初めての学会座長心得 ~安心して回すための実践ガイド

学会の座長を初めて任されたとき,多くの人がまず戸惑うのは「自分は何を期待されているのか」という点です.臨床経験は十分でも,学会で発表を仕切る役回りは別物です.本稿では,若手,中堅の医療者で初めて座長を担当する方を想定し,役割と心得を整理したうえで,準備から当日の進行・振る舞い,具体的な声かけ,トラブル対応までをまとめます.口演(一般演題)とシンポジウムの双方に共通する原則を中心に扱います.
なお,以下は日本プライマリ・ケア連合学会の学術大会での座長を想定した内容になっていますが,本稿は同学会の公式のものではなく,著者個人の考えに基づいたものです.著者自身が公式的に誰かから学んだものではなく,これまで学会に参加して経験したことを踏まえてまとめてみました.なお,日本プライマリ・ケア連合学会では,男女共同参画委員会(現・ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン推進委員会(DE&I推進委員会))が2017年に「これだけでうまくいく♡はじめての学会座長」という文書を発表していました.
実際に座長を担当する場合は,各学会の手引き等や事務局の指示を優先してください.

※本エントリーの内容は pdfファイル でも提供しています.

座長のミッションと役割・心得の基本

ミッション:担当するセッションが滞りなく,かつ知的に充実して終わること

座長は発表の主役ではありません.演者と聴衆が最大限の議論をできるよう「場を回す」進行役です.この前提を常に思い出すようにすると,当日の判断がぶれません.
座長の責務は,大きく次の三つに整理できます.

時間管理

座長の最も基本的かつ重要な仕事は,セッションを定刻で終えることと,各演者に公平に時間を配分することです.議論が盛り上がって最初の方の演者の時間が伸びてしまうと,後続の全演者にしわ寄せがいきます.「面白い議論だから延ばす」は,原則として避けるべき判断です.

議論の促進

発表が終わっても質問が出ないまま次へ流れてしまうと,せっかく発表しても聴衆と議論を共有できる意義が薄れます.座長が最初の質問を投げる,フロアの手を拾う,論点を言い換えて整理するといった働きかけで,議論の口火を切り,方向づけます.

公平性と安全性の担保

特定の演者やフロアの発言者だけに時間が偏らないよう調整し,攻撃的・侮辱的なやり取りや,本筋を外れた長広舌が場を支配しないよう交通整理をします.演者を守ることも座長の役目です.

心得として押さえておきたいのは次の点です.定刻終了を最優先すること演者を立て,聴衆を置き去りにしないこと沈黙を恐れず,しかし沈黙を埋める準備をしておくこと.そして自分の意見を述べる場面でも中立的な進行役の立場を崩さないことです.座長が議論に深入りして一方の論者になってしまうと,公平な進行ができなくなります.
座長の出来は,実は当日よりむしろ事前準備で決まります.いきなり当日座長席で初めて演題タイトルを見る,というのではよほどのベテランでない限りうまくいきません.理想的な流れを,時系列に沿って示します.

1.数週間前(抄録集が提示され次第)

  • 担当セッションの内容を把握する
    • セッション名
    • 時間
    • 会場
    • 演題数
    • 1演題あたりの発表時間と質疑時間(発表◯分,質疑◯分),演題ごとに開始時刻をメモしておくと当日の進行状況が把握しやすい
  • 以下のポイントに中心に各演題の抄録に目を通す
    • 口演,ポスター
      • 演者の名前と所属:読み方を間違えると失礼なので,確認しておく.多くの場合には抄録にふりがなが振られていないので,自信がなければwebで検索して調べておく.難読の姓名やローマ字表記(慣れていないと咄嗟に読めない)には事前にふりがな・読みを控えておく
      • 研究概要:リサーチクエスチョン/PICOの形に整理しておくとわかりやすい
      • 新規(奇)性:これまでにない新しいことは何か.例えば以下のようなもの
        • 稀な疾患を見つけた
        • 既知の疾患の稀な所見を見つけた
        • 既知の疾患同士の稀な組み合わせを見つけた
        • 新しい治療が奏功/失敗した
      • 限界
        • 研究から言えることと言えないことは何か
      • 稀に,抄録に結果が示されていないことがある(本来あってはなりませんが,著者は「to be continued..演題」と呼んでいます)ので,その場合は結果を予想しておく
  • シンポジウム,パネルディスカッション
    • 各演者の立場と論点整理
    • 重なり・対立を整理しておく(図式化しておくとわかりやすい)
  • 質問を考えておく
    • 基本的に質疑応答はフロアから出るものを優先するが,万一質疑が出ない場合には演者が質問する必要があるので,各演題について最低1つ,できれば2つ質問を準備しておく.私が質問のポイントとして注目しているポイントは3.5に示します.
    • シンポジウムやパネルディスカッションでは,総合討論のテーマを演者と共有する
  • 進行ルールとCOI(利益相反)の書式を事務局・手引きで確認する
  • 共同座長がいる場合あらかじめ連絡を取っておく
    • ご挨拶
    • 役割分担を決めておく
      • 多くの場合,2人座長ならば前半と後半で演題紹介とタイムキーパーを分担する.特段理由がなければ,抄録集にある順番に前半・後半を担当する.
      • フロアから質疑が出ない場合の座長質問は,原則演題紹介をしていないほうが共同作業感があってよいが,演題紹介をしている座長が質問しても全く問題ない
      • 演題数が奇数の場合は,リサーチクエスチョンの類似性で切りの良いところで分担を分けるとスマート
  • 座長スライド
    • JPCAでは,座長がセッションの導入にスライドを用いた説明が可能.特に,シンポジウムやパネルディスカッションの場合に有用なので,数枚(多くても5枚まで)用意すると良い.USBメモリに入れておく.一般演題・ポスターの場合には通常スライドは作らない.

2.現地入り~担当セッションの時刻まで

  • 会場の下見は,可能な限りしておくのがお勧めです.以下の項目をチェックします.
    • 会場の場所と広さ
      • 前のセッションにも出番がある場合は,会場間の移動の導線を確認しておく
    • 明るさ
    • 演台と座長席,次演者席,質疑の発言者のスタンドマイクの位置
    • 座長席のモニター,レーザーポインター,マイク,タイマーの位置と操作
    • ポスターの場合は,すでに張り出されている頃を見計らって下見をすると,演題内容を確認できる
    • オンライン/ハイブリッドなら接続テスト(ログイン)と画面共有や挙手機能の操作手順
  • 演者顔合わせ:もし開始前に演者と会うことができるならば,以下を確認すると進行がスムーズになる.特にシンポジウムやパネルディスカッションの場合には,事前に控室で打ち合わせさせてもらえることがある
    • 演者の姓名と所属の読み方の確認
    • 演者紹介でどこまで紹介してよいか
    • 総合討論で特に議論したい点の確認
  • 説明スライドを用意している場合は,事務局より指示された時間(JPCAではセッション開始30分前)までにPCセンターでスライドデータの登録と動作確認を行う

3.当日の進行

3-1.セッション開始前

  • 開始10〜15分前には会場に入る
  • 前のセッションの押し具合を確認
  • マイク・スライドの動作に問題がないか
  • 演者の到着を確認,余裕があれば,座長の自己紹介
  • 時計(または携帯)を演台の見える位置に置き,計時の準備
  • ライブ配信されるセッションでは,視聴者からZoomのQ&A機能を用いて質問を受け付けるので,どこに表示されるかを確認
  • JPCAでは座長受付はない.セッション開始 10 分前までに,会場内右前方の「次座長席」に着席する
  • 座長は緊張するかもしれないが,演者はもっと緊張しているので,淡々と段取りを進める姿勢が場の安心感につながる

3-2.オープニング

  • 定刻になったら開会を宣言
    • 大会事務スタッフから促されることもあるが,促されなくても時間が来たら始める.少しでも延長を防ぐコツ.2人座長の場合は前半担当の座長が話す
  • オープニングトーク中に共同座長の名前と所属は自分で言ってもらうように促すのが一般的だが,そのまま他己紹介してしまっても構わない.
  • 進行のルールを確認
    • 発表時間,質疑時間を口頭で告げる
    • 利益相反はスライドで表示するだけでなく,読み上げる必要がある(JPCA利益相反管理指針施行細則に「(演者は)利益相反状態にあるときには、その企業、組織や団体の名称を音読する」と書かれている)
    • 質問する人は挙手を...というと,その後マイクの前まで移動するのに空白の時間が生じてしまうので,先にマイクの前に立ってもらうように促しておくのがコツ
    • ここで時間枠を共有しておくことが,後の時間管理を格段に楽になる

3-3.各演題の進行

  • 基本の型は「紹介 → 発表 → 質疑」
  • 紹介は,演題番号,演題タイトル,演者の氏名と所属と読み上げる.名前の読み間違えに注意
  • ポスター発表の場合は,指示棒が用意されて事務局スタッフから渡されたら演者に渡す
  • 発表中は抄録に書かれていなかった追加情報や結果を聞き取り,質疑に備える
  • 時間は演台にも表示されるが,赤ランプ(持ち時間超過の表示)になって著しく延長している場合は,座長が制止しても良い
  • 発表が終わったら質疑へ移る.時間が来たら次の演者へつなぐ

3-4.質疑応答の回し方

  • 質疑は座長の腕の見せどころ,ここでうまく回せるのが座長の真骨頂
  • まず質疑マイクに立っている参加者を確認→フロアに質疑を促す→手が挙がらなければ自分の準備した質問を投げる
    • 最初に質問者の名前と所属を名乗るように促す
    • 質問が長い,複雑,分かりにくいときは要約すると演者が助かる
    • 発言が特定の人に偏らないよう,「ほかにご質問は」と全体に開くことも大事質問が出なければ用意した質問を投げる
    • フロアからの質問を優先させるが,webでの質問も忘れないようにする.Web質問でぜひ取り上げたいものがあれば,フロアより先に拾っても良い
    • Web質問は座長しか見えていないので読み上げる.JPCAでは,座長向け資料でweb質問は質問者の氏名と所属は表示されていても言わないように指示されているので,質問内容のみ読み上げる
    • フロアからの質問で時間切れになってしまった場合,webからも質問がある旨を伝えておくと,ライブ配信を見ている人が忘れられたと思われずに済む
    • 割り当て時間を確認しつつ,マイクに立つ人が長蛇の列となるようならば,あらかじめ質問を区切る.すでにマイクに立っている先生まで話してもらうと失礼がない
    • 時間が押していても,最低1人は質疑の発言をしてもらいたいが,全く時間がない場合は全面的に質疑応答をカットする勇気も大事
  • とにかく時間管理が大事.延長は後続演者の権利を侵害する,という意識を持つと判断が一貫する

3-5.質問のポイント

  • 南郷が演題発表で質問する際に見ているポイントは以下のとおりなので,もし参考になれば
    • 方法の妥当性:適切な研究デザイン,横断的にデータを取っているだけなのにコホート研究と言っていたり,比較対象のない介入前後の比較のみで有効性を導き出していたりしないか,適切な統計解析手法が用いられているか
    • 結果の解釈:結果から結論が導き出せるか,サブグループでの効果はどうか
    • 一般化可能性:対象集団の特性による影響の有無,過去の研究結果との一致・不一致,不一致の場合の理由
    • 臨床応用:今回得られた結果がどのような臨床的な意味を持つか

4.座長発言定型文

そのまま使える定型表現を場面別に挙げる.もちろん,自分の言葉に置き換えて構わないし,ここは個人の流儀にもよるので,ご自身のスタイルに合わせて調整してほしい.

オープニング定刻になりましたので,一般演題発表(セッション名)を始めたいと思います.私は座長を務めます〇〇病院の◯◯◯◯と申します.こちらは共同座長の...(相手に振って)先生です.よろしくお願いいたします.前半◯席を私が,後半◯席を◯◯先生が担当いたします.
最初にルールをお話します.1演題につき発表◯分・質疑応答◯分です(JPCAは6分/3分).質疑でご発言される方は,あらかじめマイクの前にお立ちください.なお,各演者の先生方には,利益相反についてはスライドでの開示時に読み上げていただきますよう,お願いいたします.
演者紹介最初の演題は第◯-1席,(演題タイトル),◯◯病院の◯◯◯◯先生です,よろしくお願いします.
発表時間の延長が著しいお時間が過ぎていますので,簡潔にお願いします.
それでも延長が続くお時間ですので,最後のスライドでまとめをお願いします.
発表後◯◯先生,ご発表ありがとうございました.それでは質疑に移ります.フロアからご発言される方はマイクの前にお立ちください.
最初にご自身のお名前とご所属を名乗ったうえで,ご質問ください.
質問が長い,複雑,分かりにくいご質問は〇〇という理解でよろしいでしょうか.
質疑が出ないそれでは,私から1点伺います.
Webから質疑を取り上げるWebからも質問をいただいていますので,読み上げます.
(JPCAでは,座長向け資料でweb質問は質問者の氏名と所属は表示されていても言わないように指示されているので,質問内容のみ読み上げる)
Webからも質疑があるのに,フロアからの質疑で時間切れになってしまったWebからも質問をいただいていますので,後ほど演者の先生にお伝えいたします.
マイクに立つ人が長蛇の列となり,時間延長しそうでは時間の関係で,質疑は今立っておられる◯◯先生(わからなければ◯色の服を着ていらっしゃる方)までとさせていただきます.
区切った後にマイクの前に人が立った質疑中の内容が終わった時点で
時間が押しておりますので,先ほどお伝えしましたとおり,◯◯先生(わからなければ◯色の服を着ていらっしゃる方)までとさせていただきます.申し訳ございません.
質疑応答が延長してしまった(大変貴重な議論ですが,)時間が押していますので,ここで一旦区切らせていただきます.質問がある先生は演者に直接お聴きいただくこととして,次の演題に進みたいと思います.
次演者紹介◯◯先生,ありがとうございました.続いて◯-2席,(演題タイトル),◯◯病院の◯◯◯◯先生です,よろしくお願いします.
閉会以上で本セッションを終了いたします.皆様のおかげで大変有意義な議論ができました.ご登壇の先生方,ご参加くださいましたみなさま,ありがとうございました.
(時間を超過してしまった場合は,「司会の不手際で時間通りに追われなかったこと,十分な質疑の時間をとれなかったことをお詫びいたします」と添える)

5.トラブルシューティング

演者が来ない・登壇が遅れる慌てて空白を作らず,演題順を入れ替えて次の演者を先に進めるのが基本.「演題の順序を一部入れ替えます」と一言断ればフロアは混乱しない.最後まで現れない場合は演題取り消しになるが,事務局の指示に従う.
演者欠席が事前に判明している場合は事務局から連絡があることが多い.
スライドが映らない・機材トラブル復旧は基本的に運営スタッフに任せ,座長は場をつなぐ.
軽いコメントで間を持たせるか,質疑を先に始める,次演題を繰り上げるなど,沈黙を作らない判断をする.
「機材を確認していますので,少々お待ちください」と状況を伝えるだけでも気まずい雰囲気は和らぎ,聴衆は落ち着く.
フロアから攻撃的・過度に長い質問が出た演者を守る姿勢で介入する.「論点は〇〇ですね.まず先生のご見解を伺いましょう」と論点に引き戻し,個人攻撃や演説には「ご意見は承りました.時間の都合で次の質問に移ります」と毅然と区切る.

6.おわりに

一般演題・ポスター発表は演者が主役です.座長の役割は,演者と聴衆が安心して議論に集中できる場を整えることです.完璧な進行を目指す必要はありません.定刻を守り,演者を立て,議論を一つ引き出す,この3つができれば,初めての座長としては十分に務まります.準備さえしておけば,当日は落ち着いて場に臨めるはずです.肩の力を抜いて臨んでください.なにより,座長自身がセッションを楽しみましょう!

参考文献

日本プライマリ・ケア連合学会 男女共同参画委員会.これだけでうまくいく♡はじめての学会座長,2017年.

日本循環器学会 ダイバーシティ推進委員会 JCS-JJC部会.初めての学会座長の手引き 改訂第2版,2023年.

らくらくカンファレンス.学会の座長の台本例 役割や務める際のポイント.2025年.

NEWSBASE.初めてに役立つ!学会の座長のための進行マニュアル.2020年.

【利益相反(COI)の開示】
学術的COI:市中病院医師,総合診療医 ,EBMer/EBM educator.日本プライマリ・ケア連合学会理事,日本プライマリ・ケア連合学会利益相反委員会委員長,日本医学教育学会理事.日本医学教育学会利益相反委員会委員長
経済的COI:開示の対象となるような金銭等の授受はない

国立京都国際会館,京都府京都市,2026/5/29撮影)

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