyとImpricisionの2つでgrade downで,Low~Very lowになるのではないか(Impricisionで2段階grade downもあり得る).
そして,メタアナリシスされていないのでなんとも言えないが,レベルBのメトクロプラミド静注と差をつけるだけの根拠はないように思った.ましてや,NSAIDsやトリプタンとの比較した研究は存在しないのでどちらが優れているかは不明だ.特に限定的な症例数による結果であることを考えると,GONBは,中等症以上の片頭痛発作で,他の薬物療法が効かなかった場合の2番手の治療とするべきではないか.もちろん,手技に豊富な経験があれば第1選択でも良いのかもしれないが,あくまで救急外来を受診した患者での話になる.なぜなれば,引用されている研究が,すべて救急外来を受診した急性片頭痛の患者が対象になっているからである.通常の外来に頭痛で受診した患者に行うものではない.
どうも,【レベルA:必ず提供する(level A – must offer)】というのが引っかかる.本来,診療ガイドラインは「必ず行う」という推奨をつけないし,つけるべきではない.「必ず行う」とされてしまうと他のオプションが選べなくなるし,法的拘束力すら生じてしまうだろう.
推奨が独り歩きしそうで怖い診療ガイドラインだと思った.
現時点では,急性片頭痛発作には以下のような対応が妥当ではないか.
軽症:アセトアミノフェン,NSAIDs,効かなければトリプタンの併用
中等症~重症:最初からトリプタン経口,飲めなければ皮下注
嘔気・嘔吐がひどいならばメトクロプラミド静注併用
救急外来:中等症~重症の治療に加えて,デキサメタゾン4mg,GONB
CGRP拮抗薬が必要な状態ならば脳神経内科医に相談
ただ,GONBの手技は比較的簡便な処置と言えそうなので,オプションの1つとしてプライマリ・ケア医でも獲得しておくべきだと思った.
結論
AHSの新しい急性片頭痛発作の診療ガイドラインは,推奨を鵜呑みにできない.
【利益相反(COI)の開示】
学術的COI:市中病院医師,総合診療医 ,EBMer/EBM educator.日本プライマリ・ケア連合学会理事,日本医学教育学会理事.診療ガイドライン作成方法専門家,日本神経学会「頭痛の診療ガイドライン」外部委員
経済的COI:頭痛治療薬を含める製薬企業からの金銭等の授受はない

