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エビマヨの会−2009年6月10日
第4回:制酸剤を投与開始してしばらくの間は,院内肺炎発症リスクが上がる
Herzig SJ, Howell MD, Ngo LH, Marcantonio ER.
Acid-suppressive medication use and the risk for hospital-acquired pneumonia.
JAMA. 2009 May 27;301(20):2120-8.
PMID: 19470989.
チェックシート は はじめてコホートシート3.2
背景: 近年,制酸剤使用外来患者における市中肺炎のリスクの増加が示唆されている.さらに入院症例では低リスク患者の約70%がストレス潰瘍の予防として制酸薬を服用しているが,制酸剤が院内肺炎のリスクを増加させているかは不明である.
カテゴリー: 害
研究デザイン: コホート研究
資金源: grant T32HP11001 from the Health Resources and Services Administration
of the Department of Health and Human Services
利益相反: なし
1.論文のPECOは何か?:
P: 3日間以上入院した18歳以上の患者
非人工呼吸器管理患者に制限するため,ICU入院した患者は除いた
E/C: 制酸剤(Proton-Pump Inhibitor; PPIとHistamine2 Receptor Antagonist; H2RA)使用の有無
O: primary:院内肺炎全て(嚥下性肺炎+非嚥下性肺炎,ICD-9-CM codeに従って診断し,副次的退院時診断のみとした)
secondary:嚥下性肺炎,非嚥下性肺炎
2.Outcomeの観察者が危険因子についてmaskingされているか?: outcomeの有無を,退院時の診断をICD-9-CMで判断したということは,入院診療担当医が付けた診断をoutcomeの有無の判定に使っているので,outcomeの有無の評価には,制酸剤使用の有無はmaskingされていない
3.追跡期間はどれくらいか?: 全入院期間.制酸剤群:平均5日(範囲:3〜164日),非制酸剤群:平均4日(範囲:3〜170日).非常に幅は広いが,比較的長期入院した人は少数.
4.交絡因子の調整のため,多変量解析は行われているか?: 院内肺炎のリスクを上げると考えられるような以下の変数を共変量と考えた.
性別,人種,季節,入院した曜日,入院診療科(内科かそれ以外か),入院形式(予定,至急,緊急),入院期間,消化管出血を示すICD-9-CMコード,嘔気や嘔吐を呈するICD-9-CMコード,鎮静効果を持つ薬剤(ベンゾジアゼピン系,バルビタール,抗精神病薬,オピオイド,麻酔薬),筋弛緩薬,NSAIDs,吸入・全身ステロイド,抗凝固薬(enoxaparin,ワーファリン,ヘパリン)などの薬剤の使用
ロジスティック回帰分析を用いて多変量解析が行われている.
さらに,Propensity scoreを用いた解析も行った.
5.結果の評価:
院内肺炎の発症率は,制酸剤を服用することで,オッズ比が未調整で2.6倍,調整済みで1.3倍で,いずれも有意差があった.
嚥下性肺炎と非嚥下性肺炎でも,未調整オッズ比は3.1倍と2.4倍で,調整済みオッズ比で1.4倍と1.2倍であり,いずれも有意差があった.
propensity-matchedで行った解析では,約半数の32,792例を抽出して,同じオッズ比を得た.
PPIとH2RAのそれぞれに分けてみてサブグループ解析を行った.
PPIでは,調整済みオッズ比で1.3倍(95%CI 1.1〜1.4)有意に院内肺炎が多く発症する.
それに対して,H2RAでは,未調整オッズ比では1.6倍で有意差ありだが,調整済みオッズ比では1.2倍で95%信頼区間が0.98〜1.4で有意差がなくなった.
つまり,H2RAではより院内肺炎が多いとは言えないが,PPIを飲んでいる患者では有意に院内肺炎が多く発症していた.
ディスカッション:
制酸剤が肺炎を引き起こす機序としては,胃酸で殺菌されるはずだった菌が生き残るために,肺炎を起こすと考えられている.
制酸剤の使用により市中肺炎が増えるという報告は,今回のものが初めてではなく,これまでにも多数あった.
・コホート内症例対照研究(JAMA 2004;292:1955 )において,市中肺炎発症率は非制酸剤服用群で0.6/100人年に対し,制酸剤服用群で2.45/100人年.
PPIを止めた人に対して服用中の人の肺炎発症の調整済みリスク比は1.89,H2RAでは止めた人に対して服用中の人の調整済みリスク比は1.63.
PPIと市中肺炎の間に,両−反応関係がみられた.
・症例対照研究(Arch Intern Med 2007;167:950 )において,市中肺炎に対する調整済みオッズ比は,現在PPI使用中の人で1.5(1.3-1.7)だった.
過去にPPIを使用していた人では1.2(0.9-1.6)で,有意差はなかった.
特に,治療開始7日以内に市中肺炎を起こす調整済みオッズ比は5.0(2.1-11.7)と強い相関関係にあり,以前より使っている人では1.3(1.2-1.4)と弱い関係にあった.
サブグループ解析では,40未満の患者に限定すると,調整済みオッズ比は2.3(1.3-4.0)とより高くなった.
PPIと市中肺炎の間に,両−反応関係はみられなかった.
・コホート内症例対照研究(Ann Intern Med 2008;149:391 )において,PPIを使用した場合の市中肺炎発症の調整済みオッズ比は,使用開始2日以内の場合6.53(3.95-10.80),7日以内の場合3.79(2.66-5.42),14日以内の場合3.21(2.46-4.18)だった.
PPIの作用発現は投与開始から1週間程度を必要とされているが,どうしてそれより早期に肺炎になりやすくなるのか,その機序は不明.
・コホート研究(Med J Aust 2009l193;114 )において,65歳以上で肺炎の入院と抗生剤処方量が有意に増加した.
今回の論文のポイントは,症例対照研究ではなく,コホート研究で証明されたことと,さらに疑似RCTとも言うべきpropensity scoreを用いた解析でよりバイアスを排除したにもかかわらず,オッズ比はほぼ同じだったことである.
市中肺炎のみではなく,入院中に院内肺炎を起こす原因にもなるというのは,病棟管理上,問題である.
ICUなどでは,ストレス潰瘍予防目的で制酸剤の投与がされることも多いが,PPIではなく,H2RAにすべきだろう.
PPIを使用することで,肺炎の他にも,大腿骨頸部骨折を増やすという報告もある.
・コホート内症例対照研究(JAMA 2006;296:2947 )において,大腿骨頸部骨折の調整済みオッズ比は,1年以上PPIを服用していた患者で1.44(1.30-1.59).
高用量投与していた場合は2.65(1.80-3.90)で,治療期間が長くなるほどリスクは上がる(1年:1.22(1.15-1.30),2年:1.41(1.28-1.56),3年:1.54(1.37-1.73),4年:1.59(1.39-1.80)).
結局のところ,今後どうすればいいのか:
肺炎発症の最もリスクが高いのは投与開始早期(特に最初の48時間)であることを意識しておく.
肺炎発症のリスクは投与期間が長くなるに連れて低くなってくるが,骨折のリスクは治療期間に応じて上がるので,長期投与は避けるべき.
Do not harmの立場に立ち,使う必要のない薬剤は使わない.
PPIもH2RAも,どうしても必要なときに,必要最小限の量を使うに留めるべき.
ICU入院中のストレス潰瘍予防目的には,PPIではなく,H2RAを使用するべき.
無症状患者(抗血小板療法中,ステロイド投与中)に,ルーチンで潰瘍予防目的に使用するのはもってのほか.
特に高齢者ではPPIは害のリスクがメリットよりも大きくなるので,なるべく避けるべき.
過去に潰瘍の既往のある人には制酸剤の長期投与が必要になるケースもあるが,その場合もPPIではなく,H2RAを選択すべき.
NSAIDs潰瘍の予防に有効性が証明されているのは,PPI,H2RA,misoprostolの3つのみである(BMJ 2004;329:948 ).
NSAIDsの処方と抱き合わせでよく使用されるムコスタやセルベックスなどは,全く意味がない.
NSAIDs短期間投与の場合には,NSAIDs単独の処方でよい.
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