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エビマヨの会−2010年1月13日

 第17回:消化性潰瘍出血における低用量aspirin療法の継続は,再出血を増やし死亡率を減らす可能性がある

Sung JJ, Lau JY, Ching JY, Wu JC, Lee YT, Chiu PW, Leung VK, Wong VW, Chan FK.
Continuation of low-dose aspirin therapy in peptic ulcer bleeding: a randomized trial.
Ann Intern Med. 2010 Jan 5;152(1):1-9.
PubMed PMID:19949136.

チェックシートは はじめてトライアルシート5.5

背景: 低用量aspirin使用中の患者が消化性潰瘍出血を起こした場合,内視鏡的止血治療後にaspirin療法を続けるべきかどうかはよく分かっていない.
カテゴリー: 治療
研究デザイン:
 ランダム化比較試験,同等性試験
資金源: Institute of Digestive Disease, Chinese University of Hong Kong
利益相反: Consultancies: F.K.L. Chan (Pfizer, Otsuka). Honoraria: F.K.L. Chan (Pfizer, Takeda, AstraZeneca). Grants pending: F.K.L. Chan (Takeda). Patents pending: J.J.Y. Sung (Nycomed). Other: F.K.L. Chan (chairman of the steering committee for Condor).
1.論文のPECO:
P: 消化性潰瘍出血を起こした低用量aspirinを内服中の患者
   inclusion: 2003年2月から2006年9月に上部消化管出血の明らかなサイン(下血,吐血)のあった連続患者
          活動性の出血を呈している消化性潰瘍があるか,露出血管があるか,内視鏡的治療が成功した付着した凝血塊があり,
          心血管疾患の予防や治療のために低用量aspirin(325mg/日以下)の継続が必要な患者
          低用量aspirinの適応は抗血小板療法の継続を必要とした心血管や脳血管疾患の再発予防も含んだ
   exclusion: 一次予防のためにaspirinを内服していた患者
           出血性潰瘍の内視鏡的止血が失敗,胃噴門部の閉塞,潰瘍穿孔,プロトンポンプ阻害薬に過敏,
           部分的胃切や迷走神経切除術の既往,抗凝固薬,コルチコステロイド,NSAIDsの併用,妊娠
   ただし,aspirinにclopidogrelを併用しているものは除外しなかったが,ランダム割付け後潰瘍が完全に治癒するまで休薬した
E: aspirin 80mg/d
C: プラセボ8週間
O: primary: 内視鏡治療後30日以内の消化性潰瘍出血の再発
   secondary: 8週間の研究期間に起こった総死亡
           心血管疾患,脳血管疾患,消化管合併症による死亡
           在院日数(組み入れからの日数を測定)
           手術を要したもの
           急性虚血性イベント(急性冠動脈疾患,脳血管障害)の再発
全患者が上部消化管出血の発症から24時間以内に内視鏡を受けた
内視鏡治療は,エピネフリン注入と熱凝固を行った
エピネフリン注入は,23ゲージ硬化療法針を用いて,出血が止まるまで出血している血管の周囲に10000倍希釈液を0.5〜1ml注入した
熱凝固は,3.2mm heater probeを用いて血管に行った
出血が止まり,出血していた血管が平坦になるか空洞化したら止血したと判断した.
潰瘍底を覆っていた凝血塊を除去し,必要に応じてその下にある血管を治療した.
H. pylori感染の有無を評価するため,噴門洞と胃体部を生検し迅速ウレアーゼテストと組織所見を検討した.
全患者でpantoprazole 80mgを静注し,それに続いてpantoprazolを8mg/hで72時間持続静注した.
72時間後は研究終了までpantoprazol 40mg/dを内服した.
2.ランダム割付けされているか?: されている,コンピュータが作った乱数リストを使って,独立した委員会がランダム割り付けシークエンスを作ったので,隠蔽化もされている
封筒法で行われている
層化割り付けとブロック割り付けはしなかった
3.Baselineは同等か?: 同じ(Table 1)
4-1.ITT解析か?: ITT解析(FAS)されている.介入内容をクロスオーバーしている人はいない
4-2.結果に影響を及ぼすほどの脱落があるか?: ない.脱落は3人.追跡率=173/176=98.3%.87%以上の患者が90%以上の薬剤コンプライアンスを持っていた
5.マスキング(盲検化)されているか?: 4重盲検
6.症例数は十分か?: 
 本研究では,primary outcomeに有意差がない
 本試験は同等性試験であり,95%信頼区間の上限が10%以上の再出血を増加を超えなければ同等性が証明されるとした
 計算された症例数: 各群75人
 aspirin治療者がaspirinを中止した場合の推定再出血率: 30日間で6.7%
 治療効果の大きさ: 再出血が10%増えるのを上限とする
 α level: 5%(片側)
 検出力: 80%
 本研究の組み入れ患者数は各群78人で,計算された症例数を超えているので,症例数は十分である.
7.結果の評価:
追跡期間は30日,8週間.
メインとなる結果はTable 2にある.
aspirinを継続すると30日後出血は4.9(-3.6〜13.4)%増える.
95%信頼区間の上限が13.4%と10%を超えているので,出血が増えている.
aspirinを継続すると,30日後死亡率が11.6(3.7-19.5)%有意に減少する.
プラセボ群での死亡10人のうち,3人は1週間以内に,4人は1週間から30日後に,3人は30日後から8週間後に死亡している.
10人のうち血管合併症で死亡した5人は,2人がACSで1日目と7日目に死亡し,1人は12日目に脳梗塞再発で死亡し,2人はうっ血性心不全で20日目と39日目に死亡した.


ディスカッション:

  • 本研究での対象患者は全て二次予防としてaspirinを内服している.
  • 研究に組み入れられた患者が服用していたaspirinは325mg/day以下であるのに対して,内視鏡治療後に服用するaspirinは80mg/dayである.
    普段飲んでいる量より少ない人がいることになる.
  • Baselineの比較で,aspirinを飲んでいる理由としてaspirin群では心血管疾患が52%,脳血管疾患は38%,プラセボ群ではそれぞれが60と30%でやや違いがある.
    しかし,これが結果に影響するとは思えない.
  • Early termination(脱落例)の3人は,結果の解析に含まれているようである.
    Figure 1を見ると,30日以内の確認された再発性出血と死亡の人数がTable 2のイベント発生数の人数に一致しているので,Early terminationはイベントが発生しなかったものとして扱われているようだ.
    仮に,Early terminationの3人が全てイベント発生したと考えると,確認された再発性出血の人数は10人と5人に,死亡の人数は3人と11人になり,前者に有意差が生じる可能性はあるが,結果に大きな違いは生じないと思われる.
  • 喫煙者は,8%と14%でaspirin群で少ないので,aspirinに有利な結果が導き出される可能性がある.
  • 社会的地位の違いによって出血の起こり易さに違いがあると考えられるので,Baselineにはその検討も必要と考えられる.
  • 死亡例がaspirin群で少なかったが,原因が消化管合併症の人がaspirin群で0人,プラセボ群で3人と,プラセボ群の方が多い.
    本来aspirinを使っている方が消化管合併症が多く起こりそうなところだが,逆になっている.
  • 本研究では,症例数が少なく,そのためイベント発生数が少ないため,これをもって消化管出血の内視鏡治療後にアスピリンを中止しなくて良いと結論づけるのは難しいだろう.
  • 本研究ではaspirinは8週間中止しているが,その間に起こっている心血管イベントが,本当にaspirinを中止したことによるものなのか,不明である.
    aspirinを飲まなくて血管合併症で死亡した5人について考えてみる.
    aspirinを中止した場合,その効果が漸減しなくなるのは7日後であるから,ACSで1日目と7日目に死亡した2人は,恐らくaspirinを止めたことによるものではなく,出血などによりもともとなるべくしてなったと考えられる.
    12日目に脳梗塞再発で死亡した1人は,aspirinを中止したことが原因である可能性はある.
    20日目と39日目に死亡した2人は,うっ血性心不全が原因なので,これはaspiirnの中止が原因で起こったとは考えにくい.

結局のところ,どうすればいいのか:

  • 死亡率が増えると言っても,目の前で治療している出血が増えるというのは,主治医にとって(特に消化器科医にとって),見逃せないだろう.
  • イベント発生数が少ないのが最も致命的で,もっと症例数を増やした研究で確認する必要がある.
  • 現時点では,aspirinを中止することで心血管疾患が増えるとは言えないと考えられるので,これまでの診療通り,一旦中止するのが良いと思われる.
  • 少なくとも,一次予防で抗血小板薬を使用しているような患者では,やはり出血の際には中止すべきだろう.

コメント:

2010.1.19発行のAnn Intern Medに,非静脈瘤性の上部消化管出血の管理におけるガイドライン
International Consensus Recommendations on the Management of Patients With Nonvariceal Upper Gastrointestinal Bleeding
が発表されました(Ann Intern Med 2010;152:101).
これによると,心血管疾患の二次予防が必要な上部消化管出血患者では,心血管疾患リスクが消化管リスクより上回り次第すぐに(通常,7日以内)アスピリン(ASA)を開始すべき,と推奨されています.
本文には,その根拠として,以下のように記載されています.

 上部消化管出血を起こした低用量ASAを服用している患者は,通常は潰瘍が治るまでASA治療を中止するように勧められている.
 しかし,ASA治療の中止が長引くと,心保護のためのASA治療を必要としている患者において血栓症のリスクが増えてしまう(205, 206).
 メタアナリシス(206)では,ASAを服用しなかったり途中で中止したりすると,重大な心血管イベントが3倍に高くなる.
 一般的に,血栓症のイベントが起こるまでは,7〜30日と報告されているが,大抵は7〜10日(205, 207, 208)である.
 この時間的パターンは,生物学的に説明可能で,血中を循環する血小板の抑制は薬10日間続くからである(205).
 米国心臓学会の推奨(189)では,急性潰瘍出血の場合にASAの治療中止を決定するのは,心血管リスクと消化管リスクによって個別に決めるとされている.
 RCT(209, 210)のデータからは,早期にASAやclopidogrelを再開することの心血管系へのメリットが示唆されている.
 ASA誘発性潰瘍出血を起こし,内視鏡的治療を行った156人の患者を対象としたRCTでは,静注や傾向のPPI治療を受けている状況で,直ちにASAを再開することは,消化性潰瘍からの出血再発のリスクを2倍増加する(ただし,統計学的には有意差はない)ことに関連するが,ASA治療中止は,8週後の死亡率を有意に増加することに関係した.
 他のRCT(210)では,PPIで治療しているASA関連内視鏡的潰瘍患者では再出血はなく,内視鏡の1日以内にASAかclopidogrelで抗血小板療法を再開するようにランダム割り付けされた.
したがって,ASAの服用していない期間はおかないべきだと同意しているが,その代わり,心血管保護のためにASAが必要な患者は,心血管合併症が出血リスクを超えたと考えられ次第,ASA治療を再開すべきである.

以上のことから,内視鏡後7日以内の潰瘍が治癒したと考えられた後に,アスピリンを再開すると良いと思われます(2010.1.20)

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