QLOOKアクセス解析

 


English version is here.

Contents

EBMについて
   一般向け
   医療従事者向け
各地のEBM勉強会紹介
pES club(学生EBM勉強会)
エビマヨの会(EBM抄読会)
なんごろく(診療のTips)
EBM関連イベント
資料集
管理人プロフィール
リンク集
更新履歴
アンケート
  ↑ご協力下さい!
お問い合わせ先


アンケートにご協力を!

ご感想をお寄せ下さい

このページへリンクを張る際は,
お手数ですが
管理人
までご一報ください

 ホーム > エビマヨの会 >

エビマヨの会−2010年2月10日

 第18回:重度の低血糖は死亡率を増やすが,ACCORD試験での血糖集中治療群の死亡増加は低血糖が原因とは言えない

Bonds DE, Miller ME, Bergenstal RM, Buse JB, Byington RP, Cutler JA, Dudl RJ, Ismail-Beigi F, Kimel AR, Hoogwerf B, Horowitz KR, Savage PJ, Seaquist ER, Simmons DL, Sivitz WI, Speril-Hillen JM, Sweeney ME.
The association between symptomatic, severe hypoglycaemia and mortality in type 2 diabetes: retrospective epidemiological analysis of the ACCORD study.
BMJ. 2010 Jan 8;340:b4909.
PubMed PMID: 20061358.

チェックシートは はじめてトライアルシート5.5

背景: ACCORD研究(NEJM 2008;358:2545)において集中的な血糖コントロールを行うと死亡率が上がるという結果が示された.一方で,集中的な血糖コントロールは重度の低血糖の発症率が増える.しかし,集中的な血糖コントロールによる死亡率増加の原因が低血糖によるものかどうかは分かっていない.
本研究では,ACCORD研究で集中的な血糖コントロールを行った方が死亡率が上がったのが,低血糖発作の増加によるものなのか検証することが目的である.
カテゴリー: 治療
研究デザイン:
 ランダム化比較試験,後ろ向き疫学解析
資金源: This study was supported by grants from the National Heart, Lung, and Blood Institute (N01-HC-95178, N01-HC-95179, N01-HC-95180, N01-HC-95181, N01-HC-95182, N01-HC-95183, N01-HC-95184, IAA-Y1-HC-9035, and IAA-Y1-HC-1010); by other components of the National Institutes of Health, including the National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases, the National Institute on Aging, and the National Eye Institute; by the Centers for Disease Control and Prevention; and by General Clinical Research Centers. The following companies provided study medications, equipment, or supplies: Abbott Laboratories, Amylin Pharmaceuticals, AstraZeneca, Bayer HealthCare, Closer Healthcare, GlaxoSmithKline, King Pharmaceuticals, Merck, Novartis, Novo Nordisk, Omron Healthcare, Sanofi-Aventis, and Schering-Plough.
利益相反: RMB receives research grant support and/or is a member of a scientific advisory board for the following companies: Amylin Pharmaceuticals, Abbott Diabetes Care, Bayer, Eli Lilly, Intuity Medical, LifeScan, Mannkind, Medtronic-Minimed, National Institutes of Health, Novo Nordisk, ResMed, Roche, Sanofi-Aventis, Valeritas, and UnitedHealth Group. All the above activities are performed under contract with the non-profit Park Nicollet Institute and the International Diabetes Center, Minneapolis, MN, USA. RMB receives no personal compensation for any of these activities. He also inherited Merck stock. JBB is a shareholder of Insulet. Under contracts with his employer, JBB has been an investigator, consultant, or speaker for Amylin Pharmaceuticals, Bayhill Therapeutics, Becton, Dickinson and Company Research Laboratories, Bristol-Myers Squibb, Dexcom, Eli Lilly, GlaxoSmithKline, Intekrin, Intuity Medical, Johnson & Johnson, MannKind, Medtronic, Merck, MicroIslet, Novartis, Novo Nordisk, Osiris, Pfizer, Roche, Sanofi-Aventis, Transition Therapeutics, and Wyeth. BH is a full-time employee of Lilly USA (Endocrine), Indianapolis, IN, USA. ERS has been reimbursed by Pfizer for participating in the review of applications for visiting professorships and has been a paid consultant for Merck. WIS receives research funds from GlaxoSmithKline and has been reimbursed by Merck as a consultant at a Global Experts Forum. The remaining authors declare no competing interests.
1.論文のPECO(元の研究):
P: HbA1c≧7.5%の心血管疾患を持つ40〜79歳の2型糖尿病患者
またはHbA1c≧7.5%の動脈硬化,アルブミン尿,左室肥大,2つ以上のCVD risk factor(脂質異常症,高血圧,現在喫煙者,肥満)のいずれかを持つ55〜79歳の2型糖尿病患者
E: 目標HbA1c 6.0%未満
C: 目標HbA1c 7.0〜7.9%
O: primary(複合): 非致死的心筋梗塞,非致死的脳卒中,心血管死
   secondary:総死亡,治療必要な低血糖
低血糖の定義
<医学的治療が必要だった症候性の重度の低血糖イベント(HMA)>
病院,急患室,医療関係者が治療した重度の低血糖のエピソードを経験したかどうかを診察の度に聞いた.
症候性の重度の低血糖は,血糖値が2.8mmol/l(50mg/dl)未満か,経口炭水化物,静注グルコース,皮下注や筋注のグルカゴンですぐに回復した症状と定義した.

<あらゆる補助を必要とした症候性の重度の低血糖(HA)>
あらゆる補助を必要とした低血糖は,医学的治療や他人からの補助を受け,血糖値が2.8mmol/l(50mmg/dl)未満と特定されたか炭水化物治療で回復したたと報告した人の,症候性の重度の低血糖のエピソードと定義した.

<個人記録で示された指尖穿刺血糖測定が3.9mmol/ml未満の低血糖>
診察の度に,患者が記録している指尖穿刺血糖記録か患者の血糖測定機器からダウンロードした情報から,直近の7日間に血糖値が3.9mmol/ml(70mg/dl)未満だった回数をカウントした.
本研究では,集中的な血糖コントロール介入が中止されたときの低血糖イベントが元論文の報告より19例少なかったが,これは,この論文での分析では,各群で公式の4ヶ月間のバイタル状態の評価を行う前に起こった低血糖イベントのみを含めているからである.
本研究でのprimary outcome: 総死亡と,疾患別死亡率
死因は,以下のうちいずれかに分類された: 心血管死(原因不明,心血管死の疑いを含む),致死的心筋梗塞,致死的うっ血性心不全,その他の心血管系の原因,癌,非心血管非癌,分類不能
それに続き,2名の糖尿病治療専門医が低血糖が死亡に影響したかどうかを評価し,4つに分類した: 無関係,可能性あり,疑い,確定
評価者間で評価が一致しなかった場合は,3人目か判定委員会で解決した.
低血糖が死亡に影響したかどうかを判定するために,判定者には患者が処方されていた血糖降下薬のリスト,以前に報告されていた重度の低血糖のエピソードの詳細と,死亡前に起こったこれらのエピソードの日数,さらに患者が指尖穿刺測定器を使って血糖レベルのチェックを報告したのが週何回かという情報が示された.
7.結果の評価:
ACCORD研究における死亡者数は460名.
年間粗死亡率は標準血糖コントロール群が1.14%,集中血糖コントロール群が1.42%だった.
死亡者のうち,451人は死亡前に予定されていたスケジュールで受診し,重度の低血糖のエピソードを経験したかどうか明らかになっていた.
集中治療群が標準群よりも多く,HA(15.9% vs 5.0%),HMA(10.3% VS 3.4%)を経験していた.
研究期間中に703人の患者がHMAを経験した.
Table 1には,低血糖発作の有無別に,血糖コントロールの違いが死亡率を上げるかどうかを見た結果が示されている.
全患者では,死亡率は標準治療群で3.87%に対して,集中治療群で4.97%と,集中治療群の方が多かった.
低血糖発作(HA)のなかった患者でも,死亡率は標準治療群で3.64%に対して,集中治療群で4.69%と,集中治療群の方が死亡がHR 1.21(0.99〜1.48)多かった.
集中治療群の方が1.21(0.99〜1.48)倍死亡率が高かったことになるが,これには有意差はなかった.
1回でもHAを越した患者では,死亡率は標準治療群で7.39%に対して,集中治療群で6.44%と,逆に標準治療群の方が死亡が多かった.
これは,集中治療群の死亡率が標準治療群の0.84(0.44〜1.60)倍ということになるが,有意差はなかった.
低血糖発作が2回,3回以上起こったものでも,同じ傾向がみられた.
HAを起こしたか否かの違いが,血糖集中治療の死亡率への影響を変えなかった(p=0.2264).
低血糖発作(HMA)を起こしたものでも同様に,イベントがないものでは集中治療群の方が死亡率がHR 1.25(1.03〜1.52)倍高かったが,イベントが1回でも起こしたものでは,集中治療群の方が死亡率がHMA 1回HR 0.63(0.31〜1.28)倍.HMA 2回HR 0.30(0.06〜1.51),HMA 3回以上HR 0.45(0.11〜1.81)倍で少なかった.
HMAを起こしたか否かの違いが,血糖集中治療の死亡率への影響を変えた(p=0.0494).
つまり,低血糖を起こさなかった人では血糖集中治療で死亡率が上がり,低血糖をおこした人では血糖集中治療した方が死亡率が下がった.


Table 2には,血糖コントロール別に,低血糖発作の有無が死亡率を上げるかどうかを見た結果が示されている.
これは,ちょうどTable 1と縦横が逆になっている.
集中治療群では,HAを起こさなかった患者では年率1.2%の死亡率,HAを1回以上起こした患者では年率2.8%の死亡率であり,HAを起こした患者の方が死亡率が調整HR 1.41(1.03〜1.93)倍多かった.
同様に,標準治療群では,HAを起こさなかった患者では年率1.0%の死亡率,HAを1回以上起こした患者では年率3.7%の死亡率であり,HAを起こした患者の方が死亡率が調整HR 2.30(1.46〜3.65)倍多かった.
ただし,脚注†にあるように,HAが起こったことによる死亡率上昇の影響は,集中治療群(HR 1.41)と標準治療群(HR 2.30)の間に違いがなかったと言える(p=0.076).
HMAに関しては,集中治療群ではHMAを起こした患者では,年率1.3%から年率2.8%に調整HR 1.28(0.88〜1.85)倍死亡率が高く,標準治療群ではHMAを起こした患者では,年率1.0%から年率4.9%に調整HR 2.87(1.73〜4.76)倍死亡率が高かった.
脚注‡にあるように,HMAが起こったことが死亡率の上昇に影響は,集中治療群(HR 1.28)と標準治療群(HR 2.87)の間に違いがあり,標準治療群の方が医療機関を受診するような低血糖発作(HMA)が起こると死亡率が上昇すると言える(p=0.009).

以上より,ACCORD研究で集中治療群の方が死亡率が高かったのは,低血糖発作が原因とは言えないことが示された.
集中治療群の方が低血糖の発生率が高かったのにもかかわらず,低血糖を起こした人の中での死亡率は標準治療群の方が高かったことに関する,論文中の説明は以下の通り.
・心筋虚血
・致死的不整脈(QT延長など)
・認識されていない低血糖
・心臓の自律神経障害

ディスカッション:

  • ACCORD研究の結果が発表されたとき,集中治療群の死亡率が高かったのは,低血糖発作が多かったからだと言われたが,その理由を検討した本後ろ向き疫学研究は,重要である.
  • ACCORD研究がRCTであるにもかかわらず,Table 2で調整しているのは,本解析が低血糖発作の有無に分けてそのハザード比(HR)を求めているので,両群間には(ランダムに割り付けたものではないので)交絡している可能性があるためである(Table 1では,標準治療群と集中治療群で分けているので,これはもともとランダム割り付けされたものであり,交絡因子の調整の必要がない).
  • HMAを起こした患者はHAを起こした患者に含まれる(HMAがmedical assistanceを必要とした低血糖発作,HAがmedicalとnon-medical assistanceを必要とした低血糖発作なので)が,Table 2でHAを起こした人が年率1.2%で,HMAを起こした人が年率1.3%よりも少なく,矛盾する.
    これは,HAやHMAのデータが取れていない人がいるために,同じ母集団になっていないためである.
  • 標準治療群の方が,低血糖発作から死亡率上昇に繋がる理由としては,以下のようなものが考えられる.
    • 集中治療群では,インスリンを使用していることから,低血糖発作を起こしたときに診察した医師が意識障害の原因を低血糖発作と連想することができるのに対し,標準治療群では,意識障害の原因を低血糖発作と連想できず,血糖値測定以外の検査や治療を行っている間にブドウ糖投与が遅れたことが考えられる.
    • 集中治療群で低血糖発作が起こるのがインスリンやSU剤などの治療薬が原因となっていると考えられるのに対し,標準治療群で低血糖発作が起こるのは敗血症など他の原因で起こっている可能性がある.
  • ACCORD研究で死亡した人の原因は,心血管疾患(1.7% vs 1.3%),癌と心血管疾患以外の原因(1.0% vs 0.7%)が集中治療群と標準治療群の間に違いがあったものである.
    集中治療群の死亡率上昇は,これらが原因と考えるのが妥当か.
  • ACCORD研究の元論文(NEJM 2008;358:2545)のTable 2をみると,集中治療群で多かった特に多かった(20%以上差があった)処方は,Repaglinide(50.2% vs 17.7%,32.5%差),Thiazolidinedione(91.7% vs 58.3%,33.4%差),Any insulin(77.3% vs 55.4%,21.9%差),Any bolus insulin(55.3% vs 35.0%,20.3%差)であり,これらの薬剤が低血糖とは独立して死亡率を上げた可能性もある(詳細はこちら).
  • 2010年1月27日に発表された後ろ向きコホート研究(Lancet 2010;375:481)では,平均発症から8年経過している糖尿病患者を対象として,HbA1cと死亡率の関係を調べたところ,U字形となり,最も死亡率の低いHbA1cは7.5%だった.
    これは,ACCORD研究の血糖集中治療群で死亡率が有意に増えたことを支持するデータである.

結局のところ,どうすればいいのか:

  • 発症から10年以上経った糖尿病患者では,血糖コントロールは厳格にすべきではない.
  • 低血糖発作は死亡の原因となりうるが,血糖コントロールを集中的に下げることで,それ以外の死亡で増えると考えられる.

コメント:

※エビマヨの会のディスカッションの内容について,ご意見のある方は,是非こちらまでお寄せ下さい.ご了解が得られれば,ご意見をコメント欄に掲載させていただきます(匿名可).
また,管理者は著作権は保持します.引用は自由ですが出典を明記してください.また,可能でしたら,ご利用前に一度ご連絡をお願いいたします.




Copyrights(c)2004- Eishu NANGO
All rights reserved
禁無断転載