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なんごろく−脂質異常症

 SHARP(Study of Heart and Renal Protection)

Baigent C, Landray MJ, Reith C, et al.; on behalf of the SHARP Investigators.
The effects of lowering LDL cholesterol with simvastatin plus ezetimibe in patients with chronic kidney disease (Study of Heart and Renal Protection): a randomised placebo-controlled trial.
Lancet. 2011 Jun 25;377(9784):2181-2192. Epub 2011 Jun 12.
PubMed PMID: 21663949.

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背景: スタチンによるLDLコレステロール低下は,腎疾患のない人では心筋梗塞,虚血性脳卒中,冠動脈血行再建術のリスクを下げるが,中等度から重度の腎疾患をもつ人での効果は不明である.
カテゴリー: 予防
研究デザイン:
 ランダム化比較試験
資金源: Merck/Schering-Plough Pharmaceuticals; Australian National Health and Medical Research Council; British Heart Foundation; UK Medical Research Council.
利益相反: SHARP was initiated, conducted, and interpreted independently of the principal study funder. The Clinical Trial Service Unit and Epidemiological Studies Unit, which is part of the University of Oxford, has a staff policy of not accepting honoraria or consultancy fees.
1.論文のPICOを探る:
P: 慢性腎疾患があり,血清クレアチニンが男性では150mmol/day(1.7mg/dL),女性では130mmol/day(1.5mg/dL)以上の透析中あるいは未透析中の40歳以上の患者
I: simvastatin 20mg+ezetimibe 10mg
C: placebo
O: primary(複合): 主要血管イベント(非致死的心筋梗塞,全心臓死,全脳卒中,透析アクセス手技以外の全血管再建術)
   ただし,試験開始後に主要血管イベントは「非致死的心筋梗塞,冠動脈死,虚血性脳卒中,透析アクセス手技以外の全血管再建術」に変更された(オリジナルから非冠動脈性の心臓死と脳卒中のうち脳出血が除外された).
<補足1>
 本研究では,当初プラセボによる6週間のrun-in periodの後,simvastatin 20mg+ezetimibe 10mg,simvastatin 20mg,placeboの3群に分けて1年間研究した.1年後,simvastatin 20mg群で治療していた患者をランダムに2群に分け,simvastatin 20mg+ezetimibe 10mgとplaceboの2群に組み入れて研究を続行した(Figure 1).初めの1年間simvastatinのみ投与の群を設定したのはsimvastatinにezetimibeを加えることの安全性を評価するためとされ,安全性には問題なかったと示されている.
 この点について,デザイン論文(Am Heart J 2010;160:785)では,以下のようにコメントされている.「SHARPが計画されていた時点ではezetimibeの安全性についてはほとんど情報が存在しなかったため,simvastatin単独群を作り,限られた数の安全性のアウトカムについて,各患者が1年追跡完了した後に運営委員会によって評価されることが予め決められた.その結果,simvastatin+ezetimibe群とsimvastatin単独群の間に安全性アウトカムについて有意な違いは見られなかった.」
2.ランダム割付けされているか?: されている,各施設での割り付け(by the local study laptop computer)であり,concealmentされているかどうかは不明
最小化法(minimised randomisation)が用いられている
3.Baselineは同等か?: 同等.検討が不足している結果に影響を与えうると考えられる因子は,家族歴,薬剤使用(ACE阻害薬,β遮断薬,アスピリン,プラビックス,その他の抗血小板薬,ワーファリン,フィブラートなど)
4-1.ITT解析か?: ITT解析されている
4-2.結果に影響を及ぼすほどの脱落があるか?: ない.追跡率は100%.治療中断は,simvastatin+ezetimibe群で33.0%,プラセボ群で36.1%とプラセボ群の方が有意に多かった
5.マスキング(盲検化)されているか?: double blind.患者と研究スタッフが治療の割付けを知らないとある.Outcome評価者と統計解析者については記載がないが,マスキングされていると思われる(デザイン論文にも記載がない)
6.症例数は十分か?: 
 結果に有意差があるので,十分足りている
 設定された症例数: 全例4年以上の治療でイベント発症数1100人となるように,透析患者3,000人,非透析CKD患者6,000人と設定された
 発症率: 主要血管イベント(非致死的心筋梗塞,全心臓死,全脳卒中,透析アクセス手技以外の全血管再建術)の年間発症率3.7%
 治療効果の大きさ: 20%相対危険度減少
 αlevel: 1%(両側)
 検出力: 90%
<補足2>
 primary outcomeの変更と症例数の設定について,デザイン論文(Am Heart J 2010;160:785)に以下の記載がある.
 2.5年経過した時点で,主要血管イベントの年間発症率が4.3%と当初の予測より高く,その1/3が非冠動脈心臓死と出血性脳卒中だった.また,LDLコレステロール低下は33mg/dLと当初の予想の39mg/dLより下回っていた.このため,もともとのprimary outcomeである主要血管イベントは相対危険度減少率(RRR)13%が現実的であり,検出力66%,αレベル1%(両側)で症例数を8,400人に設定すればよい(減らしてよい)とされた.そのため,研究途中でprimary outcomeは「非致死的心筋梗塞,冠動脈死,虚血性脳卒中,透析アクセス手技以外の全血管再建術」に変更され,その結果,オリジナルのprimary outcomeでは,効果が13%減少,症例数が8400人だと検出率66%,9400人だと検出率72%となるところが,新しいprimary outcomeでは,効果が18%減少,症例数が8400人だと検出率84%,9400人だと検出率88%に上がった.
7.結果の評価:
追跡期間は平均4.5年.
メインとなる結果はFigure 2とFigure 3にある.
Primary outcomeの結果は,CKD患者がスタチンとezetimibeを併用するとプラセボと比較して心血管疾患が減るというものだが,これは複合エンドポイントである.複合アウトカムは注意して解釈しなければならない.本研究では,Figure 3(あるいは下の表)の通り,複合アウトカムに含まれる個々のアウトカム別で見ると結果が一致していない.脳梗塞と血管再建術は有意に減少するが,冠動脈イベントには有意差はついていない.治療効果で見ても,脳梗塞と血行再建術のRRがそれぞれ0.75と0.79であるのに対して,冠動脈イベントのRRは0.92であって異なる.個々のアウトカムの結果(効果の大きさ,有意差)が一致していないものを合わせて複合アウトカムにしてはいけない.なぜなら,複合アウトカムででた有意差は,個々のアウトカムで有意差が出たものが有意差のでなかったアウトカムを引っ張り上げているからである.今回の場合は,脳梗塞と血行再建術の効果が冠動脈イベントの効果を引き上げているのである.論文の結論は「冠動脈イベント,脳梗塞,血行再建術を含む複合アウトカムがsimvastatinとezetimibeの併用により有意に減少した」だが,これでは,冠動脈イベント,脳梗塞,血行再建術のいずれも有意に減らせたような印象を受けてしまう.ですから,不適切なアウトカム設定と言えるだろう.複合アウトカムを見たら,個々のアウトカムの効果と有意差を確認す必要がある.
Figure 2では,縦軸の最大値が25%であることに注意したい.縦軸を100%にするとグラフは圧縮され,見た目の印象として,両群の違いは小さくなる.
simvastatin+
ezetimibe群
placebo群 RR RRR ARR NNT p値
冠動脈イベント 213(4.6%) 230(5.0%) 0.92 8% 0.4% 250 0.37
脳梗塞 131(2.8%) 174(3.8%) 0.75 26% 1.0% 100 0.01
血行再建術 284(6.1%) 352(7.6%) 0.79 20% 1.5% 67 0.0036
合計(主要動脈硬化イベント) 526(11.3%) 619(13.4%) 0.83 16% 1.9% 48 0.0021

今回の研究では,Primary outcomeがMajor vascular eventsからMajor atherosclerotic eventsに変更されている.内容としては,最初の複合アウトカムから非冠動脈性の心臓死と出血性脳卒中が除外された.その結果は論文の本文にはなく,Supplementary webappendixのWebfigure 1に示されている.
これを見ると,除外された出血性脳卒中はRR 1.21(0.78〜1.86)であり,有意差はないものの,むしろ増える傾向を示した.もう一つ除外された非冠動脈性の心臓死については,RR 0.89(0.72〜1.09)と減らす傾向があったものの有意差はなかった.この2つを除外することにより,効果はより良くなる方向に動く.ただ,オリジナルのprimary outcomeであっても,RR 0.85(0.77〜0.94)で有意差もあった(p=0.0012).
サブグループ解析の結果は, Figure 4にある.
サブ解析では,非透析CKD患者では有意に減っていたが,透析患者では有意差はつかなかった.透析患者では,使っても効果は期待できない.
死亡に関する結果は,Figure 5にある.
この結果を見ると,総死亡は全く変わらない.
血管死はRR 0.93でやや減る傾向にあるが,有意差はついていない.
非血管死については,有意差はついていないものの癌死が2.8%から3.2%に増えており,全体としてもRR 1.09と増加する傾向にある.
脳出血については,Figure 6に過去の研究と共に示されている.
これを見ると,SHARPのみならず,ほとんどの研究で有意差はないものの脂質低下療法で脳出血は増加する傾向が見られる.

ディスカッション:

  • 本研究では,有意差の見られたprimary outcomeが複合アウトカムであり,その問題点については上述した.今回の研究では,冠動脈イベントは有意に減らせていないことに注目するべきである.
  • さらに複合アウトカムで気を付けるべきことは,複合アウトカムのイベント発症率のなかで,血管再建術が半分以上を占めることである.本研究はマスキングされているが,採血でLDLコレステロール値を見れば,その患者が飲んでいる試験薬が実薬か偽薬かは簡単に推測できる.つまり,マスキングされているといっても実際にはどちらの群に割り付けられているかは分かってしまうのであり,実質的にマスキングしていないのと一緒である.そのような状況下では,血管再建術のような実施に主観が含まれてしまうようなアウトカムはバイアス(情報バイアス)を生じる可能性があり危険である.かつて,pravastatinの一次予防効果を検証したWOSCOP(NEJM1995;333:1301)では,血液検査でのコレステロール値も隠して研究を行っていたが,そうまでして行わないと,本当にマスキングしたとは言えないのである.したがって,本研究で血行再建術をアウトカムに設定するのは不適切だろう.
  • ezetimibeを使用しても死亡は減らせない(生命予後は延長しない).
  • Figure 2は,最初の1年間両群で差がないのに注目するべきである.この1年間はsimvastatin単独療法群があった期間であり,placebo群は1年後から急にイベント発症率が増えている.これはそれまでsimvastatinを服用していた人がplacebo群になったために(Figure 2では,始めからplacebo群に組み込まれている),実質的にsimvastatinを中止したことになっているためである.このような研究デザインは,倫理的に問題があるのではないだろうか.逆に,simvastatin+ezetimibe群に割り付けられた人が加わったことで,(ezetimibeにイベント発症抑制効果が本当にあるなら)1年後を境にイベント発症率が下がるはずだが,実際にはFigure 2を見る限り変化していない(線路の分岐みたいに,placebo群は1年後から上にズレているのに対して,simvastatin+ezetimibe群は直線的に増えている).つまり,本研究は,placebo群の1割程の患者が1年後に,それまで服用していたsimvastatinを中止したために,差が生じてしまった研究であり,もっといえば,simvastatinを続けたか中止したかの違いを見た研究であると言える(たかが1割と思うかも知れないが,イベントを発症しているのが1割余りであり,結果に影響を与えるのに十分な割合である).本研究の有意な違いは,ezetimibeの効果とは言えないのである.私が研究するなら(しないが),simvastatinが両群とも治療されている状態で,ezetimibeを加えるのと加えないのとで心血管イベントの発症率に差があるかどうかをみるが,恐らく症例数を膨大にしないと差がでないだろう.
  • Figure 5をみると,過去の研究も含めて,LDLコレステロールを低下させる治療はどれも一様に脳出血を増やす傾向がある.すると,今回の研究で,途中でprimary outcomeから冠動脈以外の心臓死と脳出血が除外されたことは,primary outcomeの有意差を出しやすくするための戦略であったと考えざるを得ない.結果的には,オリジナルのprimary outcomeでも有意差が出たとあるが,研究者の独り相撲だったのではないだろうか.

結局のところ,どうすればいいのか:

  • この研究を以て,ezetimibeを使用すると心血管疾患(特に脳梗塞)の発症が減らせるとは結論づけられない.少なくとも冠動脈イベントを減らすとは言えない.
  • 原則として第一選択薬として使うべき薬ではないが,ezetimibeを使うのであれば,透析を受けていなくて,冠動脈イベントのリスクが高いCKD患者が,スタチンを使用してもLDLコレステロールが低下しない場合に限定するべきである.一次予防に有効とは言い難いが,かといって二次予防に有効かどうかも分かっていないので,心血管疾患の既往がある患者で使用を推奨するとも言えない.

コメント:

  • 本研究は,第2回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会(2011.7.3,札幌)でのWS19「医学論文の深い読み方/使い方」で題材として使用しました.

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