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なんごろく−高血圧症

高血圧診療ガイドライン  
 JNC 8 (最終更新2014/3/16)
血圧測定の方法  
 血圧の測定回数 (最終更新2014/2/20)
本態性高血圧症  
 降圧剤の選び方 (最終更新2014/1/14)
 降圧利尿薬はどれを選ぶか (最終更新2016/2/12)
脳卒中急性期の血圧管理 (最終更新2014/10/30)
糖尿病患者における血圧管理 (最終更新2014/1/12)
二次性高血圧症  
 原発性アルドステロン症 (最終更新2014/1/15)

 高血圧診療ガイドライン

JNC 8(Eighth Joint National Committee) (項目新設2014/1/14,最終更新2014/3/16)

JAMA. 2014;311(5):507-520)

2013年12月18日,NHLBI(米国心肺血管研究所)はガイドライン群の1つであって10年ぶりの改定になる高血圧診療ガイドライン,JNC 8(米国高血圧合同委員会第8次報告)を発表しました.
以下,その内容を抜粋します.

JNC 8推奨内容

高血圧管理の推奨(JNC8)

推奨1
60歳以上の一般的な集団では,降圧のための薬物治療を収縮期血圧(SBP)≧150mmHgか拡張期血圧(DBP)≧90mmHgで開始し,SBP<150mmHgかつDBP<90mmHgを目標として治療する(強い推奨 - Grade A).

必然的な推奨
60歳以上の一般的な集団では,高血圧に対する薬物治療が目標SBPより下回っていて(例えば<140mmHg),認容性が高く,健康やQOLに対する副作用がないならば,治療は調節する(わざわざ上げる)必要はない(専門家の意見 - Grade E).

推奨2
60歳未満の一般的な集団では,降圧のための薬物治療をDBP≧90mmHgで開始し,DBP<90mmHgを目標として治療する(30〜59歳:強い推奨 - Grade A,18〜29歳:専門家の意見 - Grade E).

推奨3
60歳未満の一般的な集団では,降圧のための薬物療法をSBP≧140mmHgで開始し,SBP<140mmHgを目標として治療する(専門家の意見 - Grade E).

推奨4
18歳以上の慢性腎臓病(CKD)の集団では,降圧のための薬物治療を収縮期血圧(SBP)≧140mmHgか拡張期血圧(DBP)≧90mmHgで開始し,SBP<140mmHgかつDBP<90mmHgを目標として治療する(専門家の意見 - Grade E).

推奨5
18歳以上の糖尿病の集団では,降圧のための薬物治療を収縮期血圧(SBP)≧140mmHgか拡張期血圧(DBP)≧90mmHgで開始し,SBP<140mmHgかつDBP<90mmHgを目標として治療する(専門家の意見 - Grade E).

推奨6
一般的な非黒人の集団では,糖尿病を含み,降圧治療の第一選択はサイアザイド系利尿剤,カルシウム拮抗薬(CCB),アンギオテンシン変換酵素阻害剤(ACEI),アンギオテンシン受容体遮断薬(ARB)のいずれかにするべきである(中等度の推奨 - Grade B).

推奨7
一般的な黒人の集団では,糖尿病を含み,降圧治療の第一選択はサイアザイド系利尿剤かカルシウム拮抗薬(CCB)のいずれかにするべきである(一般的な黒人集団:中等度の推奨 - Grade B,糖尿病の黒人患者:弱い推奨 - Grade C).

推奨8
18歳以上のCKD集団では,降圧治療の第一選択(あるいは上乗せ)には,腎アウトカムを改善させるためにACEIかARBを含めるべきである.これは人種や糖尿病の状態に関係なく,全ての高血圧合併CKD患者に適用する(中等度の推奨 - Grade B).

推奨9
高血圧治療の主な目的は,血圧の目標値に達してそれを維持することである.もし1ヶ月以内に目標血圧に到達しないならば,最初の薬剤の量を増やすか,推奨6のクラス(サイアザイド系利尿剤,CCB,ACEI,ARB)のうちの1つを第2選択薬として加える.臨床家は血圧の評価を継続し,目標血圧に達するまで,治療内容を調節する.2剤用いても目標血圧に達することができない場合は,さらにその中から3剤目を加え調整する.ACEIとARBを同じ患者で併用してはならない.禁忌があったり,目標血圧に到達するのに3剤を越えて使用しなければならないために,推奨6の薬剤だけでは目標血圧に達することができない場合は,他のクラスの降圧剤を用いることができる.上記の戦略を用いても降圧目標に達しない患者や,追加の臨床的なコンサルテーションが必要なような合併症を持った患者の管理のためには,高血圧専門医への紹介が適応になるだろう(専門家の意見 - Grade E).

推奨の根拠となる論文と証明されている効果(本文から作成)

推奨 分類 引用件数 引用された研究の名前 証明されている効果
推奨1 60歳以上 6件 HYVET,Syst-Eur,SHEP,JATOS,VALISH,CARDIO-SIS 脳卒中,心不全,冠動脈疾患(CHD)
推奨2 60歳未満,
拡張期血圧
5件 HDFP,Hypertension-Stroke Cooperative,MRC,ANBP,VA Cooperative 脳血管疾患,心不全,総死亡
推奨3 60歳未満,
収縮期血圧
0件    
推奨4 CKD 3件 AASK,MDRD,REIN-2 GFR,ESRDへの進展,心血管疾患
推奨5 糖尿病 3件 SHEP,Syst-Eur,UKPDS 総死亡,心血管疾患,脳血管疾患,腎臓病(,心不全はない)
推奨6 非黒人薬剤選択 3件 VA Cooperative Trial,HDFP,SHEP 心血管疾患,脳血管疾患,死亡
推奨7 黒人薬剤選択 1件 ALLHAT 心血管疾患,心不全,複合心血管アウトカム
推奨8 CKD薬剤選択 2件 IDNT,AASK 心不全,腎臓病
推奨9 薬剤追加 0件    

エビデンスに基づいた降圧剤の投与量(Table 4を改変)

降圧剤(日本の先発品商品名) 初期1日
投与量(mg)
レビューされたRCTでの
目標投与量(mg)
1日
服薬回数
(参考)日本での
添付文書投与量
ACE阻害剤(ACEI)
 Captopril(カプトプリル)
 Enalapril(レニベース)
 Lisinopril(ロンゲス)

50
5
10

150-200
20
40

2
1-2
1

37.5〜75mg3×,最大150mg
5〜10mg1×
10〜20mg1×
アンギオテンシン受容体遮断剤(ARB)
 Eprosartan(日本未発売)
 Candesartan(ブロプレス)
 Losartan(ニューロタン)
 Valsartan(ディオバン)
 Irbesartan(アバプロ,イルベタン)

400
4
30
40-80
75

600-800
12-32
100
160-320
300

1-2
1
1-2
1
1


4〜8mg1×,最大12mg
25〜50mg1×,最大100mg
40〜80mg1×,最大160mg
50〜100mg1×,最大200mg
β遮断剤(BB)
 Atenolol(テノーミン)
 Metprolol(セロケンL)

25-50
50

100
100-200

1
1-2

50mg1×,最大100mg
120mg1×
カルシウム拮抗剤(CCB)
 Amlodipine(アムロジン,ノルバスク)
 Diltiazem extended release(ヘルベッサーR)
 Nitrendipine(バイロテンシン)

2.5
120-180
10

10
360
20

1
1
1-2

2.5〜5mg,最大10mg
100〜200mg1×
5〜10mg1×
サイアザイド系利尿剤
 Bendroflumethiazide(日本未発売)
 Chlorthalidone(日本未発売)
 Hydrochlorothiazide(ヒドロクロロチアジド:先発品発売中止)
 Indapamide(ナトリックス)

5
12.5
12.5-25
1.25

10
12.5-25
25-100a
1.25-2.5

1
1
1-2
1



25〜100mg1〜2×
2mg1×
a現在の推奨されている効果と安全性のバランスにおいてエビデンスに基づいた投与量は,25-50mg/日である.

推奨のポイントと考察

推奨に関する最大のポイントは,高齢者と,全年齢の糖尿病患者とCKD患者では,降圧目標が10mmHgずつ上がって甘くなったことが挙げられます(糖尿病とCKDのない若年者では以前より140/80mmHg未満で変わらず).その結果,これまでの日本の高血圧診療ガイドラインの管理目標よりも甘くなっています.
ただ,全体的に見て,推奨度は専門家の意見であるGRADE Eがほとんどで,明確なエビデンスがないことが分かります.高血圧という比較的エビデンスが豊富な疾患であっても,降圧した方がいいということは言えても,具体的に,どれを使って,どの程度下げるのがいいかについてのエビデンスは不十分なのです.これは,糖尿病や脂質異常症など,他の疾患でも言えることです.したがって,必ずしも診療ガイドラインの推奨通り治療しなければならないものではありません.
日本高血圧学会の現行の高血圧診療ガイドライン(高血圧治療ガイドライン2009)は,2014年4月に高血圧治療ガイドライン(JSH2014)に改訂される予定です.報道されたその概要キャプチャ画像)によると,第36回日本高血圧学会総会の特別企画「高血圧治療ガイドラインJSH2014概要」において改訂点が示されました.第一選択薬からβ遮断薬を外し,CCB,ARB,ACEI,利尿薬の4クラスとする予定としています.これはJNC 8と同じです.しかし,ARBはACEIと比較して効果が同等〜やや劣る上に薬価が高いことから,第一選択とすることは適当ではありませんが,両ガイドラインともそれについては触れていません.

降圧目標について,興味深いことがあります.60歳以上の患者における降圧目標を150/90mmHg未満にするという推奨1の根拠として,6件のRCTが挙げられていますが,そのうち特別に収縮期血圧を140mmHg未満にすることが,より高い140〜160mmHgや140〜149mmHgにすることと比較して追加の利益がないとする日本の研究(JATOS: Hypertens Res 2008;31:2115VALISH: Hypertension 2010;56:196)が引用されています.人種や民族の違いから,海外の診療ガイドラインを和訳するのではダメで,日本人のエビデンスを踏まえた日本独自の診療ガイドラインが必要だとする意見を頻繁に耳にしますが,日本での研究の成果をむしろ日本の診療ガイドラインで活かせていないというのは,なんとも皮肉です.降圧目標はもっと甘くていいと思います.個人的には,高齢者を60歳以上で一括りにするのには抵抗があり,年齢が上がるに連れて血圧が上昇していくという自然経過を考慮して,もっとこまめに,次第に降圧目標も高くしていって良いと思うのです.

推奨2で示されている60歳未満の拡張期血圧の目標血圧については,HOT trial(Lancet 1998;351:1755)で80mmHg未満,85mmHg未満,90mmHg未満の比較で利益に違いがなかったため,90mmHg未満の推奨になりました.

推奨3の根拠となるRCTがないというのは驚きですが,60歳未満では拡張期血圧の研究で90mmHg未満の群の収縮血圧が概ね140mmHgだったので,専門家の意見で140mmHg未満の推奨になったとのことです.拡張期血圧の方がより重視されているといえます.

推奨4の推奨が適用されるのは,70歳未満の予測または測定されたGFR≦60mL/min/1.73m2の患者群と,あらゆるGFRの全年齢のアルブミン尿>30mg/gCrを有する患者群です.これも,130/80mmHg未満にすることが140/90mmHg未満にするよりも腎臓病や心血管疾患のエンドポイントを有意に減らすという結果は見当たりませんでした.また,70歳以上のCKD患者における目標血圧についてのエビデンスはなく,個別に考えるべきだとされています.

推奨5については,糖尿病患者において,収縮期血圧を150mmHg未満よりも140mmHg未満にした方がメリットがあるとするRCTは存在しません.ACCORD-BP trialT(N Engl J Med 2010;362:1575)でも,140mmHg未満とそれ以下のコントロールを比較して有意な差がみられず,140mmHgの推奨を支持しています.大血管イベントと細小血管イベントを検証したADVANCE trial(Lancet 2007;370:829)では,低い血圧によって逆にCVDリスクが上昇することが示されました.しかし,この研究は組み入れの際のベースラインの血圧が決められておらず,またランダム割付けされていなかったため,今回のエビデンスレビューでは採用されませんでした.

推奨6のβ遮断薬だけ第一選択から外された根拠としては,β遮断薬がARBよりも脳卒中発症を増やしたとするLIFE trial(Lancet 2002;359:995)が引用されています.α遮断薬を第一選択薬として用いることについては,利尿剤と比較して心血管疾患,心不全,複合心血管アウトカムを悪化させるとするALLHAT(Hypetension 2003;42:239)を根拠に,外されました.またαβ遮断薬(carvedilol),血管拡張型β遮断薬(nebivolol),中枢性α2交感神経作動薬(clonidine),直接血管拡張薬(hydralazine),アルドステロン受容体拮抗薬(spironolactone),末梢性交感神経作動薬(reserpine),ループ利尿薬(furosemide)については質がgoodやfiarのRCTが存在しなかったため,第一選択薬から外されました.さらに,利尿剤とARBを比較したRCTと,ACEIとARBを比較したRCTはありませんでした.また,ACEIとARBの併用効果を検証したONTARGETは,高血圧患者以外も組み込まれていたので,今回のエビデンスレビューでは採用されませんでした.
この推奨についての重要なポイントが4つあると本文中に書かれています.1番目は,多くの患者で降圧剤は複数の使用が必要で,この推奨は第一選択の選択にのみ適用されるのであり,パネルとしては4つのクラスのどれを追加する薬剤として用いても良いと提案します.2番目は,この推奨はthiazide,chlorthalidone,indapamideといったサイアザイド系利尿薬に特別なものであり,ループ利尿薬やカリウム保持性利尿剤は含まれていません.3番目は,RCTで示された同様な結果を得るために各薬剤は十分量投与されることが重要です(Table 4).4番目は,冠動脈疾患や心不全などの合併症を抱えた高血圧でない特定の集団を対象としたRCTは,この推奨ではレビューされていないので,これらの集団に適用する際には注意するべきです.
結果的にサイアザイド系利尿剤,CCB,ACEI,ARBの4剤が第一選択薬とされていますが,このうちARBは最も薬価が高く,特にACEIと比較した時にACEIを超える効果を示したエビデンスが皆無であることから,第一選択薬としては不適切と考えられます.しばしばACEIと比較してARBの方が認容性が高いことがメリットとして挙げられています.この場合の認容性とは,ACEIによる空咳の副作用を指していますが,ACEI使用者のうち,男性で1割,女性で3割程度の発症率であり,ほとんどが服薬開始の初期に起こり,休薬すれば空咳も消失することから,まずACEIを使用してみて,空咳が出るようならARBへの変更を検討するという考え方の方が妥当です.そうすると,決して第一選択薬とはなり得ません.降圧剤で最も売り上げを上げているのがARBですが,これを第一選択薬にするのをやめることで,医療費がかなり抑制できると考えれます.

推奨7はALLHATのサブ解析(JAMA 2002;288:2981)が根拠になっています.このサブ解析では,黒人ではACEIと比較して利尿剤を使用した方が心血管疾患,心不全,複合心血管アウトカムにより有効でした.CCBは利尿剤と比較して心不全の予防に効果が劣りましたが,他のアウトカムに有意な差がないことから,黒人の高血圧の第一選択薬として推奨されています.

推奨8のCKD患者に対しては,IDNT(N Engl J Med 2001;345:851)の結果で,ARBがCCBよりも心不全を改善したことでACEI/ARBが第一選択になっていますが,この研究はとうのう病性腎症で蛋白尿がある集団に限定されていました.この推奨は18歳以上に適応されますが,75歳以上でのエビデンスがありません.したがって,75歳以上では,サイアザイド系利尿薬とCCBも選択肢として挙げられます.

JNC 8とJSH2014の相違点は,家庭血圧の扱いにもあります.JSH2014は家庭血圧を重視し,「診察室血圧と家庭血圧の間に診断の差がある場合,家庭血圧による診断を優先する」としました.また,血圧の測定について「原則2回測定し,その平均値」と明記しています.一方,JNC 8では,家庭血圧についての言及はありません.

今回の降圧目標が10mmHg上がったことは,昨年(2013年)に米国糖尿病学会(ADA)の診療ガイドラインの血圧管理目標が10mmHg上がり,130/80mmHgになったことに追随するものです.さらに,同じく昨年(2013年)に発行された欧州高血圧学会(ESH)の診療ガイドラインでも,80歳以上では収縮期血圧が150mmHg未満にすることを推奨されていることとも一致します.世界は,降圧目標を緩和する方向に動いています

JNC 8 2014(米国)高血圧ガイドライン血圧管理アルゴリズム


オリジナルのFigure

JNC7からの変更点

変更点 JNC 7 2014高血圧ガイドライン(JNC 8)
方法 エキスパート委員会による,さまざまな研究デザインを含む体系的ではない文献レビュー
コンセンサスに基づいた推奨
エキスパートパネルによって定義され,方法論チーム(methodology team)が入力したたクリニカルクエスチョンとレビュー基準
方法論者(methodologist)によってRCTエビデンスに限定された
定義 確定診断された高血圧症と前高血圧症 高血圧症と全高血圧症の定義は示されていないが,薬物治療の閾値は定義された
治療のゴール 「単純性」高血圧とさまざまな合併症(糖尿病とCKD)に分けて決められた治療ゴール 特別の集団での異なるゴールを支持するエビデンスレビューがある場合を除いて,全高血圧患者に対して決められた同じ治療ゴール
生活習慣の推奨 文献レビューと専門家の意見に基づく推奨された生活習慣改善 Lifestyle Work Groupが支持するエビデンスに基づいた推奨によって推奨される生活改善
薬物治療 5つのクラスが第一選択の薬剤として推奨されたが,やむを得ず他のクラスを用いる適応がない殆どの患者では,サイアザイド系利尿剤が第一選択薬として推奨される
例えば,糖尿病,CKD,心不全,心筋梗塞,脳卒中,高いCVDリスクの合併症をもつ患者に特化した特定の降圧剤クラス
名前と通常の投与量の範囲を含む傾向降圧剤の包括的な表を含む
RCTのエビデンスによって推奨された4つの薬剤クラス(ACEIまたはARB,CCB,利尿剤)からの選択と投与量
人種,CKD,糖尿病サブグループに対するエビデンスレビューに基づいて推奨された特異的な薬剤クラス
パネルがアウトカム試験で用いられていた薬剤と投与量の表を作成した
トピックの範囲 文献レビューと専門家の意見に基づいて記述された多数の問題(血圧測定方,患者評価コンポーネント,二次性高血圧,レジメンのアドヒアランス,抵抗性高血圧,特定の集団での高血圧) RCTのエビデンスレビューにより,パネルによって最も重要と判断された限定的な質問を取り扱った 
出版前のレビュープロセス 39人の主なプロフェッショナル,公的,および指摘な組織と7人の連邦職員が連携するNational High Blood Pressure Education Program Coordinating Committeeによってレビューされた 専門家と公的組織,連邦職員と連携した専門家によってレビューされた.あらゆる組織からのオフィシャルなスポンサーシップはない

他の高血圧診療ガイドラインの降圧目標との比較

この表を見ると,世界の高血圧診療ガイドラインが降圧目標を以前より甘くしているのが分かります.英国NICEの高血圧診療ガイドライン(CG127,NICE2011)などは,2011年の時点で,一般人での降圧目標を140/90mmHg未満,80歳以上で150/90mmHg未満としていました.これにESH/ESC,ADAなどが次々と追従するというのが世界的な流れであることが分かります.
日本では,JSH2014で降圧目標を引き上げず,引き続き糖尿病とCKD患者では130/80mmHg未満とすることにしていますが,JSH2014作成委員長島本和明先生のコメントキャプチャ)では,「心筋梗塞の多い欧米では、厳格な降圧により心筋梗塞リスクの有意な低下が示されなかったことが重視された。しかし、日本では脳卒中発症リスクにも注目すべきで、ACOORD-BP試験でも脳卒中は強化療法群で少なく、120mmHg未満まで下げれば脳卒中リスクは約40%減るとの見方ができる。日本の実情に合った降圧目標を構築したい」との考えを示しています.しかし,この考え方は,他のどの診療ガイドラインにもありません.2013年のADAのPosition statementでも,脳卒中発症率が低いために,副作用を勘案するとより積極的な降圧は勧められないとあります.糖尿病患者における血圧管理に詳細を書きましたが,これは日本でも同じ状況であり,現時点で積極的に130/80mmHg未満にした方がいいと結論付けるのは困難だと思います.

JNC 8(米国)作成方法

ガイドライン作成委員
JNC 7では高血圧,腎臓,循環器の専門家のみで作成されていましたが,JNR 8では,高血圧(14人),プライマリ・ケア(6人),老年病(2人),循環器(2人),腎臓(3人),看護(1人),薬学(2人),臨床試験(6人),EBM(3人),疫学(1人),情報学(4人),ケアシステムの中で診療ガイドラインの開発と実施を行っている人(4人)の,総勢人48人の専門家が選ばれてパネルメンバーになりました.様々な分野に渡って人を集めたのは良いことですが,まだこれでは不十分です.診療ガイドラインを作成する際には,あらゆる利害関係者が集まってガイドラインパネルを作らないといけませんが,JNC 8の推奨作成には,患者,行政,リハビリなど大事なステークホルダーが軒並み参加していません.ただ,従来の診療ガイドラインではあまり見られなかったいわゆる高血圧診療の専門家以外のプライマリ・ケア医,看護師,薬剤師など幅広い分野のエキスパートが集められたというのは画期的です.
JNC 8ではCOIが開示されていて,17人中4人(24%)の委員が企業から謝金を受けていたとあります.ちなみにその4人は,Suzanne Oparil, MD,William C. Cushman, MD,Raymond R. Townsend, MD,Jackson T. Wright Jr., MD, PhDで,それぞれ心臓専門医,高血圧専門医,腎臓専門医,高血圧専門医です.
さらに,ガイドラインが完成した2013年1月に,外部評価として,16人の専門家(循環器,腎臓,プライマリ・ケア,薬学,臨床試験,生物統計学,その他の重要な関連領域)と5人の連邦政府機関職員が関わっています.
Clinical questions
JNC 8では,包括的な高血圧診療の推奨を示すのではなく,パネルが選んだ以下の臨床上3つの疑問に特化して診療ガイドライン作成を行いました.
1.高血圧成人において,特定の血圧閾値出降圧治療を開始することは,健康アウトカムを改善するか?
2.高血圧成人において,特定の血圧目標への降圧剤による治療で,健康アウトカムは改善するか?
3.高血圧成人において,さまざまな降圧剤や降圧剤のクラスは,特定の健康アウトカムに対して利益と害が異なるか?
エビデンスレビュー
JNC 8は,その作成にGRADE systemを用いていません.そればかりかシステマティックレビューもしていません.出版バイアスの可能性を意識しなければなりません.
18歳以上の成人を対象とした高血圧の研究に焦点を当てました.以下の予め決められたサブグループに関連する研究を集めています:糖尿病,冠動脈疾患,末梢動脈疾患,心不全,陳旧性脳卒中,慢性腎臓病(CKD),蛋白尿,高齢者,男性と女性,人種,喫煙者.サンプルサイズが100例未満の研究,1年未満しか追跡していない研究は除外しました.これはよりイベント発症数が少ないために信頼性が低くなってしまう研究を排除するという目的です(ここが,システマティックレビューの概念に反します).さらに,アウトカムとして,以下のものを検証した研究だけが採用されています.
 ・総死亡,心血管疾患(CVD)関連死亡,CKD関連死亡
 ・心筋梗塞,心不全,心不全による入院,脳卒中
 ・冠動脈血管再建術(冠動脈バイパス術,冠動脈形成術,冠動脈ステント挿入術),その他の血管再建術(頸動脈,腎動脈,下肢動脈血管再建術を含む)
 ・末期腎疾患(ESRD)(例えば透析や腎移植が行われている腎不全),クレアチニンレベルの倍加,糸球体濾過率(GFR)の半減
パネルは再読するエビデンスをRCTに限定しました.この考えはGRADE systemと共通しています.
最初の検索は,1966年1月1日〜2009年12月31日を対象に行い,その後PubMedとCINAHLを用いて2人のパネルメンバー2009年12月〜2013年8月について検索しました.その結果は,3人のパネルメンバーがレビューしました.この2回目の検索で,パネルは以下の組み入れ基準に制限しました.
 1)高血圧のメジャーな研究だった(例えばACCORD-BP,SPS3)
 2)参加者が2,000人以上だった
 3)多施設研究だった
 4)その他の全ての組み入れ/除外基準に当てはまった
選ばれた研究は,NHLBIの標準化質評価ツール(standardized quality rating tool)を用いて質が評価され,goodかfairの場合に限り組み入れられました.
外部の方法論チームが,文献レビューを行い,選ばれた論文からデータをエビデンステーブルにまとめ,エビデンスのまとめを作りました.このエビデンスレビューから,パネルはエビデンス声明を作り,各声明について同意か不同意かを投票しました.承認されたエビデンス声明について,さらにパネルはエビデンスの質について投票しました(Table 2).全ての重大な質問についてのエビデンス声明が決まった後,パネルは臨床的な推奨を作るためにエビデンス声明をレビューし,推奨文とその強さについて投票しました(Table 3).エビデンス声明と推奨の両方について,投票(反対,棄権)の記録は,無記名で行いました.パネルは可能なら100%のコンセンサスを目指しましたが,2/3以上の賛成で可決としました.ただし,専門家の意見に基づいた推奨は75%が同意すれば認めることにしました.
マイノリティーの意見
JNC 8では,マイノリティーの意見として,推奨に反論する論文が発表されています.
推奨1の糖尿病やCKDを持っていない60歳以上の高齢者での降圧目標が,140/90mmHg未満から150/90mmHg未満に引き上げられたことに反対したガイドラインパネルのマイノリティーの主張が,Ann Intern Med(Ann Intern Med. 2014;160(7):499)に掲載された.150/90mmHg未満にするのを支持する明確なエビデンスがないからだとしている.このマイノリティーだった人たちは,高血圧専門医,腎臓専門医,循環器専門医だった.
明確なエビデンスがないからより積極的に治療するのか,エビデンスがないからより治療には保守的になるのか,スタンスの違いとも言える.マイノリティーの意見もこうやって公開されることは,密室になりがちなガイドラインパネル会議の透明性を確保するためにも重要である.
ただ,マイノリティーも80歳以上では150/90mmHg未満にすることには同意しており,これは,欧州ESH/ESCガイドライン,カナダCHEPガイドライン,米国ACC/AHAガイドライン,英国NICEガイドライン,米国ASH/ISHガイドラインとも共通するとの主張だ.
なお,Ann Intern Medに掲載された論文の筆頭著者のJackson T. Wright Jr., MD, PhDが高血圧専門医であり,ガイドラインパネル17人中企業から謝金を受けていた4人の1人であることが,COI開示で示されていることにも注意.

JNC 8(米国)におけるエビデンスの質と推奨の強さ

JNC 8におけるエビデンスの質の分類基準(GRADE systemとはエビデンスの質の評価基準が異なるので注意)


JNC 8における推奨の強さ(GRADE systemによる推奨の強さとは違うので注意)

JNC 8の限界

JNC 8にはいくつかの限界があります.本文中で指摘されているのは,以下の点です.
まず,包括的な診療ガイドラインになっておらず,3つのCliical Questionに限定して推奨文が付けられています.
さらに,エビデンスレビューには,観察研究,システマティックレビュー,メタアナリシスが含まれていませんし,パネルがメタアナリシスをしているわけでもありません.
JNC 8では,血圧が正常な患者の研究は排除されているので,血圧が正常な患者には,これらの推奨を当てはめることはできません.

謝辞

JNC 8の内容解説にあたっては,MD Anderson Cancer Centerの佐々木宏治先生に訳語などのチェックをしていただきました.この場を借りて感謝いたします.

 血圧測定の方法

血圧の測定回数 (項目新設,2014/2/20,最終更新2014/2/20)

日本高血圧学会の高血圧治療ガイドライン(JSH)2014(案)では,「1日2回朝晩の測定で,1機会に原則2回の測定とし,平均値をその機会の血圧値として用いる」というように定めています.
1機会の血圧の測定回数については,特に1回目の血圧値とそれ以降の値の落差が大きく,回数を増やす毎に平均値の変動が小さくなり,ほとんど変わらなくなるまでには4〜6回以上の測定が必要という研究結果(Ann Intern Med 2011;154:781)があります.Figure 1では,Research SBP variance(研究施設で測定した収縮期血圧変動),Clinic SBP variance(診察室で測定した収縮期血圧変動),Home SB variance(自宅で測定した収縮期血圧変動)の順に変動が小さくなることが分かります.
この論文では結論として5回以上測定した平均値を測定するように推奨していますが,さすがに現実的ではありませんし,真面目で神経質な傾向にある日本人は,かえって測定するごとに不安になって血圧の値が上昇してしまうかもしれません.
個人的には1機会の血圧測定は,3回程度行うのがよいと思っています.また平均値ではなくて,低い方の値を採用して記録してもらっています.これは1回目の測定値が他よりも著しく高くなってしまうことが多いため,平均値では1回目の値に引きずられて高めに出てしまうおそれがあるからです.血圧値は見かけ上高い値が出ることは多くても,低い値が出ることはそれほど多くない印象です.患者によっては1回目の血圧値がそれ以降とさほど変わらないですが,そのような場合は1機会1回測定だけでも良いでしょう.朝と晩の血圧値にあまり違いがない場合には,朝1回の測定だけでも良いと思います.

血圧測定の方法のまとめ

項目 内容
測定環境 静かで適当な室温で
椅子に座ってリラックスして
足を組まずに,話をせずに
測定条件 起床後1時間以内に
排尿後に
薬を飲まずに
朝食前に
1〜2分安静にして
測定回数 1日2回朝夜(朝1回でも可)
1機会の測定は2〜3回(変動が少ない場合は1回でも可)
安定していれば,毎日測定でなくても良い
不安定の場合は,毎日測定する
評価 複数回測定した場合は一番低い値(ガイドラインでは平均値)
高血圧:135/85mmHg以上
正常高値血圧:125/80mmHg〜135/85mmHg
正常血圧:125/80mmHg未満

 本態性高血圧症

降圧剤の選び方 (項目新設2014/1/14,最終更新2014/3/6)

本邦の高血圧治療ガイドライン2009(JSH2009)英国NICEの高血圧診療ガイドライン(CG127,NICE2011)米国のJNC8(米国高血圧合同委員会第8次報告)を参考に,管理者が考えた降圧剤の選び方のアルゴリズムを以下に示します.

降圧利尿薬はどれを選ぶか (項目新設2016/2/12)

降圧利尿薬の種類

降圧利尿薬はチアジド系利尿薬とチアジド系類似薬に分かれます.

一般名  商品名  規格  薬価
チアジド系利尿薬   トリクロルメチアジド  フルイトラン(R)  1mg  9.6円/6円
ヒドロクロロチアジドHCTZ   先発品販売中止,後発品ニュートライド(R)など  12.5mg  5.6円
チアジド系類似薬  インダパミド ナトリックス(R)   1mg  12円
クロルタリドンCTD ハイグロトン(R),国内販売中止  25mg  

チアジド系類似薬のほうが,チアジド系利尿薬よりも若干降圧効果が大きいとされ,2014年のコクランレビュー(Cochrane Database Syst Rev. 2014 May 29;5:CD003824)の結果では,以下のようになっています.

一般名  規格  降圧効果
チアジド系利尿薬  ヒドロクロロチアジドHCTZ   12.5mg -6.27mg(-7.24〜-5.31)
チアジド系類似薬   インダパミド  1mg  -8.69mg(-9.96〜-7.42)
クロルタリドンCTD 25mg -13.64mg(-16.03〜-11.25) 

なお,降圧効果に用量依存性は見られません.

チアジド系利尿剤とチアジド系類似薬のどちらを選ぶべきか?

世界最大規模の高血圧初期治療研究であるALLHAT試験では利尿薬にはクロルタリドンが使用されましたが,クロルタリドンはHCTZの1.5〜2倍効果が持続するとされています.そして,HCTZは心血管イベントを予防することがRCTで証明できていません.もしかしたら,降圧効果が弱いことが関係しているかもしれません.
ですから,本来はチアジド系類似薬であるクロルタリドンを使用したいのですが,国内では販売中止になってしまいましたので,代わりに同じチアジド系類似薬であるインダパミドを使いたいと考えるのは自然です.

降圧目標の達成を考えた場合にはナトリックス1mgを処方することはリーズナブルかもしれず,そこにこだわっている医師もいるようですが,私は個人的には誤差範囲だと思うのでどちらでもいいと思います.当院では院内採用薬であるフルイトラン(R)1mgを使用しています.
実際に,コホート研究ではありますが,クロルタリドンとHCTZは心血管死亡と入院が同等であるという結果が出ています(Ann Intern Med 2013 Mar 19;158(6):447).そして,そのほうがより安価です.

一般的にJNC8にも示されているように,降圧剤は臨床試験で用いられた用量を使用することが効果を得るために重要です.利尿薬以外の降圧薬は国内の添付文書用量の最大容量まで増量するべきですが,利尿剤は用量依存性ではなく増量により副作用が増えるおそれがあるので,少量で使用します.フルイトラン(R) 1〜2mgまで,HCTZ 12.5〜25mgまで,ナトリックス(R) 1〜2mgまでです.

ABRを第一選択にしない理由 (項目新設2014/3/6)

エビデンス

BMJ 2013;347:f6008

脳卒中急性期の血圧管理 (項目新設2010/1/14,最終更新2014/10/30)

脳卒中急性期の血圧管理についての,脳卒中治療ガイドライン2009での推奨
脳卒中急性期の血圧管理
[推奨]
1.脳卒中発症直後の高血圧に対する管理は,高血圧性能症,くも膜下出血が強く疑われる場合以外は病型診断が確定してから行って良い.また降圧薬を使用する前に,痛み,嘔気,膀胱の充満などにより血圧が上昇しているのではないかを検討すべきである.一方,著しい低血圧(ショック)は輸液,症圧薬などで速やかに是正すべきである(グレードC1)
2.脳梗塞急性期では,収縮期血圧>220mmHgまたは拡張期血圧>120mmHgの高血圧が持続する場合や,大動脈解離・急性心筋梗塞・心不全・腎不全などを合併している場合に限り,慎重な降圧療法が推奨される(グレードC1)
3.血栓溶解療法を予定する患者では,収縮期血圧>185mmHgまたは拡張期血圧>110mmHg以上の場合に,静脈投与による降圧療法が推奨される(グレードB).

以上のように,超急性期の血圧管理については,原則として収縮期血圧>220mmHgの場合に限り降圧をするように推奨されています.

一方,慢性期の血圧管理については,以下のように推奨されています.

脳梗塞慢性期の血圧管理
[推奨]
脳梗塞の再発予防では,降圧療法が推奨される.目標とする血圧レベルは少なくとも140/90mmHg未満とする(グレードA).

しかし,驚くべきことに慢性期の定義が書かれておらず,いつからを慢性期として考えればよいのか不明である.

脳卒中急性期の血圧管理についての,高血圧治療ガイドライン2009での推奨

高血圧治療ガイドライン2009での,脳卒中超急性期の血圧管理についての推奨は,”表6-1.脳血管障害を合併する高血圧の治療”にあり,以下のようになっています.

降圧治療対象 降圧目標 降圧薬
超急性期
(発症3時間以内)
血栓溶解療法予定患者
SBP>185mmHgまたは,
DBP>110mmHg
血栓溶解療法予定患者
≦185/110mmHg
血栓溶解療法開始後
(少なくとも24時間)
<180/105mmHg
ニカルジピン,ジルチアゼム
ニトログリセリンやニトロプルシドの微量点滴静注
急性期
(発症1-2週間以内)
脳梗塞 SBP>220mmHgまたは,
DBP>120mmHg
前値の85-90% ニカルジピン,ジルチアゼム
ニトログリセリンやニトロプルシドの微量点滴静注*1*2
脳出血 SBP>180mmHgまたは,
MBP>130mmHg
前値の80%
慢性期(発症1ヶ月以降)*3 <140/90mmHg
(治療開始1-3ヶ月)*4
Ca拮抗薬,ACE阻害薬,
ARB,利尿剤など*5
*1 頭蓋内圧を上昇させる危険に注意.
*2 ニフェジピンの舌下投与は急激な血圧低下を引き起こす危険があるので用いない.
*3 急性期治療が終了する1-2週後から開始することもある.
*4 両側頚動脈高度狭窄,脳主幹動脈閉塞の場合は特に下げすぎに注意.ラクナ梗塞や脳出血では,140/90mmHgよりさらに低い降圧目標とする.
*5 糖尿病や心房細動合併患者ではARB,ACE阻害薬を用いる.

脳卒中急性期の血圧管理についての,AHA/ASA(米国心臓学会/米国脳卒中学会)での推奨

AHA/ASA:Guidelines for the Early Management of Adults With Ischemic Stroke(Stroke 2007;38:1655):2007年4月版には,急性期治療における血圧管理については,以下のように推奨されています.

ClassT Recommendation(抜粋)
5.高血圧のマネージメントについては,なお議論が残る.治療の推奨を導くデータはバラバラであり,結論づけられない.多くの患者では,脳卒中発症の最初の24時間で自然に血圧が下がる.より確実なデータがもたらされるまで,高血圧治療には慎重なアプローチをすべきことが推奨されるというのは一般的に同意できる(ClassT,Level of Evidence C).積極的な血圧治療が必要な他の医学的適応がある患者では,治療すべきである.この推奨は以前のガイドラインから変わっていない
8.血圧が著しく上昇している患者で降圧することは一般的に同意されるだろう.合理的なゴールは脳卒中発症後始めの24時間で15%までの降圧である.どれくらいで降圧すべきかはよく分かっていないが,収縮期血圧>220mmHgまたは拡張期血圧>120mmHg出ない限り,薬物療法は差し控えるべきであるというコンセンサスがある(ClassT,Level of Evidence C).この推奨は前回のガイドラインから変わっており,降圧のゴールについて新しく加えられた.脳卒中後の高血圧の早期治療の効果を検証する研究が現在行われている.パネルは,この管理判断をはっきりさせるためのあらゆるデータを待っている.

ClassU Recommendations(抜粋)
1.急性虚血性脳卒中で降圧薬の選び方を推奨するだけのデータがない(ClassUa,Level of Evidence C).Table 10にある推奨は以前のガイドラインから変わった
2.1件の臨床試験のエビデンスでは,脳卒中発症24時間以内の降圧薬導入は比較的安全としている.したがって,もともと高血圧があり,神経学的に安定していいて,降圧剤を再開することに特別な禁忌がない患者では,24時間以内に降圧薬を再開することは,一般的に同意される(ClassUa,Level of Evidence B).
本邦のガイドラインと違い,神経学的に安定していれば,入院前に行っていた降圧療法の薬剤を,脳卒中発症後24時間以内に始めて良いとはっきり記載されています.
ただ,問題は,「神経学的に安定している」というのがどういう状態を指すのかということです.
一般的には,特にアテローム性脳梗塞では階段状の病状の進行を来すことがあるため,発症から2〜3日経過を観察しないと病状が安定しているかどうか分かりません.
ということは,事実上,発症後24時間以内に降圧剤を再開するというのは不可能に近いのではないかと思われるわけです.

脳卒中急性期の血圧管理についての,ESO(欧州脳卒中機構)での推奨

ESO:Guidelines for Management of Ischaemic Stroke and Transient Ischaemic Attack 2008(Cerebrovasc Dis 2008;25:457):2008年5月版には,急性期治療における血圧管理については,以下のように推奨されています.
一般的な脳卒中治療
Recommendations(抜粋)
・ルーチンで行う降圧は急性脳梗塞では推奨されない(ClassW,GCP)
・繰り返し測定しても血圧が極めて高い(>220/120mmHg)場合や,重症心不全,大動脈解離,高血圧性脳症を合併している場合には注意深く降圧することが推奨される(ClassW,GCP)
・急激な降圧は避けることが推奨されている(ClassU,Level C)
その解説の本文中には,以下のように記載されています.
血圧管理(抜粋)
脳卒中管理における血圧モニタリングと治療は議論の分かれる領域である.脳梗塞後最初の24時間の血圧が最も高いまたは低い患者では,早期に神経学的に悪化し,予後が悪い[367].(中略)幾つかの進行中の研究では,急性脳卒中後に血圧を下げるべきか,そして脳卒中後の最初の数日間,降圧療法を続けるべきか中止すべきかを検討している[371,372].
371: COSSACS investigators: COSSACS (Continue or Stop post-Stroke Antihypertensives Collaborative Study): rationale and design. J hypertens 2005;23:455-458.
372: The ENOS Trial Investgators: Glyceryl trinitrate vs. control and continuing vs. stopping temporarily prior antihypertensive therapy, in acute stroke: rationale and design of the Efficacy of Nitric Oxide in Stroke (ENOS) trial. Int J Stroke 2006;1:245-249.
ESOの推奨では,入院前に服用していた降圧剤を継続すべきか否かについてのスタンスが示されていませんでした.
COSSACSとENOSの結果は,2010.1.16の時点でまだ公表されていませんでした(後述).

入院前に内服していた降圧剤は,脳卒中急性期に継続するべきか,中止するべきか

私たち非専門医が実際に診療をしているときに抱く素朴な疑問は,入院前に内服していた降圧剤を,脳卒中急性期の入院後に継続内服して良いのか,あるいは一旦休薬すべきなのか,ということです.
残念ながら,本邦の脳卒中治療ガイドライン2009にも,高血圧治療ガイドライン2009にも,入院前に内服していた降圧剤の継続の可否については記載がありません.
記載がないと,いよいよどうしていいのか分からなくなってしまい,ガイドラインの意味がありません.

しかし,AHA/ASA:Guidelines for the Early Management of Adults With Ischemic Stroke:2007年4月版には,入院前に行っていた降圧療法の薬剤を脳卒中発症後24時間以内に始めて良いとあります.
その理由については記載がありませんが,一般的に脳梗塞急性期には血圧が一時的に上昇するので,それまで降圧剤を内服していた患者が脳卒中急性期に降圧剤を休薬してしまうと,さらに上昇することが予想されます.

2010年7月にCOSSACSの結果が発表されました(Lancet Neurol 2010;9:767).英国の他施設PROBE研究で,発症48時間以内の脳卒中患者で以前より服薬している降圧剤をそのまま継続するのと,2週間中止するのとを比較した研究でした.血圧差は収縮期血圧が13mmHg(95%CI 10〜17),拡張期血圧が8mmHg(95%CI 6〜10)で優位に下がりましたが,primary endpoitである2週間後の死亡と寝たきり(mRS≧3)はRR 0.86(95%CI 0.65〜1.14,p=0.3)で有意差はありませんでした.ただし,この研究では,ベースラインの血圧の平均が149/80mmHgとそれほど高くない患者集団でした.

そして,2014年10月にENOSの結果が発表されました(Lancet 2014 Oct 22).この研究は多施設共同研究で,partial -factorial trialというRCTです.これは,血圧上昇を伴う急性脳卒中で入院した患者を対象に,ニトログリセリン貼付剤を使用するか否かと,もともと降圧剤を飲んでいた患者を対象に,その降圧剤を継続するか中止するかという2つの介入について同時に調べたという研究デザインです.
主要エンドポイントである90日後の機能予後他,全てのアウトカムでニトログリセリン貼付剤の使用は有意な改善を示しませんでした(Table 3).この研究でのベースラインの血圧の平均は167(SD 19)/90(13)mmHgと,現在の降圧治療開始基準(脳梗塞で220/120mmHg以上,脳出血で180/130mmHg以上)から比べると,やはりそれほど高くない患者集団でした.ニトログリセリンを貼付した群でも,1日目の降圧は良好でも,7日目になると貼付していない群とほとんど血圧低下度が変わらなくなるという興味深い結果でした.脳梗塞急性期には一過性に血圧が高くなりますから,高くなった時期だけ降圧作用があり,耐性を生じた頃に自然に血圧が落ち着いてくるとすれば,血圧を一定に保つ作用としては,他の種類の降圧剤よりもリーズナブルな選択になるかもしれません.

ベースラインの血圧の高さに関して,ニトロ比較でのサブ解析(Figure 3)では,収縮期血圧が200mmHg以上ではニトロを使った方がいいという結果です.ですから,もっと血圧が高い集団だけを選んで試験を行ったら,いい結果が出たかもしれません.実は,それより大事なのは,もっと血圧が低い人達では害が出るだろうと予想されることなのですが,この研究では160mmHg未満で一括りにされてしまっているのが残念です.症例数の分布を見ても,この層をもっと細かく分けてサブ解析しても良かったのではないかと思います.


Figure 3: Subgroup analysis of eff ects on functional outcome at 90 days for glyceryl trinitrate versus no glyceryl trinitrate より抜粋

一方,もともと服用していた降圧剤を中止することでも,継続して服用した場合と比較して,主要エンドポイントに有意な差はありませんでしたが,院内死亡や施設への転院が有意に減り(OR 0.76,95%CI 0.62〜0.93,p=0.008),また機能予後も悪化しました.しかし,服用を継続した群でも,服薬困難などの問題があり,実際に継続できたのは70.9%に留まりました.嚥下障害などで服薬できない人でも,経鼻胃管を挿入するなどしてちゃんと服薬できていたら,結果に差が生じた可能性はあります.継続群の方が寝たきりや認知機能の悪化が増えるという結果ですが,この患者集団でのベースラインの比較がないので,もともとの背景因子の違いがある可能性が否定できません.とても気になります.
意外だったのは,継続中止比較のサブ解析(Web Figure 3)で,こちらは先ほどと違って血圧が高いほど継続が有益とはなっていない点です.基本的に血圧とイベント発症の関係は緩やかなJ curveを取ると考えられるので,この結果はちょっと解釈に苦しみます.


Web Figure 3. Functional outcome in pre-specified subgroups: continue versus 27 stop pre-stroke antihypertensive drugs.

もう1つ,継続群の服用降圧剤でβ遮断薬が3割位入っているのはちょっと多いです.この研究では,降圧剤は1〜2剤使用が全患者の3/4を占めるので,これでは積極的にβ遮断薬が選ばれていると思います.近年β遮断薬は死亡率を増やす可能性があるとして降圧治療の第一選択から外れましたが,本試験ではβ遮断薬を服用している患者が多かったことが,結果を悪くした可能性はあるという推測も成り立ちます.

いずれにしても,個人的には,COSSACSとENOSの結果からは既存の診療ガイドラインの記載の通り,脳卒中急性期には,脳梗塞ならば収縮期血圧220mmHg以上,脳出血ならば180mmHg以上で15%程度の降圧(脳梗塞ならば200mmHg程度以下に,脳出血ならば150mmHg程度以下にしない)に留めることに変わりはありません.使用する降圧剤は,切れ味のいいカルシウム拮抗薬微量持続点滴にします.それとは別に,病状が進行中であればもともと内服していた降圧剤は中止,病状が安定していればもともと内服していた降圧剤は継続とするのが良いと思われます・そして,慢性期に新たな降圧剤を開始する場合は,ACE阻害薬を第一選択にします.

脳卒中急性期に,血圧コントロールのために新たに降圧薬の内服を始める場合は,いつから開始すべきか

さて,脳卒中治療ガイドライン2009,高血圧治療ガイドライン2009,AHA/ASA,ESOと,国内外の脳卒中関連ガイドラインにおける血圧コントロールについての記載を概観してきました.
では,一体,脳卒中急性期の血圧コントロールをどうすればいいのでしょうか.

高血圧治療ガイドライン2009での脳卒中超急性期の血圧管理の項には,”降圧薬治療は,通常発症1ヶ月以降の慢性期から開始する.しかし,急性期治療が終了する1-2週間後から開始する場合もある.降圧目標は,年齢などを考慮しながら,治療開始後1-3ヶ月かけて徐々に降圧することが重要”,と書かれています.
つまり,脳卒中急性期の発症1ヶ月後からの降圧治療の開始が原則だが,1週間後以降であれば開始してもよい,と解釈できます.
その3週間の幅は大きいような気がしますが,どのような場合に降圧開始を早めるべきなのか,ガイドラインを見ても分からない(ガイドしてくれない)というのは,非専門医からすれば,何とも頼りないところです.

ところで,ここで問題になるのは,脳卒中の入院期間は,通常2-4週間であることが多いことです.
仮に,発症1ヶ月以上経ってから降圧治療を開始しようとすると,退院後になるので治療開始が遅れる,あるいは最悪の場合治療しそびれる可能性もあります.
これは,特に主治医が変わった場合に頻発すると考えられます.
したがって,現実的には,新規の降圧剤は発症から1週間後以降の退院直前から開始するというところでしょう.

なお,本邦でも,脳卒中治療ガイドライン2009の脳卒中超急性期の血圧管理のエビデンスの項に以下のような記載があります.

●エビデンス
(中略)
脳梗塞発症後1日目からと,7日以降からアンギオテンシンUタイプT受容体拮抗薬であるカンデサルタンを投与した群を比較したACCESS studyでは,1日後から投与した群の方が12ヶ月後の死亡率と血管イベントを有意に低下させた.しかし7日目までの期間に置いても両群における血圧に差はなかった9)(Tb).
9) Schrader J, Luders S, Kulschewski A, Berger J, Zidek W, Treib J, et al. The ACCESS Study: evaluation of Acute Candesartan Cilexetil Therapy in Stroke Survivors. Stroke 2003;34:1699-1703
これは,ARBは内服を開始しても降圧効果を発現するのに時間がかかるので,急性期から開始しても特に支障はないということを意味しています.
本研究にARBが用いられているというのがイマイチですが,ACE阻害薬でも同じ機序が考えられるので,入院後早期に降圧治療を開始することも許されるかも知れません.
ただ,まだこの1件の研究でしか検証されていないので,現時点で発症早期から新たに降圧剤を追加するというのは,勇み足だと思われます.
また,カルシウム拮抗薬はACE-I/ARBよりも降圧効果の発現が速いので,入院後早期に降圧治療を開始する場合の選択薬としては,避けるべきでしょう.

脳卒中急性期の血圧管理についての結論

脳梗塞急性期には,それまで内服していた降圧剤は3日程度休薬して病状が悪化しないことを確認してから再開し,新たな降圧薬は,発症から2週間後以降(どんなに早くても1週間以降)に開始するのが良いと思われます.その場合,嚥下障害による肺炎の予防効果も期待して,ACE阻害薬を第一選択とします.

糖尿患者の血圧管理 (最終更新2014/1/12)

脳卒中急性期の血圧管理についての,脳卒中治療ガイドライン2009での推奨

日本高血圧学会 高血圧治療ガイドライン2009(JSH2009)での,糖尿病患者での血圧管理についての推奨は,以下の通りです.

第7章 他疾患を合併する高血圧
POINT 7a
【糖尿病】
1.糖尿病合併高血圧の降圧目標は130/80mmHg未満とする。
2.糖尿病合併高血圧患者における降圧薬選択に際しては,糖・脂質代謝への影響と合併症予防効果の両面より,ACE阻害薬,ARBが第一選択薬として推奨され,血圧管理にCa拮抗薬,少量のサイアザイド系利尿薬が併用される。また,労作性狭心症や陳旧性心筋梗塞合併例では,β遮断薬も心保護作用を有し,血圧管理に使用可能である。

以上のように,糖尿病患者では,血圧は130/80mmHg未満にコントロールするように推奨されています.
しかし,この基準には根拠がありません.

ところが,発症8年の糖尿病患者に対する厳格な血糖コントロールで死亡率が上昇する可能性があるという結果を示したACCORD試験と同時に,血圧管理のACCORD blood-pressure trial(ACCORD-BP)(N Engl J Med 2010;362:1575)が行われました.この研究は平均追跡期間4.7年間で,非致死性心筋梗塞,非致死性脳卒中,心血管死の複合アウトカムが,収縮期血圧を120mmHg未満に管理すると年率1.87%,140mmHg未満に管理すると年率2.09%と,HR 0.88(95%CI 0.73〜1.06)で有意差がなかった.総死亡も,1.28%と1.19%と,有意差がないもののHR 1.07(95%CI 0.85〜1.35)と上昇する可能性がありました.脳卒中に限定すると,年間発症率は0.32%と0.53%で,HR 0.59(95%CI 0.39〜0.89)と有意に減少しました.したがって,2型糖尿病患者で血圧を厳格にコントロールする目的は,脳卒中の予防のみということになります.

さらに,2012年に後ろ向きコホート研究(BMJ 2012;345:e5567)が発表されました.これは,126,092人の18歳以上の新規発症2型糖尿病患者を対照としたイギリスの研究で,平均3.5年間の追跡で20.2%が死亡し,血圧を130/80mmHg未満にコントロールした患者では生存率の改善と関連がなかったとの結果でした.むしろ,低い血圧は総死亡のリスクを増やすことと関連していました.収縮期血圧が130〜139mmHgでコントロールされていた患者を基準とすると,110mmHgでコントロールされていた患者の総死亡リスクはHR 2.79(95%CI 1.74〜4.48)と有意に上昇していました.

これらの結果を踏まえて,2013年年1月の米国糖尿病学会(ADA)の糖尿病治療のPosition statementでは,糖尿病合併高血圧患者の降圧目標値を140/80mmHgに引き上げました.
ACCORD-BPの結果からすると,脳卒中予防効果を期待して収縮期血圧を120mmHg未満にするのが望ましいことになりますが,ACCORD-BPでの脳卒中発症率は年間0.53%から0.31%に減るというものでした.ADAのPosition statementの中では,ACCORD-BPでの脳卒中予防のNNTは5年で89(1年では455),それに対して失神や高カリウム血症といった重大な副作用の発症が1.3%から3.3%に有意に増加し,こちらのNNHは5年で50と脳卒中予防効果よりも大きくなってしまうため,リスクベネフィットを考えた時には下げすぎるのは望ましくないという結論に達しました.また,2012年に発表された2型糖尿病患者での血圧管理のメタアナリシス(Arch Intern Med 2012;172:1296)でも,脳卒中を35%有意に減らすとされましたが,脳卒中発症率がわずか1%であり,メリットが大きくないとされました.収縮期血圧130〜139mmHgの日本人の脳卒中発症率は,久山町研究(Arch Intern Med 2003;163:361)では1000人年対12.5なので,年間1.25%と言えます.先の年間0.53%と比較すると確かに日本人の方が脳卒中発症率が高いですが,降圧療法による効果がACCORD-BPの結果からRR=0.31/0.53=0.61とすると,降圧することにより年間1.25%から年間0.76%になり,NNTにすると1年で435人になります.この集団は糖尿病患者と非糖尿病患者の両方を含んでいるので,糖尿病患者での発症率そのものはこの数値よりも高いはずですが,それでも副作用の発症率からは十分低いといえます.また,久山町研究のグラフを見ると,収縮期血圧130mmHg未満と130〜139mmHgとでは脳梗塞発症率に大きな違いはないと推測されます.したがって,日本人の脳卒中発症率が高いことを理由に降圧目標を140mmHg未満でなく,わざわざ130mmHg未満に下げるのは,費用対効果を考えると正しくないことが分かります.
久山町研究における血圧別脳卒中発症率(Arch Intern Med 2003;163:361
また欧州糖尿病学会(EASD)も,治療開始血圧と降圧目標を140mmHg(拡張期血圧)に引き上げました.改訂が予定されている欧州高血圧学会/欧州心臓病学会(ESH/ESC)ガイドラインでも降圧目標値の緩和に動くとみられており,降圧目標を緩和する動きは広がっています.
以上より,2型糖尿病患者における血圧管理は140/90mmHg未満を目標に行うことが望ましく,(日本の)診療ガイドライン通りに行う場合でも,血圧が低くなり過ぎないように注意するべきだと思います.

 二次性高血圧症

原発性アルドステロン症 (項目新設2009/10/3,最終更新2014/1/15)

全高血圧患者の約5%が原発性アルドステロン症というのだから,無視できるほど少ないわけではありません.かといって,高血圧初診時に全例レニン,アルドステロンを測定するというのは,事前割合の高い大学病院や内分泌科など一部の専門病院でない限りやりすぎでしょう.全例で抗アルドステロン薬を使わないと血圧コントロールができないわけではないですし,通常本態性高血圧症で用いる降圧剤で血圧コントロールができれば,治療は何ら変わりありません.
もし,原発性アルドステロン症と診断をして治療をする必要があるとすると,疑うべき状態としては,以下のようなものが挙げられます.
  • 疑うべき病態
    • 40歳以下で発症
    • 治療抵抗性(ただし,スピノロラクトンはよく効く)
    • 急激に血圧コントロールが悪化
    • 低カリウム血症(K<3.0mEq/L):ただし,原発性アルドステロン症でもしばしばK 3.5〜4.0であり,血清カリウム値が基準範囲内でも否定にはならない
  • 検査
    • 日本内分泌学会(JES)が2010年に改訂した原発性アルドステロン症の診断治療ガイドラインでの基準
      PAC/PRA比(aldosteron rennin ratio; ARR)
      血漿アルドステロン濃度(PAC)と血漿レニン活性(PRA)の比
      PAC(pg/mL)/PRA>200
    • 以下のような基準もあります.
      PAC(ng/dL)/PRA>20,PAC(ng/dL)>12かつPRA<1でスクリーニング
      ※PAC(ng/dL)/PRA>20 は PAC(pg/mL)/PRA>200 と同じ
      血清カリウム単独,血漿アルドステロン単独より感度が高く,血漿レニン活性単独よりも特異度が高いとする論文がある.
      感度・特異度,尤度比は以下の通り.
      これらの研究では,原発性アルドステロン症の診断基準は,PRA<1.0ng/mL/hかつ尿中Ald>12microg/24hかつ尿中ナトリウム分泌高値(>200mEq/24h)だった.
感度 特異度 陽性尤度比 陰性尤度比 文献
PAC(ng/dL)/PRA > 20ml/dl・hr(未治療) 78 83 4.6 0.27  Am J Hypertens 2005;18:805 
PAC(ng/dL)/PRA > 14.9ml/dl・hr(未治療) 87 75 3.4 0.18 Clin Chem 2005;51:386 
PAC(ng/dL)/PRA > 12.4ml/dl・hr(治療中) 73 74 2.8 0.36 Clin Chem 2005;51:386 
※PAC(ng/dL)/PRA>20 は PAC(pg/mL)/PRA>200 と同じ
※nifedipineなどのdihgydropyridine系カルシウム拮抗薬使用下では,高レニン低アルドステロンとなるので,PAC/PRA比が低くなる(J Clin Endocrinol Metab 1997;82:457).
したがって,dihgydropyridine系カルシウム拮抗薬使用下でのアルドステロン症の診断のためには,休薬して2週間後に測定する必要がある.
日本内分泌学会 原発性アルドステロン症診断治療ガイドライン−2009−の2010.4改訂(一般医家向け)では,以下の手順で原発性アルドステロン症を診断するよう推奨している(以下,抜粋).

1)PAC・PRA同時測定
 採血姿勢は坐位でも良いが,可能であれば採血30分以上前から安静臥位がよい.
 (1)PAC:血漿アルドステロン濃度(pg/ml)
   (単位に留意:ng/dl表示の際は,10倍でpg/dml表示の数値となる)
 (2)PRA:血漿レニン活性(ng/ml/hr)
2)薬剤変更
 利尿薬,アルドステロン拮抗薬やβ遮断薬を使用中の場合は,血圧に注意しつつ他の降圧薬に変更し,PAC/PRA測定を行う
 (利尿薬,アルドステロン拮抗薬は6週間以上,β遮断薬は2週間以上前に中止する).
 他の降圧薬とは以下に示すもの.
 (1)ブトララジン(ブテラジン(R))
 (2)α遮断薬:ドキサゾシン(カルデナリン(R))など
 (3)Ca拮抗薬
3)PAC/PRA比>200で専門医療機関へ紹介
 カプトプリル負荷試験を行う場合は,以下の手順で行う.
 (1)カプトプリル50mg(カプトリル(R) 12.5mg 4錠)服用
 (2)安静臥位(または坐位)を保ち,60(90)分後に採血
 (3)判定:服用後のPAC/PRA比>200を陽性と判定(またはPAC<120pg/mlも陽性と判定)

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