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なんごろく−呼吸器

抜管基準 (最終更新2009/8/11)
気管支喘息ガイドライン (最終更新2009/10/31)
肺炎を疑ったときにレントゲンを撮るかどうか決める方法 (最終更新2012/9/22)
肺炎球菌ワクチンでは長生きできないし,多くの場合で肺炎を減らせない (最終更新2010/3/12)
抗コリン薬の吸入は慎重に適応を考慮するべき (最終更新2012/9/14)

 人工呼吸器

抜管基準 (項目新設2009/8/11)

・意識状態: 名前を呼ばれて開眼し,指示に従える
・気道狭窄: 口腔,咽頭,喉頭に気道狭窄の原因となる浮腫がないと考えられること
・気道分泌物: 気道分泌物が少量で,自力で咳込めること
・酸素化: PaO2>88mmHg(FiO2<0.35)
・呼吸数: 早く浅い呼吸をしていないこと.RR(/min)/VT(L)<100

 気管支喘息

気管支喘息ガイドライン (項目新設2009/10/31)

複雑なので,整理します.
国内
・日本アレルギー学会喘息ガイドライン専門部会作成.喘息予防・管理ガイドライン 2006 (JGL2006):非公開,書籍を購入
・日本アレルギー協会.一般臨床医のための喘息治療ガイドライン2007:JGL2006を基にした一般医向け,無料公開
・厚生科学研究宮本班作成.EBMに基づいた喘息治療ガイドライン2004(JGL-EBM)Mindsで無料公開
海外
GINA(国際喘息指針).GINA Report, Global Strategy for Asthma Management and Prevention:2008年12月版,無料公開
                Pocket Guide for Asthma Management and Prevention:2008年12月版,上記の簡易版,無料公開
NHLBI(米国国立心肺血液研究所).Expert Panel Report 3 (EPR3): Guidelines for the Diagnosis and Management of Asthma:2007年8月,無料公開
SIGN(Scottish Intercollegiate Guidelines Network).British Guideline on the Managemento fo Asthma:2009年7月改訂,無料公開

 肺炎

診断

肺炎を疑ったときにレントゲンを撮るかどうか決める方法 (項目新設2009/7/16,最終更新2012/9/22)

Heckerling scoreAnn Intern Med 1990;113:664
救急外来で少しでも肺炎を疑ったらレントゲンを撮りますが,普通の外来では,何とかレントゲンを撮らないで肺炎を除外できないか頑張ってみたくなります.
そんなときに便利なのはHeckerling scoreですが,事前確率が5%なら,以下のような事後確率になります.

肺炎診断スコア(事前確率5%)

所見

項目数

LR

肺炎の事後確率

体温37.8
心拍数100/
水泡音
呼吸音減弱
喘息の既往なし

0

0.19

1%

1

0.19

1%

2

0.59

3%

3

2.1

10%

4

6.3

25%

5

19

50%

2点以下では肺炎の事後確率は低いので,胸部単純レントゲンは不要.
3点以上の場合は否定しきれないので,胸部単純レントゲンを撮る.
高齢者(70歳以上)では,事前確率が高くなるので,2点でもレントゲンを撮る.
というのが,私のスタンスです.
今日もプリセプターをした外来で,水泡音と喘息の既往なしでHeckerling score 2点の76歳男性に研修医がレントゲンを撮りますというので撮ったところ,見事肺炎を見つけました.
76歳くらいだと,事前確率20%位なのでしょうか,2点なら事後確率15%ですね.
そりゃ,レントゲン撮りますわな.

Heckerling score計算ツールです.

予防

肺炎球菌ワクチンでは長生きできないし,多くの場合で肺炎を減らせない (項目新設2011/11/1)
ここで話をするのは成人の肺炎予防目的で接種する23価肺炎球菌ワクチン(PPSV23,ニューモバックス(R))の話であり,小児の話は分けて考えなければなならい事を最初に断っておきます.
日本で23価肺炎球菌ワクチン「ニューモバックス(R)」が発売されたのは1989年です.
「肺炎による死亡率低減のために,私たちにできること」と銘打って,「肺炎予防推進プロジェクト」というプロジェクトがあります.俳優の中尾彬さんと女優の加賀まりこさんを肺炎予防大使に据え,肺炎球菌ワクチンを啓蒙するキャンペーンです.協賛企業として,製薬会社であるMSD,医療従事者生涯教育支援会社であるCareNetなどが名を連ねています.
では,肺炎球菌ワクチンは接種した方がいいのでしょうか?
本邦では,日本呼吸器学会の「成人市中肺炎診療ガイドライン」では,以下の項目に該当する人に肺炎球ワクチン接種が必要と記されています.
1,65歳以上の高齢者で,
 @肺炎球菌ワクチン接種を受けてない,受けたかどうかはっきりしない人
 Aワクチン接種歴があっても65 歳以前のことで,且つ5 年以上*経過している人
2,2〜64歳で下記の慢性疾患やリスクを有する人
 @慢性心不全(うっ血性心不全,心筋症など)
 A慢性呼吸器疾患(COPDなど)
 B糖尿病
 Cアルコール中毒
 D慢性肝疾患(肝硬変など)
 E髄液漏
3,摘脾を受けた人,脾機能不全の人
4,養護老人ホームや長期療養施設などの居住者
5,易感染性患者
 HIV 感染者や,白血病,ホジキン病,多発性骨髄腫,全身性の悪性腫瘍,慢性腎不全,ネフローゼ症候群,移植,
 などの患者のように長期免疫療法を受いる人
副腎皮質ステロイドの全身投与を長期間受けている人
*:日本では認められていない
なお,2009年8月31日に日本感染症学会より「肺炎球菌ワクチン再接種に関するガイドライン」が出され,ハイリスク患者に対して肺炎球菌ワクチンの再接種が推奨された(ただし,この中には65歳以上の高齢者は全員「ハイリスク」とされている).
また,米国CDCのAdvisory Committee on Immunizations Practices (ACIP)の推奨である”prevention of invasive pneumococcal disease among adults using 23-valent pneumococcal polysaccharide vaccine (MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2010 Sep 3;59(34):1102)”でも,以下に該当する成人は,肺炎球菌ワクチンを推奨すると記されています.
・65歳以上の全ての人
・19〜64歳で以下に該当する人
 ・慢性疾患(慢性心血管疾患,喘息,慢性肺疾患,糖尿病,アルコール依存症,慢性肝疾患,髄液瘻)を持つ患者
 ・喫煙者(禁煙もすべし)
 ・機能的無脾症,脾摘後患者(初回接種5年後に再接種を推奨)
 ・免疫不全患者(HIV感染症,慢性腎不全,ネフローゼ症候群)(初回接種5年後に再接種を推奨)
では,本当にこれらの人達が肺炎球菌ワクチンを接種されると,肺炎が防げたり死亡率が下がったりするのでしょうか?
1997年に肺炎球菌ワクチンの肺炎予防効果を検証した最初のRCT(Am J Med 1997;103:281)が出て,全体では肺炎球菌性肺炎発症率の減少効果が認められなかったものの,高齢者では59%の有意な減少率が認められました.その翌年にはLancet誌にRCT(Lancet 1998;351:399)が掲載されましたが,全肺炎,肺炎球菌性肺炎,死亡のいずれにおいても有意な減少効果を認められませんでした.さらに,2003年にはN Engl J Med誌に後ろ向きコホート研究(N Engl J Med 2003;348:1747)が掲載されましたが,こちらでも肺炎球菌菌血症は44%有意に減ったものの,肺炎による入院は逆に14%有意に増加し,さらに有意でないものの市中肺炎は4%,全市中肺炎も7%増加しました.このように,一貫して肺炎を減らす効果が証明されてこなかった23価肺炎球菌ワクチンですが,これまで行われた臨床試験は,2008年に出たコクランレビュー(Cochrane Database Syst Rev 2008 Jan 23;(1):CD000422)と,2009年のCMAJに出たメタアナリシス(CMAJ 2009;180:48)に集約できます.
2008年のコクランレビュー(Cochrane Database Syst Rev 2008 Jan 23;(1):CD000422
15件のRCT(n=48,656)と7件の非ランダム化比較試験(n=62,294)の計22件の臨床試験が組み入れられました.
RCTのメタアナリシスでは肺炎球菌ワクチンは侵襲性肺炎球菌性疾患(IPD)を有意に減らし(OR 0.26, 95%CI 0.15〜0.46),異質性も高くありませんでした.全肺炎については,有意に減らしたものの(OR 0.71, 95%CI 0.52〜0.97),異質性が高かったため(I2=87.3%),減らせると結論づけられませんでした.一方で,総死亡についても肺炎球菌ワクチンでは減らず(OR 0.87, 95%CI 0.69〜1.10),有意ではないものの重症患者ではさらに効果が劣りました.非ランダム化比較試験の結果では,侵襲性肺炎球菌性疾患(IPD)を有意に減少させました(OR 0.48, 95%CI 0.37〜0.61).
2009年のCMAJのメタアナリシス(CMAJ 2009;180:48
22件の臨床試験(n=101,507)が組み入れられました.
23価肺炎球菌ワクチン接種により,肺炎球菌肺炎(疑診)はRR 0.64(95%CI 0.43〜0.96)と有意に減少し,全肺炎もRR 0.73(0.56〜0.94)と有意に減少しました.ただ,いずれも異質性が高く(I2=74%, 90%),有効と結論づけるのは困難でした.また,総死亡はRR 0.97(0.87〜1.09)と有意差はありませんでした.
この研究の面白いのは,このあとのサブ解析です.
研究の質で分けて統合すると,効果が変わります.
例えば,二重盲検をした研究では,肺炎球性肺炎(疑診)に対してRR 1.20(0.75〜1.92),全肺炎に対してもRR 1.19(0.95〜1.49)と先程みられた有意差はなくなり.むしろ,増加する傾向を示します.また,割付けの隠蔽化が正しく行われた研究では,同じく肺炎球性肺炎(疑診)に対してRR 1.06(0.67〜1.67),全肺炎に対してもRR 1.02(0.56〜1.21)と,やはり先程見られた有意差はなくなってしまいます.こちらも,むしろ増加する傾向です.
つまり,質が低い研究だけ集めると効果があるとされ,質が高い研究だけを集めると効果がないとなるので,先程のように異質性が高くなってしまうという結果だったのです.これをお読みになった皆さんは,質が低い研究を集めた結果と,質が高い研究を集めた結果のどちらを信じますか?
そういうわけで,メタアナリシスをして異質性が高かった場合には,その統合した結果を鵜呑みにしてはいけなくて,なぜ異質性が高いのかを分析する必要があります.そういった意味で,この検討が行われたこの研究は秀逸です.
さらに,日本のガイドラインやCDCのACIPでは65歳以上の高齢者や慢性疾患を持った患者に肺炎球菌ワクチン接種を推奨していますが,このメタアナリシスでは,高齢者や慢性疾患患者では,肺炎球菌性肺炎(疑診),全肺炎,総死亡のいずれでも有効性を見出していません.
2010年のBMJに発表された日本からのRCT(BMJ 2010;340:c1004
三重大学の丸山先生が行ったこの研究(n=1,006)は,病院と施設での23価肺炎球菌ワクチン接種の効果を評価しました.
その結果,平均追跡期間2,27年で,肺炎球菌肺炎がワクチン群2.8%とプラセボ群7.3%と63.8%有意に減っただけでなく,肺炎全体でもワクチン群12.5%,プラセボ群20.6%と44.8%有意に減り,さらに肺炎球菌肺炎による死亡も0% vs 35.1%で有意に減りました(ただし,14例中0例と37例中13例と症例が少ないので解釈に注意が必要).
肺炎球菌肺炎による死亡が有意に減ったのは凄いですが,それでも,全ての肺炎による死亡と総死亡では有意差は出ませんでした.



結局,肺炎球菌ワクチンは接種するべきか?
2008年のコクランレビューと,2009年のCMAJのメタアナリシスと,2010年のBMJのRCTを見て一貫しているのは,死亡率が減らないことです.では,肺炎球菌性肺炎,全肺炎について,メタアナリシスでは減らなかったのに,RCTで減ったのはなぜでしょうか?
おそらくこれは,患者とsettingの違いと考えられます.BMJのRCTは病院と施設でのワクチンの効果を検証したという点が,これまでの研究と違います.感染症が他の疾患と決定的に違うのは,個体間で影響し合うことです.施設内で1人が罹患すると,他の入居者に伝染する可能性が高くなります.ですから,入居者を適当に選んで接種するよりも,施設内の全入居者に接種する方が効果は大きくなることが期待できます.したがって,外来に受診してくるような患者はBMJのRCT論文の対象患者と異なるので,その結果を当てはめることはできません.
そのように考えると,ワクチンは任意接種では費用対効果が悪いといえます.現状では,外来を受診してくる患者に,23価肺炎球菌ワクチン「ニューモバックス(R)」を個別に接種しても肺炎減少効果は期待できません.ましてや,寿命も延びないと思います.現時点ではBMJのRCT論文のように,施設で一括して接種するのが唯一,肺炎を減らせることが期待できる方法だと思われます.
そして忘れてはならないのは,肺炎球菌ワクチンで肺炎を減らせても,死亡率は減らせないことです.BMJのRCTで肺炎球菌肺炎による死亡率が減るとありましたが,総死亡は減りませんでした.その意味するところは,肺炎球菌肺炎による死亡が減った分,他の原因による死亡が増えた,です.つまり,私は肺炎球菌肺炎では死にたくない,それなら他の原因の方が数段ましだと思われる場合には,肺炎球菌ワクチンを接種するメリットがあるということに他なりません.
2009年のCMAJのメタアナリシスの結果は,かなり考えさせられます.日米双方のガイドラインでは高齢者や基礎疾患を持った患者でのワクチン接種を推奨していますが,CMAJのメタアナリシスでは,それらの患者では特に効果が否定的です.
インフルエンザワクチンでこんなことが考えられます.ワクチンを接種していない年にインフルエンザに罹ったことがない人はもともとインフルエンザにかかりにくい人なので,恐らくワクチンを接種する意味はありません.また,逆にワクチンを接種した年でもインフルエンザに罹る人は,ワクチンでは防ぎきれないので,やはり接種しても変わりません(症状が軽減する可能性はありますが).つまり,ワクチンを接種する価値のある人とは,ワクチンを接種していない年にはインフルエンザに罹ったが,ワクチンを接種するようになったらインフルエンザに罹らなくなった人と言えます.
肺炎球菌ワクチンでも同じように,肺炎の発症リスクが低い人に接種してもあまりメリットがありませんが,発症リスクが高すぎる人に接種しても防ぎきれず,やはりあまりメリットがありません.
さらに,ワクチンが他の薬剤と異なるのは,免疫応答を介して効果を発揮するため,抗体のできやすさや肺炎の予防効果に個人差が大きいことです.ですから,エビデンスを元に個々の患者での効果を推定するのは困難と思われます.
いずれにしても,脳梗塞の既往患者や高齢者で嚥下障害のある患者や,COPDで肺炎を繰り返している患者では,ワクチンの効果はあまり期待できないと思われます.
最後に,では,CDCのACIPのガイドラインでは,なぜ肺炎球菌ワクチンを推奨しているのでしょう?これは注意してみなければならないのですが,ACIPのガイドラインは,「IPDすなわち,侵襲性肺炎球菌性疾患の予防のためにはワクチン接種を推奨する」と示されているのです.決して,肺炎を防いだり,死亡率を下げたりするために推奨するとは言っていないのです.実は,上記2008年のコクランレビューと2009年のCMAJの両方ともACIPのガイドラインに引用されています.同じエビデンスを見ても,推奨の出し方が異なる好例です.発症が稀であるIPDを予防するために,65歳以上の全員にワクチンを接種するのは費用対効果がよいとは言えません.
「肺炎球菌ワクチンが有効である」で済ませていないでしょうか.誰に対して?何に対して?と考えないと,期待はずれな治療になってしまいます.エビデンスの誤用はこういうところに起こります.
肺炎球菌ワクチンを接種するか否かは,効果のほどをよく考えてから決めたいものです.

慢性閉塞性肺疾患(COPD)

抗コリン薬の吸入は慎重に適応を考慮するべき (項目新設2012/9/14)

日本呼吸器学会の「COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第3版」は,2012年9月14日現在でweb上で閲覧できません.書店で販売しているということで,わざわざ購入しないといけないのは面倒ですから,ガイドラインを見なくなってしまう人も多いと思います.ガイドラインを普及したいのか専門医で囲いたいのか,学会の意図が分かりません.
COPD情報サイトというところに,「日本呼吸器学会COPDガイドライン第3版の改訂」というページがあり,上記ガイドラインのポイントをまとめたスライドやPDFファイルを閲覧,ダウンロードすることができます.これによれば,長時間作用性抗コリン薬を第1選択として,軽症から重症まで,全ての重症度で使用するように推奨されています.
一方,海外のガイドラインでは,GOLD(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease)の「慢性閉塞性肺疾患の診断,治療,予防に関するグローバルストラテジー2001年改訂版」があります.GOLDはWHO(世界保健機構)とNHLBI(米国心臓、肺、血液研究所)の共同プロジェクトに、世界中の医療専門家が協力する形で始まった世界的な活動です.このガイドラインには日本語訳があり,web上で無料公開されています.この中で,抗コリン薬に対する推奨としては,やはり抗コリン薬の使用を軽症から重症まで勧めており,以下の様な記載があります.
抗コリン薬:(中略) チオトロピウムはCOPD増悪及び関連する入院を抑制させ,症状及び健康状態を改善し212(エビデンスA),呼吸リハビリテーションの効果を向上させる213(エビデンスB).COPD患者を対象とした大規模な長期臨床試験では,その他の標準的治療にチオトロピウム投与を追加しても肺機能低下率に対して効果はなく,心血管系リスクに関するエビデンスも認められなかった214.(中略)
副作用:(中略) イプラトロピウムを連用しているCOPD患者において,心血管疾患が若干増加するという予期されていなかった副作用が報告差r手織り,詳細な調査を要する217,218.メタ解析では,レスピマットという吸入器を使用したチオトロピウム投与の潜在的毒性が示唆されており,今後吸入器としてハンディへラーを使用した場合との比較を行う必要がある219
この記載は日本のガイドラインと異なり,かなり事実を正確に捉えています.しかし,これだけではどういうことはイマイチ分かりにくくないでしょうか.
2008年に,抗コリン薬の吸入が心筋梗塞のリスクを上げるというメタアナリシス(JAMA 2008;300:1439)が出ました.Figure 2によれば,心血管死亡,心筋梗塞,脳卒中を組み合わせた複合心血管アウトカムは1.58(1.21〜2.06)倍に上がり,Tiotropiumで有意差がなく,Ipratoropiumで有意差があるという結果でした.
各OutcomeのリスクはTable 4に示されており,心血管死亡がRR 1.80(1.17〜2.77)倍,心筋梗塞が1.53(1.05〜2.23)倍と有意に上昇しました.脳卒中と総死亡については,増加する傾向が見られたものの,有意差は見られませんでした.
このメタアナリシスは,長期間投与と短期間投与でのリスクの違いをも検討しており,Figure 3にその結果が示されています.まず,6ヶ月以上5年以下の追跡期間を持ったRCTのメタアナリシスでは,Tiotropium,Ipratropiumともに複合心血管アウトカムを有意に上昇させました.注目するべきは,全体で有意差のなかったTiotropiumで,有意差が見られただけでなく,リスクも2.12(1.22〜3.67)倍と高くなりました.
一方,6週以上6ヶ月未満の短期間投与では,Tiotropiumに複合心血管アウトカムのリスクを上げるという結果は得られませんでした.ここで注目するべきは,Ipratropiumはなお有意差があり,しかも,リスク比が3.94(1.07〜14.51)と長期間投与よりも高くなるという結果だったことです.
以上をまとめると,抗コリン薬の吸入は,全体としてみて心血管死亡と心筋梗塞のリスクを有意に上げ,Tiotropiumについては,心血管アウトカムのリスクを短期間投与では上げませんでしたが,長期間投与では上げました.またIpratropiumuは投与期間によらず,心血管アウトカムを有意に上げました
FDAは,2010年に抗コリン薬の安全性について,COPD患者に対するtiotropiumの長期投与効果を検証したRCTであるUPLIFTの結果から安全性に問題がないと宣言する声明を発表しました.メタアナリシスの結果を覆す結論なので,これはかなり衝撃的です.
ところが,UPLIFT(N Engl J Med 2008;359:154)は研究への参加者がたかだか5,993人のRCTです.心筋梗塞を発症した患者もtiotropium群で67人,placebo群で85人しかいませんから,これで安全性を担保しようとするのは危険です.しかも,この研究は追跡期間が4年です.実際の診療ではもっと長期間使用することが想定されますから(最近は肺年齢を計算して,早期から治療を開始することが推奨されています),これで長期間投与が安全というのも勇み足だと思います.
しかも,このUPLIFTで証明されたTiotropiumの効果は,全研究期間を通して1秒量の平均を47〜65mlから87〜103mlに増やすといった程度のものでした.1秒量が100ml程度増えることがどれだけの効果であるかは,一般的な健康成人の肺活量が3,000〜4,000mlであることを考えると,効果を臨床的に実感できるようなものでないことは明白だと思います.
そして,症状の改善については,呼吸器疾患の疾患関連QOLの指標であるSGRQ(George’s Respiratory Questionnaire)のtotal scoreが全研究期間を通して2.3〜3.3ポイント有意に改善したとされています.プラセボ群でも改善を示していて,その差は平均2.7ポイントでした.ところが,このSGRQは0〜100の値を取るもので,最低でも4ポイント以上の変化がないと臨床的には意味が無いと論文中に書かれています.つまり,この研究では統計学的にQOLは有意に改善しましたが,その違いは患者自身が実感できないものでした.
さらに,UPLIFTでは,COPD増悪による入院が有意に減ることが示されたとされていますが,その実態は,発作回数を年間0.85回から0.73回に減らしたというものです.いくら有意差があったからといって,この程度の差を実感できるとは思えません.
つまり,UPLIFTの結果は,効果も臨床的に意義があるといえるほどでもなく,副作用についても結論が出せないというものでした.
その後,2011年にtiotropiumのmist inhaler(レスピマット)が死亡率を上げるという衝撃的なメタアナリシス(BMJ 2011;342:d3215)が発表されました.その結果は,12ヶ月以上の使用で,死亡率が1.50(1.06〜2.16)倍有意に上昇するというものでした.また投与量による違いをみた結果では,5μgよりも10μgでよりリスクが高くなるというものでした.
以上から,抗コリン薬の効果は臨床的に実感できるほどの大きなものはあるとはいえず,心筋梗塞と総死亡のリスクを上げるため,その適応には慎重になる必要があると考えられます.抗コリン薬の吸入を行なっても良いと考えられるのは,症状があり,抗コリン薬の吸入によってそれが改善すると期待できるごく小さな患者集団に限られます.GOLDのガイドラインにも記載のある通り,長期的な肺機能の低下を阻止することはできないので,肺年齢を測定して症状のないうちから早期に抗コリン薬の吸入を行うことは,長期投与によって害のリスクが上昇することを考えると,避けるべきです.また,病状が進行して重症になった場合でも,抗コリン薬の効果は証明されていないので,適応はないと考えられます.

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