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なんごろく−糖尿病

概説 overview
 糖尿病患者で明らかにしておくべきこと (最終更新2010/4/10)
 1型糖尿病の診断 (最終更新2015/3/4)
 米国糖尿病学会ADAの糖尿病診療指針 (最終更新2016/1/10)
検査
 血糖値とHbA1cの相関関係 (最終更新2011/4/22)
 糖尿病診断基準の改定 (最終更新2013/8/14)
動脈硬化関連疾患の危険因子 (最終更新2015/3/19)
合併症評価−大血管障害 (最終更新2010/4/13)
合併症評価−細小血管障害 (最終更新2014/1/10)
治療
 糖尿病性網膜症がある場合の血糖コントロール (最終更新2010/8/6)
 メトホルミンが第一選択である理由 (最終更新2015/3/3)
 メトホルミンの次に加えるべき薬は何か? (最終更新2015/2/26)
 DPP-4阻害薬は心血管イベントを減らすか (最終更新2015/3/26)
 インスリン抵抗性改善薬(アクトス)は使うべきではない (最終更新2011/6/17)
 αGIは心筋梗塞を減らすか (最終更新2015/4/13)
 SGLT2阻害薬で長生きできるか (最終更新2015/11/9)
 血糖降下薬の効果まとめ (最終更新2015/3/3)
 経口血糖降下薬の選び方 (最終更新2015/4/7)
 インスリン (最終更新2012/5/27)
 病棟での血糖コントロールの方法−スライディングスケールは使用すべきではない (最終更新2016/2/22)
 発症10年以上経過している2型糖尿病では,厳格な血糖コントロールをすべきではない理由 (最終更新2016/12/7)
 糖尿病患者における血圧管理 (最終更新2012/9/23)

 概説 overview

糖尿病患者で明らかにしておくべきこと (最終更新2011/4/22)

  • 糖尿病罹病期間: 発症からの年数,発症から現在までの血糖コントロール状態
  • 診断のきっかけ: 健診で指摘,症状が出現して受診,他の疾患の診療中に指摘,など
  • 現在の血糖コントロール状況
  • 内因性インスリン分泌の喪失の程度: 空腹時血中CPR,1日尿中CPR
  • インスリン抵抗性: HOMA-IR
  • 動脈硬化の危険因子保有状況: 糖尿病,高血圧症,脂質異常症,喫煙,肥満,年齢,性別,家族歴(大血管障害),心房細動
  • 合併症合併状況
    • 大血管障害:
       脳血管障害: 頚動脈超音波,頭部MRA
       冠動脈疾患: 負荷心電図,負荷Tlシンチグラフィー,冠動脈CT,冠動脈血管造影
       末梢動脈疾患(閉塞性動脈硬化症): ABI,下肢MRA,下肢動脈血管造影
    • 細小血管障害:
       糖尿病性網膜症: 福田分類
       糖尿病性腎症: 1日尿中ミクロアルブミン定量,1日尿蛋白定量
       糖尿病性神経障害: Italian Society of Diabetologyの神経障害症候質問紙,Michigan Neuropathy Screening Instrument(MNSI)
       糖尿病性足壊疽: 測定を観察
  • 食事療法の指導歴,遵守率
  • 運動療法の指導歴,遵守率
  • 薬物療法(経口血糖降下薬,インスリン)の指導歴

1型糖尿病の診断 (項目新設2015/3/4,最終更新2015/3/4)

抗GAD抗体を測定する
1.5以下なら陰性で2型糖尿病
10以上ならSPIDDM(緩徐進行1型糖尿病)と診断し、早期からインスリンを導入する
4.0から9.9までは、IA-2のような他の自己抗体の検査、抗GAD抗体の定期的な再検査をしながら、慎重に経過を診る
治療薬として少なくともSU薬は使用しないこと
インクレチン関連薬がこのような症例で、β細胞機能を保持できるのか?は現在研究中
4.0から9.9の場合は、長期間(約10年)で1型に移行していく症例もある

米国糖尿病学会ADAの糖尿病診療指針 (項目新設2013/1/11,最終更新2016/1/10)

米国糖尿病学会(American diabetic association: ADA)は,毎年年初に糖尿病診療指針(Position statement)を出しています.

従来,Diabetes CareのSupplement 1はClinical Practice Recommendationsと呼ばれており,"Standards of Medical Care in Diabetes"とADAのkey position statementsが含まれていました.2015年よりsupplementは"Standards of Medical Care in Diabetes ("Standards")"と呼ばれるようになり,糖尿病管理についてのエビデンスに基づいた臨床診療推奨を提示するADAの単一のposition statementになりました.

ここでは,Diabetes Careに掲載された2016年のADAのposition statementである”Standards of Medical Care”から,Summary of Revisionsとstatementの主なものを抜粋し和訳しました(全文訳でなくて,申し訳ありません.主に2型糖尿病の部分について取り上げています).ところどころ,私のコメントを付けてあります.

ADAのPosition statementはGRADE systemを使用していません.推奨度は独自の基準でA〜CおよびEが付けられていますので,注意のこと.

 2015年版はこちら
 2014年版はこちら
 2013年版はこちら


2015年からの変更点(Standards of Medical Care in Diabetes-2016: Summary of Revisions
Standards of Medical Care in Diabetes-2016: Summary of Revisions
近年の新しいエビデンス関連してたくさんの微細な変更と明確になった推奨が加えられたが,以下の章にはより大きな変更が加えられた.
Section 1. ケアの改善のための戦略
このセクションでは,糖尿病弱者に合わせた治療の推奨と,栄養不良,認知機能障害や精神疾患,HIVをもつ患者に対する推奨と,人種,文化、性別、社会経済的差異に関連した格差についての議論を含めるように改訂された.
Section 2. 糖尿病の分類と診断
診断的検査(空腹時血糖,75gGTT後の2時間血糖値,HbA1c基準)のまとめと議論では,単一の検査で他よりも明確に診断に優れるものはないと改訂された.
年齢,BMI,2型糖尿病と全糖尿病のリスクとの関係を明らかにするために,ADAはスクリーニングの推奨を改訂した.現在のところ,すべての成人で体重によらずに45歳で検査を開始するように推奨する.
過体重または肥満の場合と糖尿病の付加的なリスクファクターが1つ以上ある場合は,全ての無症状の成人で検査を推奨する.妊娠糖尿病における検査の推奨はSection 2を参照のこと.
単一遺伝子糖尿病症候群monogenic diabetes syndromesには,患者と家族の検査,診断,評価における具体的なガイダンスがある.
Section 3.ケアの基本と包括的医学的評価
2015 StandardsのSection 3「初期評価と糖尿病管理計画」とSection 4「ケアの基盤:教育,栄養,身体活動,禁煙,心理ケア,予防接種」は,生活習慣や行動の変容の重要性を強調するために,医学的評価,患者の関与,および継続的なケアを統合することの重要性を反映して,2016年では医学的評価,1つの章に合わさった.
Section 4.2型糖尿病の予防,発症遅延
2型糖尿病予防における技術の役割の変化を反映して,糖尿病予防のための生活習慣改善に役立つアプリやテキストメッセージなどの新しい技術の使用を促進することが推奨に加えられた.
Section 5. 血糖目標値
インスリン依存型糖尿病の高齢者が増えているため,ADAは連続血糖モニタリングとインスリンポンプの使用している患者は65歳を超えてもアクセスを継続するべきであるという推奨を追加した.
Section 6. 2型糖尿病治療における肥満管理
減量手術に関連する以前の推奨を統合させたこの新しい章には,糖尿病における体重の包括的評価と行動変容と薬物治療を用いた過体重・肥満の治療に関連した新しい推奨がある.
この小児は,肥満の長期治療のための現在認可されている薬剤の新しい表も含まれている.
Section 7. 血糖治療のアプローチ
減量手術はこの章から「2型糖尿病における肥満治療」という新しい章に移動した.
Sectioon 8. 心血管疾患とリスク管理
よりはっきりとした言葉として,以前の用語である「心血管疾患」(CVD)から「動脈硬化性心血管疾患」(ASCVD)に置き換えられた.
高齢者の薬物治療についての新しい推奨が追加された.
女性のASCVDリスクについての新しいエビデンスを反映して,60歳を超える女性におけるアスピリン治療を考慮する推奨は50歳以上の女性も含むように変えられた.多数の危険因子を持つ50歳未満の患者でも抗血小板薬を使用するように推奨が加えられた.
中強度のスタチンにエゼチミブを追加することが糖尿病患者の一部に大して追加の心血管利益をもたらすという新しいエビデンスを反映して,これを考慮するべきという推奨が作られた.
Section 9. 細小血管障害とフットケア
腎症はさまざまな原因から生じうるが,直接糖尿病と関連する腎疾患であることを強調するために,「Nephropathy腎症」は「Diabetic kidney disease糖尿病性腎疾患」に変わった.この章では,幾つかの軽微な編集が行われた.大きなものは,新しいエビデンスにもとづいて,以下の様なものである.
糖尿病生腎疾患:腎代替治療をいつ行うかと,糖尿病生人疾患のケアで経験のある医師にいつ紹介するかのガイドランスが加えられた.
糖尿病性網膜症:中心を含む糖尿病性黄斑浮腫の治療において,レーザー治療の単独療法や併用療法よりも効果がある硝子体内抗VEGF剤を使用するガイダンスが加えられた.
Section 10. 高齢者
この章の範囲は高齢者における糖尿病ケアの微妙な違いをより包括的に捉えることである.ここには,神経認知機能,低血糖,治療目標,糖尿病自己管理教育とサポート,心理的問題,熟練した看護施設,ナーシングホーム,エンドオブライフで考えることが含まれている.
Section 11. 小児と青年
この章の範囲は小児における糖尿病ケアの微妙な違いをより包括的に捉えることである.ここには,糖尿病自己管理教育とサポート,心理的問題,若年2型糖尿病の治療ガイドラインに対処する新たな推奨が含まれる.
小児の空腹時の脂質プロファイルの開始年齢の推奨が,米国心臓学会とADAの1型糖尿病の科学的ステートメントに基づいて,2歳から10歳に変更された.
Section 12. 妊娠における糖尿病の管理
この章の範囲は全妊娠糖尿病,妊娠糖尿病,妊娠における糖尿病の管理の一般的な原則についてのより包括的な新しい推奨を示すことである.
新しい推奨は,もともと糖尿病である女性が家族計画と効果的な避妊について議論することの重要性を強調するために加えられた.
糖尿病を持つ妊娠女性におけるA1Cの推奨は,低血糖リスクによって目標は厳しくまたは緩くするかも知れないが,6%未満の推奨から6〜6.5%の目標に変更された.
妊娠糖尿病におけるglyburideはインスリンとメトホルミンに劣るかもしれないという新しいデータに基づいて,取り上げられくなった.
Section 13. 病院における糖尿病ケア
この章は入院の状況で糖尿病ケアのみについて焦点を当てるように改訂された.この章では病院で提供するケアのスタンダード,血糖目標と抗高血糖薬についてのより詳細な情報,特別な状況でのスタンダード,急性期ケアの場からの移行について,包括的に示しています.
この章では,連続経腸栄養,間歇経腸栄養,非経口栄養のための基礎およびボーラス投与量の推奨についての新しい表も含まれています.
Section 14. 糖尿病のアドボカシー
「Diabetes Care in the School Setting: A Position Statement of the American Diabetes Association:は2015年に改訂された.このposition statementは以前は「Diabetes Care in the School and Day Care Setting」と呼ばれていた.糖尿病ケアにおいて2つのコホートが明らかに異なるため,ADAは意図的にこれら2つの集団を分けた.

”Standards of Medical Care in Diabetes-2016”の推奨抜粋

文中のA〜C,Eは本診療ガイドライン中のエビデンスレベルを示しています(GRADE systemのgradingとは異なるので注意).
ところどころ,管理人による注釈を斜字体でつけています.
ADA Position StatmentにおけるGrading system

1.ケアの改善のための戦略 Strageties for Improving Care
  • 患者の好みを取り入れ,リテラシーと基本的な計算能力を評価し,ケアに対する文化的バリアーに対処する患者中心のコミュニケーションスタイルを用いるべきである.B
  • 治療の決定は,タイムリーに行い,個々の患者の好み,予後,併存疾患に応じてエビデンスに基づいた診療ガイドラインに基づくべきである.B
  • ケアは,用意周到で積極的な診療チームと情報提供されることで意欲を持った患者との生産的な相互作用が確保された,慢性ケアモデル(Chronic Care Model)の構成要素が提携して行うべきである.A
  • 実現可能ならば,ケアシステムは患者のニーズを満たすために,チームによるケア,コミュニティの関与,患者登録,意思決定支援ツールをサポートするべきである.B
栄養不良
  • 臨床医は栄養不良という観点から高血糖と低血糖を評価し,それに応じて解決策を提案するべきである.A
  • 臨床医はホームレス,低いリテラシー,低い計算能力がしばしば栄養不良を引き起こすことを認識するべきであり,糖尿病患者が適切な資源を利用できるようにするべきである.A
認知機能障害
  • 2型糖尿病の高血糖患者が,認知機能を改善させるために厳格な血糖コントロールを行うことは推奨されない.B
  • 認知機能が悪く重度の低血糖のある患者では,血糖治療は重大な低血糖を避けるために個別化して行うべきである.C
  • 心血管リスクが高い糖尿病患者では,スタチン治療の心血管ベネフィットは認知機能障害のリスクよりも重い.A
  • もし第2世代抗精神病薬を処方するならば,体重,血糖コントロール,コレステロールレベルを注意深くモニターし,治療レジメンを再評価するべきである.C
HIVに感染している患者の糖尿病ケア
  • HIVに感染している患者は,抗レトロウイルス療法を始める前と,開始3ヶ月後,用量を変更したときに,空腹時血糖を用いた糖尿病と前糖尿病のスクリーニングをするべきである.最初のスクリーニングが正常であれば,毎年空腹時血糖をチェックするようにアドバイスする.前糖尿病が見つかった場合は,糖尿病への進展をモニターするために3〜6ヶ月毎に測定を継続する.E
2.糖尿病の分類と診断 Classification and Diagnosis of Diabetes
糖尿病のリスクが高いカテゴリ(前糖尿病)
  • 過体重または肥満(BMI≧25 kg/m2,またはアジア系アメリカ人ではBMI>23 kg/m2)の場合と糖尿病の付加的なリスクファクターが1つ以上ある場合は,無症状の成人で将来の糖尿病のリスクを評価するために検査を行うことを考慮するべきである.B
  • すべての人は,検査は45歳で開始するべきである.B
  • 検査が正常ならば,3年以上たってから再検査するのが合理的である.C
  • 前糖尿病の検査には,空腹時血糖,75gGTTのあと2時間血糖値,A1Cはいずれも同等に適切である.B
  • 前糖尿病患者では,他の心血管疾患リスクファクターを同定し,可能ならば治療するべきである.B
  • 前糖尿病を見つける検査は,体重過多や肥満があるか,糖尿病の付加的なリスクファクターを2つ以上持っている子供や青年で考慮するべきである.E
1型糖尿病
  • 症状のある高血糖の患者では,1型糖尿病の急性発症を診断するために,A1Cよりも血糖を用いるべきである.E
  • 1型糖尿病の患者家族に,1型糖尿病リスクを検査する機会を案内する.しかしこれは臨床研究でしかできない.E
2型糖尿病
  • 症状のない人の中で2型糖尿病を見つけるための検査は,体重過多または肥満(BMI≧25 kg/m2またはアジア系アメリカ人では≧23 kg/m2)と糖尿病の付加的な危険因子が1つ以上ある全年齢の成人で考慮するべきである.B
  • すべての人は,検査を45歳で開始するべきである.B
  • 検査が正常の場合は,最短3年の感覚で再度検査を行うのが合理的である.C
  • 2型糖尿病に対する検査としては,空腹時血糖,75gGTT後の2時間血糖値,A1Cはいずれも同等に適切である.B
  • 糖尿病患者では,他の心血管疾患リスクファクターを同定し,必要ならは治療するべきである.B
  • 前糖尿病を見つける検査は,体重過多や肥満があるか,糖尿病の付加的なリスクファクターを2つ以上持っている子供や青年で考慮するべきである.E
  • 診断基準(次のいずれかが該当)
     空腹時血糖値(FPG)≧126 mg/dL(7.0 mmol/L).空腹とは,カロリー摂取のない時間が8時間以上と定義.
     OGTTで2時間血糖値≧200 mg/dL(11.1 mmol/L).WHOの提示する75gOGTTで測定する.
     A1C≧6.5%(48 mmol/mol).検査はNGSP法でDCCTアッセイで標準化された方法で行うべきである.
     高血糖や高血糖クライシスの古典的な症状を呈する患者で,随時血糖値≧200 mg/dL(11.1 mmol/L).
妊娠糖尿病
  • 標準的な診断基準を用いて,最初の出生前健診時に未診断の2型糖尿病のための検査を行う.B
  • 糖尿病の既往のない妊娠女性では,妊娠24〜48週で妊娠糖尿病の検査を行う.A
  • 永続的な糖尿病のために,GTTと臨床的に適切な非妊婦の診断基準を用いて,産後6〜12週の妊娠糖尿病の女性をスクリーニングする.E
  • 妊娠糖尿病の既往のある女性は,少なくとも3年毎に糖尿病や前糖尿病への進展について,生涯に渡ってスクリーニングを行うべきである.B
  • 妊娠糖尿病の既往のあり前糖尿病が見つかった女性は,糖尿病を予防するために生活習慣介入とメトホルミンを受け取るべきである.A
3.ケアの基本と包括的医学的評価 Foundations of Care and Comprehensive Medical Evaluation
Table 3.1:包括的医学的評価のコンポーネント
病歴
  • 糖尿病の発症年齢と発症形式(例えば,糖尿病性ケトアシドーシス,症状がなく検査所見で指摘)
  • 食事のパターン,栄養状態,体重歴,身体活動習慣,栄養教育,行動サポートの経歴と必要性
  • 一般的な併存疾患,心理的問題,歯科疾患
  • PHQ-2(PHQ-2が陽性の場合はPHQ-9)とEdinburgh Postnatal Depression Scale(EPDS)を用いたうつ病のスクリーニング
  • DDSまたはPAID-1を用いた糖尿病による苦悩(diabetes distress)のスクリーニング
  • 喫煙,アルコール消費,薬物使用歴
  • 糖尿病教育,自己管理,支援歴と必要性
  • これまでの治療レジメンと治療による反応(A1C記録)のレビュー
  • 血糖モニタリングの結果と,患者によるデータの利用
  • 糖尿病性ケトアシドーシスの頻度,重症度,および原因
  • 低血糖エピソードとその認識,重症度,及び原因
  • 血圧上昇,脂質の増加,喫煙の既往
  • 細小血管合併症:網膜症,腎症,神経障害(足病変の既往を含む感覚障害,性機能障害と腸管麻痺を含む自律神経障害)
  • 大血管合併症:冠動脈疾患,脳動脈疾患,末梢動脈疾患
身体診察
  • 身長,体重,およびBMI.小児と青年における成長と思春期発達
  • 血圧測定,必要があれば,起立時も測定する
  • 眼底検査
  • 甲状腺触診
  • 皮膚診察(例えば,黒色表皮症,インスリン注射や注入セット挿入部)
  • 包括的な足の診察
    • 視診
    • 足背と後脛部の脈拍触知
    • 膝蓋腱反射とアキレス腱反射の有無
    • 固有感覚,振動,およびモノフィラメント感覚
検査
  • A1C,過去3ヶ月以内に測定されていなければ
  • 過去1年以内に行われていなければ
    • 空腹時脂質プロファイル,総コレステロール,LDLコレステロール,HDLコレステロール,中性脂肪を必要に応じて
    • 肝機能検査
    • 随時尿アルブミン/クレアチニン比
    • 血清クレアチニンとeGFR
    • 1型糖尿病患者や脂質異常症,>50歳の女性では,甲状腺刺激ホルモン
糖尿病自己管理教育とサポート
  • 糖尿病自己管理教育(DSME)とサポート(DSMS)のための国の基準によれば,すべての糖尿病患者は診断時とその後必要に応じて,糖尿病自己管理のために必要な知識,技術,能力を得るためにDSMEに,継続的な自己管理のために必要な能力や行動を得て維持することを支援するDSMSに参加するべきである.B
  • 効果的な自己管理,改善された臨床アウトカム,健康状態,生活の質はDSMEとSSMSのキーとなるアウトカムであり,ケアの一貫として測定されモニターされるべきである.C
  • DSMEとDSMSプログラムは患者中心で,敬意を表し,個々の患者の嗜好,ニーズ,価値に答えたものであるべきで,臨床決断を導くものであるべきである.A
  • DSMEとDSMSプログラムは,糖尿病の発症を予防するために有用なカリキュラムに必要な要素をが含まれているべきである.したがってDSMEとDSMSプログラムは,糖尿病の予防が求められたゴールであるときには,その内容を個別化させるべきである.B
  • DSMEとDSMSプログラムは,結果的に費用を抑えアウトカムを改善することができ B,DSMEとDSMSは第三者の支払者によって十分に弁済されるべきである.E
Table 3.3:栄養療法の推奨
 項目  推奨  エビデンス評価
 栄養療法の効果
  • 個別化されたMNTプログラムはすべての1型ないし2型糖尿病患者に推奨され,管理栄養士により提供されることが望ましい.
 A
  • 1型糖尿病患者と柔軟なインスリン治療プログラムを処方されている2型糖尿病患者には,カーボカウントと食事の時のインスリン投与量の決定のための推定の仕方の教育は血糖コントロールを改善することができる.
 A
  • 日々のインスリン投与量が固定されている患者では,炭水化物摂取パターンが時間,量ともに一定であれば,血糖コントロールが改善し,低血糖のリスクが減る.
 B
  • 健康的な食品の選択と食事量の調節に重点を置いた血糖と体重管理のシンプルで効果的なアプローチは,インスリンを使用していない2型糖尿病患者と健康リテラシーと計算能力に限界がある患者と低血糖を起こしがちな高齢者でより有用かもしれない.
 C
  • 糖尿病の栄養治療は結果的に費用が節約でき B,アウトカム(例えば,A1C減少)を改善し A,MNTは保険徒歩あの支払者によって十分払い戻されるべきである.E
 B,A,E
 栄養バランス
  • 生活習慣改変とエネルギー摂取減量によって達成できる僅かな体重減少は,2型糖尿病の体重過多と肥満の患者と,糖尿病のリスクのある患者に利益がある.
 A
 食べ方のパターンと主要栄養素分布
  • 糖尿病患者において単一の理想的な食事中の炭水化物,脂肪,蛋白のカロリー分布は存在しないので,総カロリーを維持してと代謝ゴールを念頭に置きつつ,主要栄養素分布は個別化されるべきである.
 E
  • 繊維が多く血糖負荷の低い食品に重点を置いて,全粒穀物,野菜,果物,豆類,乳製品から炭水化物を摂取することを,他の食品,特に砂糖の含まれるものから摂取することよりも勧められるべきである.
 B
  • 糖尿病患者とそのリスクがある患者は,体重をコントロールしてCVDと脂肪肝のリスクを減らすために,砂糖を含む飲料を避けるべきであり B,健康を損なう可能性があるショ糖を含んだ食品の消費を減らし,より栄養密度の高い食品の選択を最小化するべきである.A
 B,A
 蛋白質
  • 2型糖尿病患者では,摂取した蛋白質は血糖値を上げることなくインスリンの反応を増やすと思われる.
 B
 食事中の脂肪
  • 糖尿病患者における食事中の理想的な総脂肪量については結論が出ていないが,一価不飽和脂肪が豊富な地中海式食事の要素を強調した食事の計画は糖代謝を改善し,CVDリスクを下げるかもしれず,総脂肪を減らし相対的に炭水化物を増やした食事の効果的に代えられるかもしれない.
 B
  • 脂肪の多い魚(EPAとDHA)とナッツや種子(ALA)のような調査ω3系脂肪酸が多く含まれている食品を食べることは,CVDをの予防や治療のために推奨される B が,ω3系のサプリメントに利益があることを示すエビデンスはない.A
 B,A
 微量栄養素とハーブサプリメント
  • ビタミン,ミネラル,ハーブ,スパイスの摂取が糖尿病を改善するという明らかなエビデンスはなく,ビタミンE,C,カロチンといった抗酸化サプリメントの長期使用に関する安全上の懸念があるかもしれない.
 C
 飲酒
  • 飲酒する糖尿病成人は,節酒するべきである(成人女性では1日1ドリンク以下,成人男性では1日2ドリンク以下).(注:米国では1ドリンクは14gで,ビール小瓶1本に相当)
 C
  • 糖尿病患者のアルコール摂取は,特にインスリンやインスリン分泌改善薬を使用している場合は,遷延性の低血糖を起こすリスクを増やすかもしれない.遷延性低血糖の認識と管理に関する教育と理解を行う.
 B
 ナトリウム
  • 一般的な手段としては,糖尿病患者はナトリウム摂取量を<2,300 mg/日に制限するべきである.糖尿病と高血圧を併存している患者では,さらなる制限が必要だろう.
 B
身体活動
  • 糖尿病と前糖尿病の子供は毎日60分以上の身体活動を行うように勧めるべきである.B
  • 糖尿病の成人は150分/週以上の中等度の強度の有酸素身体活動(最大心拍数の50〜70%)を,週3回以上,運動をしない日が2日以上連続しないように分けて行うようにアドバイスするべきである.A
  • すべての糖尿病患者は座っている時間を減らし,特に座っている時間が長くなるよう(>90分)ならば分割するように奨励するべきであるB
  • 禁忌がなければ,2型糖尿病の成人は週に2回以上筋力トレーニングを行うことを推奨するべきである.A
禁煙:タバコと電子タバコ
  • すべての患者がタバコやその他のタバコ製品,電子タバコを使用しないように奨励する.A
  • 禁煙カウンセリングやその他の治療法を糖尿病ケアのルーチンの項目に含める.B
ワクチン
  • 糖尿病の子供と大人に対するルーチンのワクチン接種を一般人の年齢に応じた推奨に従って行う.C
  • B型肝炎ワクチンを,19〜59歳の接種をしていない糖尿病成人に対して接種する.C
  • B型肝炎ワクチンを,≧60歳の摂取していない糖尿病成人に対して接種することを考慮する.C
心理的問題
  • 患者の心理的社会的状況は糖尿病の医学的管理に含まれるべきである.B
  • 心理的スクリーニングとフォローアップは,病気にチアする態度,医学的管理とアウトカムに関する期待,糖尿病があることによる影響/気分,一般的なQOLと糖尿病関連QOL,リソース(経済的,社会的,感情的),および精神疾患歴などであるが,これに制限されない.E
  • うつ病,糖尿病関連苦痛,不安,摂食障害,認知機能障害といった心理的問題をルーチンでスクリーニングする.B
  • 糖尿病の高齢者(年齢≧65歳)は,認知機能の評価とうつ病のスクリーニングと治療を考慮するべきである.B
  • 糖尿病とうつ病が併存している患者は,うつ病の管理のために,段階的な協働ケアアプローチを受けるべきである.A
包括的医学評価
以下に挙げた完全な医学的評価を初診時に行うべきである
  • 糖尿病の診断と分類を確認する.B
  • 糖尿病合併症と明らかになっていない併存疾患を探す.E
  • 糖尿病が確立された患者では,これまでの治療をレビューしてリスクファクターのコントロールを行う.E
  • ケアの管理計画の策定を開始する.B
  • ケアの継続の計画を立てる.B
4.2型糖尿病発症予防 Prevention or Delay of Type 2 Diabetes
  • 全糖尿病患者は,体重を7%減らす標的糖尿病予防プログラム(DPP)の見解にしたがって厳格な食事療法と身体活動習慣のカウンセリングプログラムに参加させ,中等度の強度の身体活動(早歩きなど)を150分/週以上行うように増やすべきである.A
  • 糖尿病予防を長期間成功させるために,フォローアップのカウンセリングと維持プログラムを提供するべきである.B
  • 糖尿病予防の費用対効果に基づいて,そのようなプログラムは第3者の支払者によってカバーされるべきである.B
  • 2型糖尿病予防のためのメトホルミン治療は,全糖尿病患者,特にBMI>35kg/m2,<60歳,妊娠糖尿病の既往のある女性で考慮されるべきである.A
  • 前糖尿病患者では,糖尿病への進展がないか年1回以上モニタリングを勧められる.E
  • 修正可能な心血管疾患のリスクファクターのスクリーニングと治療が勧められる.B
  • 糖尿病自己管理教育とサポートプログラムは,糖尿病発症の予防と遅延を可能にする教育を受け,行動を起こし維持することをサポートするために,前糖尿病患者にとって適切な場となる.B
  • インターネットのソーシャルネットワーク,遠隔学習,DVDベースのコンテンツ,モバイルアプリケーションなどの技術支援ツールには,糖尿病を予防するための効果的な生活習慣の改善の有効な要素となることができる.B
5.血糖目標値 Glycemic Targets
血糖コントロールの評価
  • 広い教育的文脈の一部として処方されるとき,血糖自己測定(SMBG)の結果は,より少ない頻度のインスリン注射や B,非インスリン治療 E を行っている患者が治療の決定と自己管理を導くのを助けるかもしれない.E
  • SMBGを処方するとき,患者は継続的な指導を受け,SMBGの手技とSMBGの結果の定期的な評価を受ける.E
  • 厳格なインスリンレジメン(頻回のインスリンやインスリンポンプ療法)をしているほとんどの患者は,食事と間食の前,場合によっては食後,就寝時,運動前,低血糖が疑われるとき,血糖が正常になるまでの低血糖の治療後,および車の運転のような重要なタスクの前に,SMBGを行うことを考慮するべきである.B
  • 強化インスリンレジメンと組み合わせた連続血糖モニタリング(CGM)は,適切に使用すれば,1型糖尿病の成人によっては(年齢≧25歳)A1Cを下げる有用なツールである.A
  • 小児,十代と若年成人ではA1Cを下げるエビデンスは弱いが,CGMはこれらのグループで役に立つかもしれない.デバイスを継続的に使用することのアドヒアランスと成功は相関する.B
  • CGMは低血糖に無自覚な患者や,頻繁に低血糖エピソードを起こす人でSMBGを行う補助ツールかもしれません.C
  • CGMを行うことのアドヒアランスがさまざまであることを考え,処方前に継続的なCGM使用のための個別の準備を評価する.E
  • CGMを処方するとき,厳格な糖尿病教育,トレーニング,サポートが最適なCGMの施行と継続的な使用のために必要である.E
  • CGMの使用に成功した人は,65歳を回っても継続してアクセスを続けるべきである.E
A1C検査
  • 治療ゴールに達している(そして血糖コントロールが安定している)患者では,A1C検査は年に2回以上おこなう.E
  • 治療が変更された人や血糖管理目標に達していない人はA1C検査を3ヶ月ごとに行う.E
  • 診療現場でのA1C検査はタイムリーな治療の変化の機会をもたらす.E
A1C目標
  • 多くの妊娠していない成人での合理的なA1Cの目標は<7%(53 mmol/mol)である.A
  • もし重大な低血糖や他の治療による有害作用が起きないならば,患者によってはより厳しいA1C目標(<6.5%[48 mmol/mol]のような)を合理的に提案できる.C
  • 重度の低血糖の既往,余命が限られている,進行した細小血管合併症や大血管合併症がある,糖尿病の長期罹患で,糖尿病自己管理教育,適切な血糖モニタリング,インスリンを含む多数の血糖降下薬の効果でも一般的な目標が困難な場合は,より緩やかなA1C目標(<8%[64 mmol/mol])が適切かもしれない.B
低血糖
  • 低血糖リスクのある患者は,受診のたびに症状のある低血糖と症状のない低血糖について聞くべきである.C
  • 意識のある低血糖患者には,グルコースを含むさまざまな炭水化物が用いられるが,グルコース(15〜20g)が好まれる治療である.治療後15分経っても,SMBGで持続的な低血糖がある場合は,治療は繰り返されるべきである.一度SMBGが正常に回復したら,低血糖の再発を防ぐため,食事や軽食を摂るべきである.E
  • 治療が必要な低血糖と定義される重度の低血糖のリスクが増大している全ての冠者ではグルカゴンを処方するべきであり,介護者,学校関係者,患者の家族はその投与方法を指導されるべきである.グルカゴン投与は医療専門職に制限されるべきものではない.E
  • 無症候性の低血糖や1回以上の重度の低血糖エピソードのある患者では,治療レジメンの再評価を行うべきである.E
  • 無症候性の低血糖や重度の低血糖をのエピソードのあるインスリン治療患者は,ある程度無症候性の低血糖をなくし,将来のエピソードのリスクを減らすために,少なくとも数週間さらなる低血糖を厳に避けるべく血糖目標を上げるようにアドバイスされるべきである.A
  • 認知機能の低下や悪化が見つかったならば,臨床医,患者,介護者に低血糖を警戒してもらうとともに,認知機能の継続的な評価を提案する.B
6.2型糖尿病治療における肥満管理 Obesity Management for the Treatment of Type 2 Diabetes
評価
  • 受診のたびに,BMIを計算してカルテに記録するべきである.B
食事,身体活動,行動療法
  • 5%の体重減少を達成するように設計された食事,身体活動,行動療法を,体重減少を達成することが準備出来ている2型糖尿病の体重過多と肥満患者に処方するべきである.A
  • そのような介入は,高い強度(6ヶ月に>16セッション)として,500〜750kcal/日のエネルギー減少を達成するための食事,身体活動,行動戦略に焦点を置くべきである.A
  • 同じカロリー制限で含まれる蛋白,炭水化物,脂肪が異なる食事は体重減少の達成には同等の効果がある.A
  • 短期間で体重減少の目標を達成した患者には,長期(≧1年)の包括的な体重維持プログラムを処方するべきである.そのようなプログラムは月1回以上受診し,体重の継続的なモニタリング(週1回以上)を支持され,カロリーを減らした食事の摂取を継続し,身体活動を高いレベル(200〜300分/週)で行うように提供されるべきである.A
  • >5%の体重減少を達成するために,超低カロリー食(<800 kcal/日)と総食事代替品を使用した短期(3ヶ月)の高い強度の生活習慣介入が,綿密な医学的モニタリングによる医学的ケアのできるところで訓練された医師によって注意深く選んだ患者で処方するかもしれない.体重減少を維持するために,そのようなプログラムは長期間の包括的体重維持カウンセリングを併用しなければならない.B
薬物療法
  • 2型糖尿病の体重過多や肥満の患者に血糖降下薬を選ぶ場合,体重に対する効果を考慮する.E
  • 可能ならばいつでも,体重増加と関連する併存状況のために薬をできるだけ少なくする.E
  • 体重を減らす薬は,BMI>27kg/m2の2型糖尿病患者で食事,運動,行動カウンセリングに併用することで効果があるかもしれない.潜在的な利益は薬剤の潜在的なリスクと比較検討されなければならない.A
  • 3ヶ月後に体重を減らす薬の反応が<5%であるか,どの時点においても安全性や認容性の問題があるならば,薬剤は中止し,他の薬剤か他の治療アプローチを考慮するべきである.A
減量手術
  • 減量手術は,BMI>35 kg/m2の2型糖尿病成人で,特に糖尿病や関連する併存疾患が生活習慣や薬物療法でコントロールすることが困難な場合に考慮されるかもしれない.B
  • 減量手術を受けた2型糖尿病患者は,最低限でも生涯に渡る生活習慣サポートと毎年の医学モニタリングが必要である.B
  • 小規模の試験でBMI 30〜35 kg/m2の2型糖尿病患者における減量手術の血糖に対する利益が示されたが,BMI≦35 kg/m2の患者における一般的な手術を推奨する証拠は今のところ不十分である.E
7.血糖治療のアプローチ Approaches to Glycemic Treatment
2型糖尿病における薬物療法
  • 禁忌でなくて認容するならば,メトホルミンを2型糖尿病の第一選択薬として推奨する.A
  • 新規診断2型糖尿病で際立って症状があるか血糖レベルかA1Cが上昇している患者ではインスリン治療(他の薬剤の有無にかかわらず)の導入を考慮する.E
  • インスリン以外の薬剤の最大認容用量での単剤治療を3ヶ月行っても,A1Cの目標を達成もしくは維持できないならば,次の経口薬,GLP1受容体アゴニスト,基礎インスリンを追加する.A
  • 薬剤の選択では,患者中心のアプローチを用いるべきである.効果,費用,副作用の可能性,体重,併存疾患,低血糖リスク,患者の嗜好を考慮しなさい.E
  • 血糖ゴールに到達しない2型糖尿病患者は,インスリン治療を遅らせるべきではない.B
8.心血管疾患とリスク管理 Cardiovascular Disease and Risk Management
高血圧/血圧コントロール
スクリーニングと診断
  • 血圧は定期的な受診の歳に毎回測定するべきである.血圧が上昇していた患者は,別の日に血圧を確認するべきである.B
ゴール/収縮期目標
  • 糖尿病と高血圧の患者は収縮期血圧の目標を<140 mmHgとして治療するべきである.A
  • <130 mmHgのようなより低い収縮期血圧は,過度の治療負担なしに達成することができるならば,若年患者やアルブミン尿を伴う患者,高血圧の有無にかかわらず動脈硬化性心血管疾患のリスクファクターを1つ以上持っている患者では適切かもしれない.C
ゴール/拡張期目標
  • 糖尿病患者は拡張期血圧の目標を<90 mmHgとして治療するべきである.A
  • <80 mmHgのようなより低い拡張期血圧は,過度の治療負担なしに達成することができるならば,若年患者やアルブミン尿を伴う患者,高血圧の有無にかかわらず動脈硬化性心血管疾患のリスクファクターを1つ以上持っている患者では適切かもしれない.B
治療
  • 血圧>120/80 mmHgの患者は,血圧を下げるために生活習慣の改変をアドバイスされるべきである.B
  • 診察室での血圧が>140/90 mmHgの患者は,生活習慣治療に加えて,血圧ゴールを達成するために薬物療法を迅速に開始し,続けてタイムリーな用量設定を行うべきである.A
  • 高齢者では<130/70 mmHgの治療ゴールを到達するための薬物治療は推奨されない.収縮期血圧<130 mmHgの治療は心血管アウトカムを改善することが示されておらず,拡張期血圧<70 mmHgの治療はより高い死亡率と関連がある.C
  • 体重過多や肥満の場合は,高血圧に対する生活習慣治療は減量を目的する.Dietary Approaches to Stop Hypertension(DASH)式食事のパターンはナトリウムを減らし,カリウム摂取を増やし,適度にアルコールを摂取し,身体活動を増やすものである.B
  • 糖尿病と高血圧の患者の薬物治療はACE阻害薬かARBのいずれかを含む,しかし併用はしないレジメンで行うべきである.B もし片方に認容性がない場合は,別の方を用いるべきである.C
  • 血圧目標を達成するためには,一般的に多剤治療(サイアザイド系利尿薬,ACE阻害薬/ARBを最大用量で)が必要とされる.B
  • ACE阻害薬,ARB,利尿薬が使われている場合は,血清クレアチニン/eGFRと血清カリウムレベルをモニターするべきである.E
  • 糖尿病と慢性的な高血圧のある妊婦患者では,血圧目標110〜129/65〜79 mmHgが長期的な母体の健康を最適化して,胎児発育障害を最小限に抑えるために提案される.E
脂質管理
  • スタチンを服用していない成人では,糖尿病診断時,最初の医学的評価で,またその後5年ごと,また適応がある場合はより頻繁に脂質プロファイルを確認するのが合理的である.E
  • 治療の反応とアドヒアランスをモニターする助けになるので,スタチン治療を始める時とその後の定期的な脂質プロファイルを確認する.E
  • 生活習慣改善は(もし適応があるならば)減量に焦点を当てる.飽和脂肪,トランス脂肪とコレステロールの減量,ω-3系脂肪酸,粘性繊維,植物スタノール/ステロール摂取の増量,身体活動を増やすことは糖尿病患者の脂質プロファイルの改善のために推奨されるべきである.A
  • 中性脂肪高値(≧150 mg/dL [1.7 mmol/L]),低HDLコレステロール(男性<40 mg/dL [1.0 mmol/L],女性<50 mg/dL [1.3 mmol/L])の患者に対しては,生活習慣治療を強化し,血糖コントロールを最適化する.C
  • 空腹時中性脂肪レベル≧500 mg/dL(5.7 mmol/L)の患者には,高中性脂肪血症の二次性の原因を評価し,膵炎のリスクを減らすために薬物治療を考慮する.C (注:治療にはスタチンを用いる.フィブラートは膵炎のリスクを上げる可能性が指摘されています)
  • 全ての年齢の糖尿病と動脈硬化性心血管疾患を持つ患者は,高強度のスタチン治療を生活習慣治療に加えるべきである.A
  • 追加の動脈硬化性心血管疾患リスクファクターのある<40歳の糖尿病患者では,中等度の強度か高強度のスタチンと生活習慣治療を考慮する.C
  • 追加の動脈硬化性心血管疾患リスクファクターのない40〜75歳の糖尿病患者では,中程度の強度のスタチンと生活習慣治療を考慮する.A
  • 追加の動脈硬化性心血管疾患リスクファクターのある40〜75歳の糖尿病患者では,高強度のスタチンと生活習慣治療を考慮する.B
  • 追加の動脈硬化性心血管疾患リスクファクターのない>75歳の糖尿病患者では,中程度の強度のスタチンと生活習慣治療を考慮する.B
  • 追加の動脈硬化性心血管疾患リスクファクターのある>75歳の糖尿病患者では,中程度の強度か高強度のスタチンと生活習慣治療を考慮する.B
  • 臨床診療では,臨床医は個々の患者の治療に対する反応(例えば,副作用,認容性,LDコレステロールレベル)に基づいて,スタチン治療の強度を調節する必要があるかもしれない.E
  • 中等度の強度のスタチン治療へのエゼチミブの追加は,中等度の強度のスタチン治療単独と比較して,付加的なの心血管ベネフィットをもたらすことが示されており,LDLコレステロール≧50 mg/dL(1.3 mmol/L)の最近急性冠症候群を起こした患者と高強度スタチン治療が認容できない患者で考慮するかもしれない.A (注:エゼチミブの心血管イベント抑制効果はIMPROVE-ITで示されているが,これ1本のみで推奨するのは勇み足と思われます)
  • 併用療法(スタチン/フィブラート)は動脈硬化性心血管疾患のアウトカムを改善することが示されておらず,通常は推奨されない.A しかし,スタチンとフェノフィブラートによる治療は中性脂肪レベル≧204 mg/dL(2.3 mmol/L)かつHDLコレステロールレベル≦34 mg/dL(0.9 mmol/L)の男性に考慮してもよい.B (注:スタチンとフィブラートの併用療法は横紋筋融解症の発症リスクが相乗的に上昇するので勧められません)
  • 併用療法(スタチン/ナイアシン)はスタチン単独療法を上回る付加的な心血管疾患ベネフィットをもたらすことが示されておらず,脳卒中リスクを増やすかもしれないので,通常は推奨されない.A
  • スタチン治療は妊娠中は禁忌である.B
Table 8.1:糖尿病患者のスタチンと併用療法の推奨
 年齢  リスクファクター  スタチン強度の推奨*
 <40歳 なし
ASCVDリスクリスクファクター**
ASCVD***
なし
中等度または高強度
高強度
 40〜75歳 なし
ASCVDリスクリスクファクター
ASCVD
ACSとLDLコレステロール>50mg/dL(1.3mmol/L)で
高強度のスタチンが認容できない患者
中等度
高強度
高強度
中程度+エゼチミブ
 >75歳 なし
ASCVDリスクリスクファクター
ASCVD
ACSとLDLコレステロール>50mg/dL(1.3mmol/L)で
高強度のスタチンが認容できない患者
中等度
中程度か高強度
高強度
中程度+エゼチミブ
*生活習慣治療に追加する
**ASCVDリスクファクターはLDLコレステロール≧100mg/dL(2.6mmol/L),高血圧,喫煙,体重過多と肥満,早期のASCVDの家族歴
***ASCVD=動脈硬化性心血管疾患
Table 8.2:高強度と中程度の強度のスタチン治療*
 高強度スタチン治療  中等度強度スタチン治療
 LDLコレステロール50%減少
アトルバスタチン(リピトール(R)) 40〜80mg
ロスバスタチン(クレストール(R)) 5〜10mg
 LDLコレステロール 30〜50%減少
アトルバスタチン(リピトール(R)) 10〜20mg
ロスバスタチン(クレストール(R)) 5〜10mg
シンバスタチン(リポバス(R)) 20〜40mg
プラバスタチン(メバロチン(R))40〜80mg
ロバスタチン(国内未発売)40mg
フルバスタチンXL(ローコール(R)) 80mg
ピタバスタチン(リバロ(R)) 2〜4mg
*1日量
抗血小板薬
  • 心血管リスクが上昇している(10年リスク>10%)1型または2型糖尿病患者の一次予防戦略として,アスピリン治療(75〜162mg/日)を考慮する.これは,1つ以上の付加的な主なリスクファクター(早期の動脈硬化性心血管疾患の家族歴,高血圧,喫煙,脂質異常症,アルブミン尿)を持ち,出血のリスクが上昇していない>50歳の糖尿病男女のほとんどが含まれる.C
  • アスピリンは,主な付加的な動脈硬化性心血管疾患リスクファクターのない<50歳の糖尿病男女や,出血による副作用の可能性が利益の可能性を相殺してしまうような,動脈硬化性心血管疾患リスクが低い(10年動脈硬化性心血管疾患リスク<5%)成人における動脈硬化性心血管疾患予防のためには推奨するべきではない.C
  • 多数の他のリスクファクターを持つ<50歳の糖尿病患者(例えば,10年リスク5〜10%)では,臨床的な判断が必要である.E
  • 糖尿病と動脈硬化性心血管疾患の既往のある患者では,二次予防としてアスピリン治療(75〜162mg/日)を用いる.A
  • 動脈硬化性心血管疾患がある患者で,アスピリンアレルギーがある場合は,クロピドグレル(75mg/日)を用いるべきである.B
  • デュアル抗血小板療法(DAPT)は急性冠症候群の1年後までが合理的である.B
冠動脈疾患
スクリーニング
  • 症状のない患者では,動脈硬化性心血管疾患リスクファクターを治療してもアウトカムを改善しないため,冠動脈疾患のルーチンのスクリーニングは推奨されない.A
  • 以下のいずれかがある場合には,冠動脈疾患の精査を考慮する.非定型心症候(例えば,原因不明の息切れ,胸部不快感),頸動脈雑音や一過性脳虚血発作や脳卒中や間欠性跛行や末梢動脈疾患などの血管疾患に関連した症状や症候,心電図異常(例えばQ波).E
治療
  • 既知の動脈硬化性心血管疾患がある患者では,心血管イベントのリスクを減らすために,(禁忌がなければ)アスピリンとスタチン治療を用い A,ACE阻害薬を考慮する.C
  • 心筋梗塞の既往のある患者では,イベント後最低2年はβ遮断薬を継続するべきである.B
  • 症候性心不全の患者では,チアゾリジン治療は用いるべきではない.A (注:あらゆる糖尿病患者でチアゾリジンは治療の適応がない)
  • 安定したうっ血性心不全の2型糖尿病患者では,腎機能が正常であればメトホルミンを使っても良いが,うっ血性心不全が不安定だったり入院している患者では避けるべきである.B
9.細小血管障害とフットケア Microvascular Complications and Foot Care
糖尿病性腎疾患
スクリーニング
  • 発症≧5年の1型糖尿病患者と,全ての2型糖尿病患者と,全ての高血圧を併存している患者では,年1回以上尿中アルブミン(例えば,随時の尿中アルブミン/クレアチニン比)とeGFRを評価する.B
治療
  • 糖尿病性腎疾患のリスクを減らしたり進展を遅らせるために,血糖コントロールを最適化します.A
  • 糖尿病性腎疾患のリスクを減らしたり進展を遅らせるために,血圧コントロールを最適化(<140/90 mmHg)します.A
  • 透析していない糖尿病性腎疾患の患者では,食事中の蛋白は1日0.8g/kg体重にするべきである(1日あたりの推奨摂取量).透析患者では,より高いレベルの食事性蛋白摂取を考慮するべきである.A
  • 妊娠していない糖尿病患者で僅かに尿中アルブミン分泌が上昇している場合は,ACE阻害薬かARBのいずれかが勧められ B,尿中アルブミン分泌≧300 mg/日,eGFR<60 mL/min/1.73 m2の患者では強く推奨する.A
  • ACE阻害薬,ARB,利尿剤を使用するときは,クレアチニンの上昇やカリウムの変化を評価するため,定期的な血清クレアチニンとカリウムレベルをモニターする.E
  • ACE阻害薬やARBで治療しているアルブミン尿のある患者での連続的な尿中アルブミン/クレアチニン比のモニタリングは,治療への反応と糖尿病性腎疾患の進展を評価するのに合理的である.E
  • 血圧正常,尿中アルブミン/クレアチニン比が正常(<30 mg/g),正常eGFRの糖尿病患者において,糖尿病性腎疾患の一次予防のためにACE阻害薬やARBは推奨されない.B
  • eGFR<60 mL/min/1.73 m2のとき,慢性腎疾患の合併症の可能性を評価し管理する.E
  • eGFR<30 mL/min/1.73 m2の場合は,腎代替療法の評価を行う.A
  • 人疾患の病院が不明な場合,管理が困難な場合,急速に腎疾患が進行している場合は,速やかに腎疾患のケアに経験豊富な医師に相談する.B
糖尿病性網膜症
  • 糖尿病性網膜症のリスクを減らし進展を遅らせるために,血糖コントロールの最適化する.A
  • 糖尿病性網膜症のリスクを減らし進展を遅らせるために,血圧と血清脂質のコントロールの最適化する.A
スクリーニング
  • 1型糖尿病の成人は,糖尿病発症後5年以内に眼科医や検眼士による包括的な散瞳検査を受けるべきである.B
  • 2型糖尿病患者は糖尿病診断時点で眼科医や検眼士による包括的な散瞳検査を受けるべきである.B
  • 年1回の検眼で1回以上網膜症がなければ,検査は2年ごとに行うことを考慮してもよい.もし何らかの糖尿病性網膜症があったならば,1型と2型の糖尿病患者に対するそれに引き続く散瞳検査は少なくとも毎年眼科医か検眼士によって繰り返されるべきである.もし網膜症が進行していたり失明のおそれがある場合は,検査はさらに頻繁に行うことが必要になるだろう.B
  • 網膜写真は網膜症のスクリーニングツールとして用いられるかもしれないが,包括的検眼の代用になるものではない.包括的検眼は,眼科専門医によって少なくとも初回に,そしてその後間を空けて行うべきである.E
  • 検眼は妊娠前か妊娠第1期に行うべきで,網膜症の程度によって,その後全ての妊娠期と分娩後1年モニターされるべきである.B
治療
  • あらゆるレベルの黄斑浮腫,重度の非増殖性糖尿病性網膜症(増殖性糖尿病性網膜症の前段階),あらゆる増殖性糖尿病性網膜症の患者は,すぐに糖尿病性網膜症の管理と治療について知識と経験が十分な眼科医に紹介する.A
  • レーザー光凝固療法はハイリスク増殖性糖尿病性網膜症と,症例によっては重度の非増殖性糖尿病性網膜症の患者で失明のリスクを減らすために適応となる.A
  • 抗血管内増殖因子(VEGF)の硝子体内注射は,中心窩に起こり失明を引き起こしうる中心を含む糖尿病性黄斑浮腫に対して適応となる.A
  • アスピリンは網膜出血のリスクを増やすことはないので,網膜症の存在は心保護のためのアスピリン治療の禁忌にはならない.A
糖尿病性神経障害
スクリーニング
  • すべての患者は,2型糖尿病であれば診断時に,1型糖尿病であれば,診断から5年後に糖尿病性末梢神経障害の評価を始める,その後年1回以上評価するべきである.B
  • 評価は注意深く取った病歴と10 gモノフィラメントテストと,ピンプリック,温度,振動覚のいずれか1つ以上で行うべきである.B
  • 自律神経障害の症候と症状は細小血管合併症と神経障害がある患者で評価するべきである.E
治療
  • 1型糖尿病患者では神経障害の予防と進行を遅らせるために A,2型糖尿病患者では神経障害の進行を遅らせるために B,血糖コントロールを最適化する.
  • 糖尿病性末梢神経障害に関連した痛みを減らすために B,また自律神経障害の症状を減らし,QOLを改善するために E,評価と治療を行う.
フットケア
  • 潰瘍と切断のリスクファクターを同定するために,包括的な足の評価を毎年行う.B
  • 潰瘍,切断,Charcot足,血管形成,血管手術,喫煙,網膜症,腎疾患の既往を聞き出し,神経障害(痛み,灼熱感,しびれ)と血管疾患(足のだるさ,跛行)の現在の症状を評価する.B
  • 検査は,皮膚の外観,足の変形の評価,10gナのフィラメントテストとピンプリックか振動覚テスト,または踵の反射で神経学的に評価し,血管評価は脚と脚の脈拍を評価する.B
  • 潰瘍や切断,脚変形,感覚のない足,末梢動脈疾患の既往のある患者では,実質的に潰瘍や切断のリスクが上がっていて,受診ごとに足の検査を行うべきである.C
  • 跛行の症状のある,もしくは足背の拍動が減弱したりなくなっている患者は,ABIとさらなる欠陥の評価を行うべきである.C
  • 足潰瘍やハイリスク足(例えば,透析患者,Charcot足,胃潰瘍の既往,切断)の患者に対しては,多職種アプローチが勧められる.B
  • 喫煙している患者や,下肢の合併症の既往,防御的感覚,構造的異常,末梢動脈疾患のある患者は,現在行っている予防的ケアと生涯に渡るサーベイランスのために,フットケアの専門家に紹介する.C
  • 全ての糖尿病患者に,一般的な足のセルフケアの教育を提供する.B
10.高齢者 Older Adults
  • 目標や治療法を決定するためのフレームワークを提供するため,高齢者における糖尿病のマネージメントに対して,医学的,身体的,精神的,社会的高齢者のドメインの評価を考慮する.E
  • 老年症候群のスクリーニングは,日常生活の基本的で有益な活動に限界を感じている高齢者で適切であり,それは糖尿病自己管理に影響するだろう.E
  • 糖尿病の高齢者(≧65歳)はうつ病のスクリーニングと治療を優先するべき集団と考えられるべきである.B
  • 糖尿病の高齢者では低血糖を回避するべきである.スクリーニングを行い,血糖目標と薬物介入を調節することによって管理されるべきである.B
  • 身体,認知機能が保たれていて生命予後が十分ある高齢者は若年者で定められたものと同じゴールで糖尿病のケアを受けて良い.E
  • 高齢者の中には個別の基準を用いて血糖のゴールを合理的に緩めてもよいが,急性高血糖合併症の聴講やリスクを引き起こす高血糖はすべての患者で避けられるべきである.E
  • 糖尿病の合併症のスクリーニングは高齢者では個別化されるべきだが,特に,機能障害を引き起こすような合併症に特別の注意が払われるべきである.E
  • その他の心血管リスクファクターは,高齢者では利益の得られる時間と個別の患者を考慮して治療されるべきである.高血圧の治療は事実上すべての高齢者に適応があり,脂質低下療法とアスピリン治療は一次予防と二次予防の臨床試験の研究期間と同程度以上の余命がある患者で利益があるだろう.E
  • 糖尿病の高齢者に緩和ケアが必要となった時には,厳格な血圧コントロールは不要で,治療の中断が妥当であろう.同様に,脂質管理も緩めてよく,脂質低下療法を中断するのが妥当だろう.E
  • 糖尿病の高齢者の管理を改善させるために,長期ケア施設のスタッフに糖尿病の教育を考慮する.E
  • 長期ケア施設に入所している糖尿病患者は,臨床的,機能的状態に基づいた血糖ゴールの設定と適切な血糖降下薬の選択をするため慎重な評価を必要とする.E
  • 全般的な快適さ,苦痛な症状の予防,および生活の質と尊厳を保つことが,人生の終わりでの糖尿病管理の一義的なゴールである.E
11.小児と青年 Children and Adolescents
省略
12.妊娠における糖尿病の管理 Management of Diabetes in Pregnancy
妊娠前糖尿病
  • 先天異常のリスクを減らすために,血糖を安全に可能な限り正常に,理想的にはA1C<6.5%(48 mmol/mol)に血糖コントロールすることの重要性を伝えるカウンセリングを前もって提供する.B
  • 家族計画について議論し,女性が準備し,妊娠する準備ができるまでは,有効な避妊薬を処方して使用するべきである.A
  • もともと1型または2型糖尿病のある女性で妊娠する計画があるまたは妊娠しようとしている女性は,糖尿病性網膜症の発症または進展のリスクについて助言されるべきである.検眼は妊娠前と妊娠第1期に行い,その後各妊娠期と出産1年後に網膜症の程度に応じて行うべきである.B
妊娠糖尿病
  • 生活習慣の変化は妊娠糖尿病の管理の基本的な要素であり,多くの女性の治療として十分になるだろう.血糖目標を達成するために必要に応じて薬を追加するべきである.A
  • 妊娠糖尿病における好ましい薬は,インスリンとメトホルミンである.グリブリドを用いても良いかもしれないが,インスリンやメトホルミンよりも新生児低血糖や巨大児の発生率が高くなるかもしれない.他の薬剤は十分な研究が行われていない.ほとんどの経口薬は胎盤は通過し,長期安全性のデータが不足している.A
妊娠における糖尿病管理の一般的な原則
  • 潜在的に催奇形性をもつ薬剤(ACE阻害薬,スタチンなど)は信頼できる避妊を用いていない妊娠可能年齢の性的にアクティブな女性では避けるべきである.B
  • 妊娠糖尿病と妊娠している妊娠前糖尿病患者では血糖コントロールのために,空腹時,食前,および食後の血糖自己測定を推奨する.B
  • 赤血球のターンオーバーが増えるため,正常妊娠ではA1Cは妊娠していない正常な女性よりも低くなる.妊娠中のA1C目標は6.5%(42〜48 mmol/mol)である.明らかな低血糖がなくて達成させることができるならば,<6%(42 mmol/mol)が最適かもしれないが,低血糖を防ぐ必要があるならば,<7%(53 mmol/mol)と目標を緩くしてもよい.B
13.病院における糖尿病ケア Diabetes Care in the Hospital
  • 入院前の3ヶ月間に検査がされていない場合には,すべての糖尿病と高血糖の患者ではA1Cの測定を考慮する.C
  • 血糖≧180 mg/dL(10.0 mmol/L)を閾値として,持続的な高血糖の治療として,インスリン治療を導入するべきである.一旦インスリン治療を開始したら,血糖目標の範囲は140〜180mg/dL(7.8〜10.0 mmol/L)が大部分の集中治療患者 A と非集中治療患者 C で推奨される.C
  • 明らかな低血糖がなく達成できるのであれば,集中治療患者によっては110〜140mg/dL(6.1〜7.8 mmol/L)のようなより厳格なゴールが適切かもしれない.C
  • インスリン静注は,血糖変動とインスリン投与量に基づいてインスリン注入速度が調整ができるように予め決められた,評価された書面かコンピュータ化されたプロトコールを用いて行うべきである.E
  • 基礎インスリンと追加補正インスリン(basal plus bolus corresction insulin)のレジメンは,経口摂取できない,もしくは経口摂取していない非集中治療患者で好まれる治療である.栄養学的に良好な経口摂取ができる患者には,基礎,栄養,および補正のインスリン療法が好まれる治療である.A
  • 入院環境におけるスライディングスケールインスリンの単独使用は,強く勧められない.A
  • 低血糖管理プロトコールは各病院や病院群によって採用されている方法を用いるべきである.低血糖の予防と治療のための計画は個々の患者で確立されるべきである.入院中の低血糖エピソードはカルテに記載され,追跡されるべきである.E
  • 血糖値が<70 mg/dL(3.9 mmol/L)のとき,さらなる低血糖を予防する必要があれば,治療レジメンは見直され,変更されるべきである.C
  • 個々の患者に合わせた構造化された退院計画を行うべきである.B

 検査

血糖値とHbA1cの相関関係 (項目新設2009/12/1,最終更新2011/4/22)

 血糖値とHbA1cの相関関係は,ADAG(A1c-Derived Avarage Glucose) Study Groupの論文(Diabetes care 2008;31:1473)で明らかにされています.
 この研究では,5分毎に持続的に血糖を測定するCGM(continuous interstitial glucose monitoring)を2日間に渡って行い,これを4週毎に12週間行いました.キャリブレーションのために,CGMを行っている2日間にこれとは独立して1日8回(食前,食後90分,就寝前,午前3時)の毛細血管血の自己血糖測定を行いました.またこれとは別に,3つ目のキャリブレーションのために,CGMを行っていないときに1日7回(8回測定のうち,午前3時以外),fingerstick capillary glucose monitoringを週3回以上行いました.血糖値は,これらの平均を用いましたが,CGMの値は毛細血管血の血糖値に調整するために,1.05倍されました.
その結果,1型糖尿病268人,2型糖尿病159人,非糖尿病患者80人の合計507人の12週に渡る測定の結果で,以下のような式が導き出されました.
平均血糖値AGmg/dL=28.8×HbA1c−46.7
相関係数 R2 = 0.84
この論文には,上記式を用いて,各HbA1cに相当する血糖値を表にしています.
ただしこの研究結果には問題点があります.
HbA1cの値としては,DCCTで採用された次の4つの測定法での測定値の平均を用いました.
   highperformance liquid chromatography assay (Tosoh G7; Tosoh Bioscience, Tokyo, Japan) :HPLC値
   immunoassays (Roche A1C and Roche Tina-quant) :NGSP値
   immunoassays (Roche Diagnostics) :HPLC値
   affinity assay (Primus Ultra-2; Primus Diagnostics, Kansas City, MO) :NGSP値
つまり,0.4%乖離しているHPLC値とNGSP値が混在しているため,これではHbA1cの値にブレがあると言わざるを得ません.

一方,日本のHbA1c測定系であるJDS値(HPLC法で測定)と空腹時血糖値,食後2時間血糖値との相関を見た研究(Diabetes Res Clin Pract 2000;50:225)では,以下の相関式が導き出されました.
空腹時血糖値FPGmg/dL=-9.2+21.9×HbA1c
相関係数 R2 = 0.854
食後2時間血糖値2hPGmg/dL=-127.1+53.5×HbA1c
相関係数 R2 = 0.809
これを各HbA1c値毎に計算してまとめた表が以下のものです.
HbA1cと空腹時血糖,食後2時間血糖値の関係
HbA1c(%)
(NSGP値)
HbA1c(%)
(JDS値)
空腹時血糖値FPG
(mg/dL)
食後2時間血糖値2hrPG
(mg/dL)
5.4 5.0 100 140
5.9 5.5 111 167
6.4 6.0 122 194
6.9 6.5 133 221
7.4 7.0 144 247
7.9 7.5 155 274
8.4 8.0 166 301
8.9 8.5 177 328
9.4 9.0 188 354
10.4 10.0 210 408
11.4 11.0 232 461
12.4 12.0 254 515
※上記の値は,血漿糖の平均血糖値です.病棟や救急外来で測定する毛細血管血の値は,上記の値に1.05を掛けたものになります.
例えば,糖尿病性網膜症が既に存在する患者で血糖コントロールを行う場合,DCCT(NEJM 1993;329:977)の結果より,最初の1年半は厳格なコントロールにより網膜症の進行が早まることが分かっているので,HbA1cが7.5%程度の甘めにコントロールすることが推奨されますが,おおよそ,空腹時血糖が155mg/dL程度を目標とすればいいことが分かります.

糖尿病診断基準の改定 (最終更新2013.8.14)

従来の糖尿病の診断基準は,以下のようなとても複雑なものでした.
次のいずれかを別の日に行った検査で2回以上確認できたもの
 @FPG≧126mg/dl
 A75gOGTT2時間値≧200mg/dl
 B随時血糖値≧200mg/dl
これらの基準値を1回の検査のみ超えた場合は糖尿病型と呼ぶ
1回目の検査でFPGが126〜139mg/dlの場合は2回目は75gOGTTを推奨する
糖尿病型を示し,かつ次のいずれかの条件が満たされた場合は,1回だけの検査でも糖尿病と診断できる
 @糖尿病の典型的症状(口渇,多飲,多尿,体重減少)の存在
 AHbA1c≧6.5%
 B確実なdiabetic retinopathyの存在

(科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン[改訂第2版],日本糖尿病学会,2007)

2009年,米国糖尿病学会(ADA),国際糖尿病連合(IDF),欧州糖尿病学会(EASD)からなる国際専門委員会は,糖尿病診断基準を変える事にしました(Diabetes Care 2009;32:1327).
A1C≧6.5%
を糖尿病とするとのことです.今後は,原則としてHbA1cのみで診断することが提唱されています.
とってもシンプル!日々診療をする立場としては,こうじゃなくちゃです.
その根拠として,挙げられているのが以下のグラフですが,糖尿病性網膜症のリスクで基準をおいているようです.
これまでの診断基準で用いられていた血糖値よりも,HbA1cの方が合併症との相関が強いとされています.
このグラフを見ると,確かに,HbA1c 6.5%位からHbA1cが上がるごとに糖尿病性網膜症の有病率が上がっていきます.

血糖値よりもHbA1cが優れている点としては,以下のものが挙げられています.
・DCCT,UKPDSなどの臨床研究で標準的用いられており,血糖測定は標準化されていない
・全般的な血糖の状態や長期合併症のリスクの指標として優れている
・実質的に生物学的変動が少ない
・実質的に検査前の変動が少ない
・空腹状態での検体が不要
・比較的急激な血糖の変動(ストレスや疾患に関連した)に影響されない
・現在,コントロールの指標や治療法の決定に使用されている
一方,HbA1cを診断基準として用いることの問題点についても,以下のようなものが挙げられています.
・測定のコストがかかる
・HbA,HbC,HbF,HbEなどのいくつかのヘモグロビンの形質が,いくつかのHbA1cアッセイ法に影響する.ただし,今日では影響されない測定法が用いられている
・溶血性貧血,マラリア,大出血,輸血などの赤血球のターンオーバーを変えてしまうようなものは,HbA1cの結果に影響する
・耐糖能の低下とは別に,年齢と供にHbA1cの値は上昇する
・人種による違い
・急速発症の1型の場合はHbA1cの変化が追いつかない.この場合,血糖値>200mg/dlをもって糖尿病と診断すべきである
なお,従来から一般的にHbA1cは感度が低いので診断には用いるべきではないという意見がありました.
しかし,従来基準で糖尿病と診断されるにもかかわらずHbA1c<6.5%という状態なら,コントロール目標を達成しているということで,治療適応にはならないのですから,別にHbA1c≧6.5%のみを基準にしても支障はないわけです.

日本ではどうなるか?

ADA,EASD,IDFからなる国際専門委員会の提唱で示されたA1c<6.5ですが,ここで用いられているHbA1cはNational Glycohemoglobin Standardization Program(NGSP)値です.
一方,日本では,JDS (Japan diabetes society)値(=HPLC法で測定)が用いられていますが,両者の間には0.4%の解離があります.
そこで,両者が混乱しないようにするために,
欧米:NGSP値  A1C
日本:JDS値   HbA1c
と,表記を分けています.
そして,
A1C (NGSP 値)= 1.019 × HbA1c (JDS値)+0.3

およそHbA1c(JDS値) 5〜10%では,以下で近似できる.

A1C=HbA1c+0.4
の関係があるわけです.
2009年11月1日に行われた「糖尿病の診断基準とHbA1cの国際標準化に関するシンポジウム」では,日本糖尿病学会「糖尿病診断基準に関する調査検討委員会」が,糖尿病診断の第一段階である糖尿病型の診断基準にHbA1cを加える方針だと発表しました.そして,その基準が,
HbA1c(JDS)≧6.1%,HbA1c(NGSP)≧6.5%
です.
一瞬,日本では基準が厳しくなるのかと思いましたが,測定法の違いで,結果的に国際基準と日本の基準は一致することになります.
ただ,同委員会で定められた新診断基準では,国際専門委員会の提唱と違い,HbA1cのみでの糖尿病の診断は行わず,あくまで従来の基準に加えて用いるということになったので,煩雑さは以前よりも増したと言えるでしょう.
そして,2010年5月に日本糖尿病学会が委員会報告として発表した新しい糖尿病診断基準は,以下の通りです.
予想通り,とても派雑なものになりました.
これでは,とても一般医には覚えられず,糖尿病の診断は難しくなってしまいました.
まぁ,でもそこまで厳密にやらなければならないのかというと,その根拠もはっきりしないわけで,こういうものがあるのだということを知っておけばいいのかも知れません.

A1Cの診断特性

糖尿病の診断基準は複雑ですが,A1Cの診断特性を検討した結果がDiabetes Care 2010;33:817に掲載されました.
この研究では2008年のADA糖尿病治療標準(Diabetes Care 2008;31:S12)にある糖尿病診断基準をGold standardとしてA1Cの診断特性を評価しました.
それによると,A1C 5.5%をcut offとしたときSn 98.7%,Sp 83.5%,LR+ 6.0,LR- 0.016A1c 7.0%をcut offとしたときSn 98.2%,Sp 100%,LR+ 1295,LR- 0.89となりました(つまり,日本のJDS値のHbA1cだとそれぞれ5.1%と6.6%).
ただし,この研究では,糖尿病の有病率は278/6014=4.6%で,IFGやIGTも糖尿病としてカウントされました.
A1Cだけでも,十分診断可能だということが分かりますが,課題としては,A1C 5.6〜6.9%(HbA1c 5.2〜6.5%)のどこにcut offを置くかです.
普段診療で診るのは,この間にある患者が多いからです.

 動脈硬化関連疾患の危険因子 (項目新設2011/4/22,最終更新2015/3/19)

糖尿病は動脈硬化関連疾患のリスクファクターの1つなので,喫煙歴や性別などと同等に考えるべきです.
動脈硬化は血管内膜へのコレステロールを中心としたプラークの蓄積によるものですから,ある一時点の状態よりも,
それぞれがどれくらいのキャリア(いつからどれくらいのコントロールで経過したか)を持つのか,把握するべきです.

糖尿病

FPG,HbA1c(月1回のみ)
既に糖尿病と診断がついている患者さんでは,糖負荷試験は禁忌
空腹時血清CPR,IRI,尿中CPR:内因性インスリン分泌とインスリン抵抗性(HOMA-IR)の評価
抗GAD抗体,抗ICA抗体(診断時に1回のみ)
高血圧症
高血圧学会のコントロール基準
降圧剤の使い方,選び方.すでに投薬されていないか?
二次性高血圧症の可能性
実は,動脈硬化のリスクファクターの中で,血圧が一番重要
脂質異常症
コレステロール4分画:総コレステロール,中性脂肪,HDLコレステロール,LDLコレステロール
最も重要なのは,心血管疾患のリスクファクターとなるLDLコレステロール,次いでHDLコレステロールである
動脈硬化学会のコントロール基準
詳細は,なんごろく−脂質異常症 の項を参照
肥満
BMI 22〜23が最も寿命が長い
メタボリックシンドロームはまやかしです→南郷の論文を参照
喫煙

年齢

高齢になるほどリスクが高い

性別

男性の方がリスクが高い
家族歴
ここで指す家族歴とは,心血管疾患(狭心症,心筋梗塞,脳卒中)をもつ血縁者がいるかどうかであり,糖尿病患者がいるかどうかではないので注意
血縁者に動脈硬化関連疾患があるほどリスクが高い.特に父よりも母に既往がある場合に高い
各動脈硬化リスクファクターの影響
NIPPON DATA(National Integrated Project for Prospective Observation of Non-communicable Disease And its Trends in the Aged)は,国が実施した全国調査である循環器疾患基礎調査対象者の長期追跡研究(コホート研究)です.
1980年(昭和55年)循環器疾患基礎調査の追跡研究がNIPPON DATA80,1990年(平成2年)循環器疾患基礎調査の追跡研究がNIPPON DATA90であり,現在まで長期にわたる追跡を行っています。
以下に,NIPPONDATA 80/90で示されたリスクの大きさを示します.
総死亡
HbA1c
(HR,15年)1
 5.0%未満  5.0〜5.4%  5.5〜5.9%  6.0〜6.4%  6.5%以上  糖尿病治療中  HbA1c 1%上昇
 1.00  1.08(0.92〜1.28)  1.07(0.88〜1.31)  1.95(1.46〜2.61)  1.72(1.17〜2.52)  1.80(1.37〜2.38)  1.20(1.09〜1.32)
 総コレステロール値
(RR,19年)2
 〜159  160〜179  180〜199  200〜219  220〜239  240〜259  260〜
 1.18(1.03〜1.37)  1.00  1.09(0.95〜1.26)  1.07(0.92〜1.25)  0.98(0.82〜1.17)  0.96(0.76〜1.22)  1.36(1.05〜1.77)
喫煙
(RR,14年)3
   非喫煙者  喫煙者  20本/日以下  20本/日以上      
 男性  1.00  1.17(0.90〜1.52)  1.14(0.91〜1.44)  1.55(1.17〜2.04)      
 女性  1.00  1.21(0.76〜1.92)  1.31(0.99〜1.74)  1.32(0.54〜3.22)      
心血管疾患死亡
HbA1c
(HR,15年)1
 5.0%未満  5.0〜5.4%  5.5〜5.9%  6.0〜6.4%  6.5%以上  糖尿病治療中  HbA1c 1%上昇
 1.00  1.31(0.93〜1.84)  1.38(0.93〜2.04)  2.18(1.22〜3.87)  2.75(1.43〜5.28)  2.04(1.19〜3.50)  1.32(1.12〜1.56)
収縮期血圧
(RR,19年)4
 〜119  120〜139  140〜159  160〜179  180〜    
 1.00  2.36(1.17〜4.77)  3.00(1.51〜5.94)  3.46(1.75〜6.84)  5.13(2.59〜10.16)    
拡張期血圧
(RR,19年)4
 〜79  80〜84  85〜89  90〜99  100〜    
 1.00  0.98(0.68〜1.42)  1.50(1.00〜2.23)  1.42(1.01〜2.01)  2.05(1.37〜3.08)    
 総コレステロール値
(RR,19年)2
 〜159  160〜179  180〜199  200〜219  220〜239  240〜259  260〜
 1.11(0.86〜1.42)  1.00  1.12(0.89〜1.42)  1.13(0.88〜1.46)  1.12(0.84〜1.49)  1.14(0.79〜1.65)  1.90(1.29〜2.79)
喫煙
(RR,14年)3
   非喫煙者  喫煙者  20本/日以下  20本/日以上      
 男性  1.00  1.20(0.76〜1.90)  1.49(1.00〜2.20)  2.00(1.24〜3.31)      
 女性  1.00  1.03(0.49〜2.15)  1.43(0.92〜2.23)  2.35(0.85〜6.50)      
1. Diabetes Care 2013;36:3759
2. Atherosclerosis 2007;190:216
3. Stroke 2004;35:1836
4. J Hypertens 2006;24:459

 合併症評価−大血管障害 (最終更新2010/4/13)

脳血管障害: 脳卒中(stroke)

脳梗塞,脳出血(,くも膜下出血)
症状がなければ,CT,MRIは意味がない
頚動脈超音波
頭部MRA

冠動脈疾患: 虚血性心疾患(CHD)

病歴,負荷心電図でスクリーニング?
疑わしければ,トレッドミル,負荷心筋シンチ,MDCT(?),CAG
MIの既往があるなら治療歴も,UCGで現在の心機能を評価(年1回)

閉塞性動脈硬化症(ASOまたはPVD)

症状,ABI

 合併症評価−細小血管障害 (最終更新2014.1.10)

大血管障害は,動脈硬化関連疾患に共通して起こる合併症です.
それに対して,細小血管障害は糖尿病のみに起こる合併症です.

詳しい記述については,糖尿病性細小血管障害の項にあります.

合併症有無のために必要な検査

糖尿病性網膜症 Diabetic retinopathy: DR

眼底検査

糖尿病性腎症 Diabetic nephropathy

尿中(ミクロ)アルブミン定量
尿中蛋白定量
血清クレアチニン
eGFR
2013年12月に糖尿病性腎症の病期分類が変わりました.詳しくは糖尿病性細小血管障害の項をご参照ください.

糖尿病性神経障害 Diabetic neuropathy

Italian Society of Diabetologyの神経障害症候質問紙: 症状によるスクリーニング法
   20点中4点以上を陽性として,Sn 85%,Sp 79%,LR+ 4.0,LR- 0.19
128Hz音叉(振動覚)
   on-off法: 8回当てて,振動が覚知できない回数が5回以上だとLR 35,2〜4回だとLR 3.9
   時間法: 20秒以上だとLR 16
5.07 Semmens-Weinstein monofilament(モノフィラメント:圧覚)
   10箇所中4箇所以上覚知不能を陽性とした場合,Sn 93,Sp 100,LR+ 16,LR- 0.09
身体所見の組み合わせによるスクリーニング法
   5項目中3項目以上低下を陽性とすると,Sn 94%,Sp 92%,LR+ 12,LR- 0.07
Michigan Neuropathy Screening Instrument(MNSI): 身体所見によるスクリーニング法
   8点中2点以上を陽性とした場合,Sn65〜80%,Sp 83〜95%,LR+ 3.8〜16,LR- 0.2〜0.42

 治療

・治療の原則は,発症8〜10年以上経過している例では厳格な血糖コントロールはしない.経口血糖降下薬使用ではHbA1c 7.0〜9.0%,インスリン使用では7.5〜8.0%を目標とします.
・発症10年未満を目安に,厳格な血糖コントロール(HbA1c 6.9%未満を目標)をします.
※この欄のHbA1cは,特に断りのない限り全てNGSP値で表記します.

糖尿病性網膜症がある場合の血糖コントロール (項目新設2010/8/6,最終更新2010/8/6)

いろいろ問題はあるが,糖尿病性網膜症がある場合には,最初の1〜2年の血糖コントロールはHbA1c 9.0%に甘くコントロールし,それ以降はHbA1c 7.0%程度に厳格なコントロールをするという戦略を取ればよい.
詳しくは,こちらを参照.

メトホルミンが第一選択である理由 (項目新設2010/4/14,最終更新2015/3/3)

メトホルミンは古くからある薬でインスリン抵抗性を改善させ,末梢での糖の利用を促進すると言われています.
2011年に発表されたシステマティックレビュー(Diabetes Obes Metab 2011;13:221)では,35件のRCTののメタアナリシスで,メトホルミンで治療することで,心血管イベントをOR 0.764(0.644〜0.979)倍に減らしました.ただ,この研究では,総死亡はOR 1.074(0.560〜2.061)と減らせてはいませんでした.
更に問題は,SU剤を使用しているときにメトホルミンを上乗せすると総死亡が増加するという結果が出ていることです.
ビグアナイドの欠点は腎障害の患者に使えないことです.日本糖尿病学会は,sCr 値が男性1.3mg/dL、女性 1.2mg/dL 以上の患者には投与しないように勧告を出しています(「ビグアナイド薬の適正使用に関するRecommendation」).この数値は絶対的なものではなく,特に高齢者や脱水がある場合には乳酸アシドーシスを誘発するため避けるべきとしています.普段は健康な患者が脱水になることも想定して,個人的にはeGFR<45mL/min/1.73m2の場合にはメトホルミンを避けることにしています.ただ,日本で2010年にメトホルミンの最大使用可能用量が2250mgとなってから報告された重篤な乳酸アシドーシス50例のうち死亡した10例では,いずれも使用禁忌例に対する投与または80歳代の高齢者でした.したがって,乳酸アシドーシスは10万例に年間10.4例(eGFR≦30mL/min/1.73m2で10万例に年間39例)と極めて稀であること(Diabetes Care 2014;37:2291)と,適切な使用をしていれば安全な薬と言えます.
また,メトホルミンは長期使用でビタミンB12欠乏を引き起こす(4.3年で9.9% vs 2.7%)といわれており(BMJ 2010;340:c2181),注意が必要です.
現状では,心血管イベントを減らすのはメトホルミンとDPP-4阻害薬のみであり,薬価差を考えるとメトホルミンが第一選択となるべきです.

メトホルミンの次に加えるべき薬は何か (項目新設2010/4/14,最終更新2015/2/26)

長らく,経口血糖降下薬(OHA)で大血管障害を予防できることが証明されていたのは,肥満患者におけるメトホルミン(UKPDS33,Lancet 1998;352:837)と,8年間治療を継続した場合のインスリンとSU剤(ただし,効果は8年以降:Legacy effect,UKPDS80,N Engl J Med 2008;359:1577)のみでした.しかし,SU剤は心血管イベントを増やして死亡率を上げる可能性が指摘されていたため,積極的には使えない状態でした.
メトホルミンを第1選択に使った場合,通常HbA1cは0.8〜1%程度の低下効果が見込めますが,これではほとんどの患者でコントロール目標を達成できません.
そこで2剤目として何を選択するのが問題になります.
基本的に薬剤の選択はとてもシンプルで,@(血糖降下作用だけでなく)合併症予防や生命予後延長の効果が証明されているもの,A副作用が少ないもの,B安価なものから選ぶという原則に従います.
これまで合併症予防が証明されたものが他になかったので,血糖降下作用と副作用と薬価のみで比較をするしかない状態でした.
2010年のJAMAに,メトホルミンの次に2剤目として加える薬の比較検討したシステマティックレビュー(JAMA Intern Med 2014;174:1955)が発表されました.それによれば,HbA1c低下効果は0.64〜0.97%とどのクラスの薬剤でもほぼ同じで,チアゾリジン,SU剤,グリニドは1.77〜2.08kgの体重増加があるのに対して,GLP-1アナログ,αGI,DPP-4阻害薬は体重が減ったか変わりませんでした.またSU剤とグリニドは低血糖がRR 4.57〜7.50倍多かったという結果でした.
ところが,次項の通り,DPP-4阻害薬の心血管イベント減少効果が,そしてさらに総死亡減少効果も示されました.残念ながらまだ短期間の効果しか分かっていないので,長期的な効果と安全性について慎重に評価していく必要がありますが,現時点では,メトホルミンの次に加えるべき薬,あるいはメトホルミンが使えない腎機能障害,75歳以上の高齢者が第一選択とすべき薬は,DPP-4阻害薬と言えます.

DPP-4阻害薬は心血管イベントを減らすか (項目新設2010/4/14,最終更新2015/3/26)

DPP-4阻害薬について,個々のRCTでは,心血管イベントを減らすという効果は証明されませんでした.
しかし,2013年に出たシステマティックレビュー(Diabetes Obes Metab 2013;15:112)では,70件のRCTのメタアナリシスで心血管イベントはOR 0.71(0.59〜0.86)倍に,総死亡はOR 0.60(0.41〜0.88)倍に減りました.
これは,メトホルミン以来のハードアウトカムに対して有効性が証明された経口血糖降下薬になります(ピオグリタゾンのPROactive試験は,たまたま有意差の出たアウトカムを都合の良く組み合わせただけ).
ただ注意が必要なのは,ほとんどの研究の追跡期間が6ヶ月〜2年間です.10年以上の長期予後のデータのあるメトホルミンとは異なり,DPP-4阻害薬の長期予後の有効性と安全性については分かっていません.
ところが,その後2013年に発表されたサキサグリプチンの効果を検証したSAVOR-TIMI 53試験(N Engl J Med 2013;369:1317)では,再び心血管イベントの抑制が証明できませんでした
システマティックレビューとRCTの結果のどちらを信じるかを考えた時に大事なのは,網羅性(出版バイアス)とイベント発症数です.出版バイアスは,上図では”Kendall's tau”がそれにあたり,その右側にあるP値が有意かどうかで判断しますが,出版バイアスはなさそうです.またイベント発症数をみると,前述のシステマティックレビューの死亡数はDPP-4阻害薬群と対照群でそれぞれ50例と51例だったのに対し,SAVOR-TIMI 53試験では,420例と378例でした.
DPP-4阻害薬についてのコクランレビュー(CDSR2008:CD006739)は2008年に出ていますが,outcomeとして血糖コントロールしか検討されておらず,合併症や死亡率についてはよく分かりません.ただ,DPP-4の薬剤間に効果の違いはないという結果が示されています.
2014年にもう1本,DPP-4阻害薬のメトホルミンとの効果比較をしたシステマティックレビュー(Diabetes Obes Metab 2014;16:30)が発表されました.こちらは8件のRCTのメタアナリシスの結果が示されています(先ほどの2013年のDiabetes Obes Metabのシステマティックレビューの採用論文数よりも著しく少ないことに注意).
この結果でも,DPP-4阻害薬単剤はメトホルミン単剤よりも心血管イベント発生をRR 0.36(0.15〜0.85)に減らすとされています.しかし,またDPP-4阻害薬とメトホルミンの併用がメトホルミン単剤の効果を上回らないことも示されており,単剤では有効で優越であるのに併用すると優越性がなくなるというおかしな結果になっています.なによりイベント発症が合計で24例しかないことを考えると,この有意差はたまたま出たものと考えるべきであり,この単剤でのDPP-4阻害薬のメトホルミンに対する優越性は慎重に解釈する必要があります.
このため,現時点ではDPP-4阻害薬で心血管イベントや死亡が減らせるかどうかはなんとも言えないという状態だと思います.
DPP-4阻害薬の副作用としては,心不全と感染があります
このSAVOR-TIMI 53試験では,プラセボとの比較で心不全による入院が2年間で2.8%から3.5%にハザード比1.27(1.07〜1.51)倍増加するという結果でした.この結果はサブ解析(Circulation 2014;130:1579)によると,心不全の既往がある例と,eGFR≦60mL/minまたはベースラインのNT-proBNPが上昇している例で最も強い相関が見られました.
DPP-4阻害薬の副作用として心不全発症が増えるというのは,現在のところ機序が不明である.体液貯留や体重増加も見られていないのが不可解なところである.ただ,心不全に寄る入院リスクの増加は投与開始12ヶ月後くらいまでに見られること,特にNT-proBNP高値,心不全既往,慢性腎疾患の患者で顕著であることが示されている.
またDPP-4阻害薬は免疫系に変化を与えるとされており,シタグリプチンとビルダグリプチンのメタアナリシス(JAMA 2007;298:194)では,鼻咽頭炎が相対リスク(RR)1.2(1.0〜1.4)倍,尿路感染症がRR 1.5(1.0〜2.2)倍に上昇することが示されました.
その他に,急性膵炎を誘発すると言われていたこともありました(JAMA Intern Med 2013;173:534)が,急性膵炎発症関係を検証して2014年に発表されたシステマティックレビュー(BMJ 2014;348:g2366)ではOR 1.06(0.46〜2.45)であり,また2015年に発表されたシステマティックレビュー(Diabetes Obes Metab 2015;17:32)でもOR 1.03(0.87〜1.2)とされ,DPP-4阻害薬で急性膵炎は増えないという結論でした.
DPP-4阻害薬の弱点の1つは,HbA1c低下効果が-0.5〜-0.8%とメトホルミンやSU剤よりも弱いことです(Diabetes Care 2009;32:193).
またDPP-4阻害薬自体はインクレチン濃度が食事摂取量に応じて上昇するために低血糖が起こりにくいとされていますが,SU剤の作用を強めるため,SU剤との併用による低血糖リスクの上昇があります(Diabetes Obes Metab 2012;14:470).そのため,SU剤にDPP-4阻害薬を追加する際には,SU剤の減量が必須です.逆にDPP-4阻害薬にSU剤を追加する場合は,SU剤をごく少量(グリミクロンHA 20mgやアマリール0.5mg)から始めるべきです.

インスリン抵抗性改善薬(アクトス)は使うべきではない (項目新設2010/6/10,最終更新2011/6/17)

インスリン抵抗性改善薬は,インスリン抵抗性の強い肥満糖尿病患者に有用とされる薬です.
同じ系統の薬剤としてはメトホルミンがあり,これが大血管イベントの予防に有効であることが証明されている(UKPDS34: Lancet 1998;352:854)ため,効果が期待されて鳴り物入りで登場しました.
しかし,その実状は燦々たるものでした.
国内で発売されている唯一のチアゾリジン系インスリン抵抗性改善薬であるpioglitazone(アクトス)の大規模臨床試験PROactiveでは,大血管イベントの予防効果が証明できなかったばかりでなく,心不全,浮腫,低血糖といった重篤な副作用が高頻度で起こることが明らかになりました.
各種講演会において,PROactiveは,経口糖尿病薬で世界初大血管イベント予防効果を証明した臨床研究と紹介されていますが,UKPDS34が1998年に発表されていますので,これはウソになります.
また,都合の良いアウトカムを後付けで設定して有効とするなど,姑息な手段を使っています.→原著論文の批判的吟味を参照
 ・PROactive Lancet 2005;366:1279 【原著論文の批判的吟味】PROactive
pioglitazoneの効果についてはコクランレビュー(CDSR 2006:CD006060)があり,患者にとって重要なアウトカム(死亡,大血管イベント,副作用,費用,健康関連QOL)で有益という結果は見られませんでした.
pioglitazoneは,血糖を下げるという点では,他の抗糖尿病薬と変わらず,メタアナリシスの結果では,pioglitazoneは浮腫が有意に増えると示されました(14.7% vs 7.4%,p<0.00001,NNH 13).
さらに,pioglitazoneは骨折と関連があることが示唆されています.
pioglitazoneと骨折の関係を示した最初のメタアナリシスは2007年に発表されており(Ann Pharmacother 2007;41:2014),特に女性において顕著だとされました.
2009年のメタアナリシス(CMAJ 2009;180:32)によれば,女性におけるpioglitazoneの使用による骨折増加のリスクはOR 2.23(1.65〜3.01)であり,非常に大きいことが分かります.
以上を踏まえて,米国糖尿病学会/欧州糖尿病学会議(ADA/EASD)が発表した2008年のコンセンサス声明では,2型糖尿病の高血糖管理には,チアゾリジン系インスリン抵抗性改善薬の1つであるrosiglitazone(国内未発売)を使用しないように推奨しました(Diabetes Care 2009;32:193).
英国NHSのガイドラインであるNICEでも,低血糖でSU剤が使えない場合以外はSU剤の代わりとしてsecond lineの治療としてチアゾリジン系インスリン抵抗性改善薬を使用すべきではないと書かれています(NICE 2008:CG66).
さらに,米国心臓学会/米国心臓病学会財団(AHA/ACCF)の声明でも,チアゾリジン系インスリン抵抗性改善薬は冠動脈イベントの予防を考慮すると使うべきではないとされています(Circulation 2010;121:1868).
実際に,診療を行っていると,アクトスを使って心不全を発症したとか,浮腫を主訴に受診してアクトスを止めたら改善したとかは,決して珍しいことではありません.
2011年6月9日,フランスの医薬品規制当局(AFSSAPS)は,同国で行われたコホート研究の結果で,pioglitazone使用群の膀胱癌の発症リスクがHR 1.22(1.05〜1.43),累積投与量が2万8000mgを超えた群ではHR 1.75(1.22〜2.50)だったことを受けて,pioglitazone製剤とそれを含む合剤の新規処方の中止を要請する声明を発表しました.
これを受けて,6月15日に米国FDAも,2011年9月に実施していたコホート研究の5年経過時の中間解析で,患者全体を対象にした場合のリスク上昇は認められなかったが,1年以上の投与でHR 1.4(0.9〜2.1),2年以上の投与でHR 1.4(1.03〜2.0)となっていたことを根拠に,pioglitazoneを1年以上使用している患者での膀胱癌リスクの懸念を発表しました.ただし,FDAの声明では,膀胱癌患者での使用回避と,膀胱癌既往患者でのリスクベネフィットを考慮した使用に言及しているだけで,新規処方を中止するといったフランスのような踏み込んだ内容にはなっていません.
私は,代用薬があって使用が必須ではない薬剤は,危険性がある以上使用するべきではないと思います.
結論として,pioglitazone(アクトス)は臨床的に意味のある効果があると言えず,副作用が強く危険性があり,費用が高いので,糖尿病治療に使用すべきではありません.

αGIは心筋梗塞を減らすか(STOP-NIDDM) (項目新設2015/2/19,最終更新2015/4/13)

2003年に発表されたSTOP-NIDDM20(JAMA 2003;290:486)は日本で行われたアカルボース(グルコバイ)のRCTで,心血管イベントをハザード比(HR)0.51(0.28〜0.95)倍に,心筋梗塞をHR 0.09(0.01〜0.72)倍に減らしたという結果でした.
ただ,心血管イベントのイベント発症数がアカルボース群で682例中15例,プラセボ群で686例中32例と少なく,ランダム割り付け後に各群32例と29例除外されていること,研究途中で341例(211例と130例)脱落していたことを考えると,この結果を鵜呑みにはできません.
しかもこれは複合エンドポイントであり,冠動脈疾患(心筋梗塞,新規発症狭心症,血行再建術),心血管死亡,うっ血性心不全,脳血管イベント,末梢血管疾患を組み合わせたものです.このうち,有意差があったのは,冠動脈疾患の中の心筋梗塞のみであり,HR 0.09(0.01〜0.72)でしたが,そのイベント発症数は1例と12例と極めて少ない結果でした.したがって,これをもってαGIが心血管イベント抑制に有用と結論付けるのは難しいと思います.
また,発売された1993年から長期間が経っているにもかかわらず,これ以外にαGIの合併症予防,死亡率軽減を示した研究がないことからも,現時点ではαGIには血糖を下げる以上の効果はないと考えた方が良さそうです.

SGLT2阻害薬で長生きできるか (項目新設2015/11/9)

2015年に発表された心疾患の既往のある2型糖尿病患者を対象としたempagliflozin(ジャディアンス(R))の効果を検証したEMPA-REG OUTCOME(N Engl J Med 2015;373:2117はプラセボ対照非劣性試験であり,非劣性はおろか,総死亡を減らすという優越性が証明されたとのことで話題になった研究である.
その結果は以下のとおり.
 総死亡: 8.3% vs 5.7%,HR 0.68(0.57〜0.82),p<0.001
 心血管死亡: 5.9% vs 3.7%,HR 0.62(0.49〜0.77),p<0.001

 致死的または非致死的心筋梗塞(無症候性心筋梗塞を除く): 5.2% vs 4.5%,HR 0.87(95%CI 0.70〜1.09),p=0.23
 無症候性心筋梗塞: 1.2% vs 1.6%,HR 1.28(95%CI 0.70〜2.33),p=0.42
 致死的または非致死的脳卒中: 3.0% vs 3.5%,HR 1.18(95%CI 0.89〜1.56),p=0.26
 心不全による入院: 4.1% vs 2.7%,HR 0.65(95%CI 0.50〜0.85),p=0.002

本研究は,心血管合併症を有する2型糖尿病患者におけるSGLT-2阻害薬の全死亡,心血管死抑制効果を証明した最初のRCTである. 本研究に参加した患者は心血管合併症を有する2型糖尿病患者であり,本研究はそういった患者にすでにメトホルミンなどの他の経口血糖降下薬,ACE阻害薬などの降圧薬,スタチンなどの治療が行われているところに上乗せした効果を見たものである. 本研究の結果をもって,2型糖尿病患者における経口血糖降下薬を用いた治療の第一選択として本剤を代表とするSGLT-2阻害薬を用いるのは不適切である.あくまで,すでに心血管合併症を有する患者に対して,メトホルミンを使用してもHbA1c 8.0%以上の場合に,第2選択薬,第3選択薬として追加として使用することを考慮する薬剤であることに留意するべきである.また,仮にメトホルミンと同様に心血管イベントや死亡を減らす効果があるとしても,薬価差が大きいので,やはりメトホルミンが使える患者でSGLT-2阻害薬が第一選択になることはない. Empazliflozinを使用する場合は10mg使用すれば十分であり,血糖降下作用が不十分であっても増量することに意味は無い. 1本のRCTで有効性が証明されただけで,積極的な処方を行うのは危険である.臨床試験は偶然効果があるという結果が出ることも多いので,本研究によってSGLT-2阻害薬が総死亡を抑制すると決めてかかるのは危険である.今後の追試で真の効果が明らかになっていくまでは慎重を期するべきである. 本研究はプラセボ比較の非劣性試験であるので,優越性の検定はあくまで二次解析である.優越性を証明するためには,改めて優越性を一次解析としたランダム化比較試験を行う必要がある.
この研究の批判的吟味の結果は以下のとおり.
 ・EMPA-REG OUTCOME N Engl J Med 2015;373:2117 【原著論文の批判的吟味】EMPA-REG OUTCOME

経口血糖降下薬の効果まとめ (項目新設2015/2/19,最終更新2015/3/3)

現在,経口血糖降下薬は7種類あります.これを3系統に分類して,薬価と効果についてまとめました.
 分類   一般名   商品名   薬価*   効果    
 HbA1c減少(%)  細小血管障害  大血管障害  総死亡  副作用
 インスリン抵抗性改善
 ビグアナイド  メトホルミン  メトグルコ
(1日2〜3回)
錠250mg:
9.6円(19.2円)
9.6円(19.2円)
 -1.0〜-2.01  RR 0.71(0.43〜1.19)2  UKPDS342
 RR 0.68(0.58〜0.87)

 SR(2011)3
 OR 0.794(0.644〜0.979)
 UKPDS342
 RR 0.64(0.45〜0.91)3

 SR(2011)3
 OR 1.074(0.560〜2.061)
乳酸アシドーシス
ビタミンB12欠乏
消化器症状状
SU剤に追加すると死亡率上昇
 チアゾリジン  ピオグリタゾン  アクトス 錠15mg:
37.8円
17円
 -0.5〜-1.41  −  −
(「インスリン抵抗性改善薬(アクトス)は
使うべきではない
」)を参照のこと
 HR 0.96 (0.78〜1.18)4 心不全RR 1.40 (1.22〜1.60)4
浮腫
 インスリン分泌促進
 スルホニルウレア(SU)薬   グリメピリド  アマリール 錠1mg:
18.6円
9.9円
-1.0〜-2.01 RR 0.66 (0.47〜0.93)5 第2世代RR 1.32 (0.82〜2.13)6

第1世代RR1.46 (0.87〜2.45)6
第2世代RR4.86 (0.24〜99.94)6   

低血糖:第2世代RR 12.26 (0.70〜213.33)6
特に遷延するので注意   

 グリクラジド  グリミクロン HA錠20mg:
14.7円
5.6円
 グリベンクラミド  オイグルコン

錠1.25mg:
7.7円
5.6円

 DPP-4阻害薬        シタグリプチン ジャヌビア
グラクティブ
錠50mg:
149.3円
-0.5〜-0.81        − SR(2013)7
 OR 0.71 (0.59〜0.86)
SAVOR-TIMI 538
 HR 1.02(0.94〜1.11)
DPP-4阻害薬は心血管イベントを減らすか」を参照のこと
SR(2013)7
 OR 0.60 (0.41〜0.88)
SAVOR-TIMI 538
 HR 1.11(0.96〜1.27)
DPP-4阻害薬は心血管イベントを減らすか」を参照のこと
SU剤と併用した時に低血糖リスク上昇
便秘
 ビルダグリプチン

エクア
(1日2回)

錠50mg:
87.7円(175.4円)
 アログリプチン  ネシーナ 錠25mg:
186.9円
 リナグリプチン  トラゼンタ 錠5mg:
188.4円
 テネリグリプチン  テネリア 錠20mg:
186.8円
 アナグリプチン スイニー
(1日2回)
錠100mg:
74.7円(149.4円)
 サキサグリプチン オングリザ

錠5mg:
149.3円

 速効型インスリン分泌促進薬(グリニド)    ナテグリニド ファスティック
スターシス
(1日3回)
錠30mg:
18.7円(56.1円)
12円(36円)
 -0.5〜-1.51   −   −   −   低血糖 
 ミチグリニド グルファスト
(1日3回)
錠30mg:
18.7円(56.1円)
12円(36円)
 レパグリニド シュアポスト
(1日3回)
 錠0.25mg:
33.4円(100.2円)
 糖吸収・排泄調節
 αグルコシダーゼ阻害薬(αGI)    ボグリボース ベイスン

錠0.2mg:
38.2円
16.6円

 -0.5〜-0.81 −  

HR 0.51 (0.28〜0.95)9
ただし,結果の解釈に注意を要す
αGIは心筋梗塞を防ぐか(STOP-NIDDM)」を参照のこと

−  

腹部膨満
放屁  

 ミグリトール セイブル

錠50mg:
52.9円

 アカルボース グルコバイ 錠50mg:
22.1円
13.6円
SGLT2阻害薬     イプラグリフロジン スーグラ 錠50mg:
205.5円
-0.66(-0.73〜-0.58)3     −  OR 0.89(0.70〜1.14)10 OR 1.18(0.29〜4.90)10†      

低血糖OR 1.82(0.99〜1.65)10
尿路感染症OR 1.34(1.03〜1.74)10
性器感染症OR 3.50(2.46〜4.99)10

 ダパグリフロジン フォシーガ 錠5mg:
205.5円
 ルセオグリフロジン ルセフィ 錠2.5mg:
205.5円
 トホグリフロジン アプルウェイ
デベルザ
錠20mg:
205.5円
 カナグリフロジン カナグル 錠100mg:
205.5円
RR:リスク比,HR:ハザード比,OR:オッズ比,( )内は95%信頼区間
*上段は先発品,下段は後発品の最も安価のもの,1日複数回服用する薬剤は,後ろに1日薬価を添えた.
†カナグリフロジンのデータ
引用文献:
1)Diabetes Care 2009;32:193
2)Lancet 1998;352:854
3)Diabetes Obes Metab 2011;13:221
4)Lancet 2005;366:1279(PROactive)
5)Lancet 1998;352:837(UKPDS 33)
6)Cochrane Database Syst Rev 2013;4:CD009008
7)Diabetes Obes Metab 2013;15:112
8)N Engl J Med 2013;369:1317(SAVOR-TIMI 53)
9)JAMA 2003;290:486(STOP-NIDDM)
10)Ann Intern Med 2013;159:262

経口血糖降下薬の選び方 (項目新設2015/2/19,最終更新2015/4/7)

米国糖尿病学会(ADA)のStandards of Medical Care in Diabetes 2015のPosition Statement 7. Approachs to Glycemit Treatmentを参考に,管理者が考えた経口血糖降下薬の選び方のアルゴリズムを以下に示します.
結局のところ,現時点で使用する薬剤は,長期予後を改善することが証明されているメトホルミン,DPP-4阻害薬,SU剤のみです.

インスリン (項目新設2009/2/17,最終更新2012/5/27)

私が研修医の頃は,厳格な血糖コントロールをするために,強化インスリン療法が推奨されていました.
ところが,現在は必ずしもそうではないようです.
まず,大前提として,インスリンの効果を検討した前向き臨床試験のうち,アウトカムが血糖値とHbA1cなどのサロゲートエンドポイントではなく,心血管疾患や死亡などの患者にとっての真のアウトカムとして検討されたものはほとんどありません.
UKPDS 33(Lancet 1998;352:837)がSU剤とインスリンを用いて糖尿病網膜症を有意に減らしたというエビデンスのみが存在します.
ましてや,どの種類のインスリンを用いたらというデータはありませんでした.
以前は,食事療法と運動療法で血糖コントロール不良の糖尿病患者は,OHA(経口血糖降下薬)を開始し,OHAを増量しても血糖コントロールが付かない患者では,OHAからインスリンへ切り替えるというのが主流でした.
ところが,近年では,OHAはそのまま,もしくは減量するに留めておき,インスリンを上乗せする形で併用した方が,インスリンの総投与量が減らせるので良いとされてきています.
これを,近年ではBOT(Basal supported Oral Therapy)と呼ぶそうです.
これは,血中インスリン濃度が高いことが心血管系への悪影響を及ぼすのではないかという考えから来たものです.
インスリンは,どの製剤を選ぶべきか
そのような背景があって,2009年にOHAでコントロール不良の患者に,1日1回持続型インスリン(インスリン デテミル)皮下注の追加するのと,1日3回超速効型インスリン(インスリン アスパルト)を追加するのと,1日2回二相性インスリン(二相性インスリン アスパルト30)を追加するのを比較したRCTである 4-T study(NEJM 2009;361:1736)の結果が発表されました.
これによれば,1日1回の持続型と1日3回の超速効型を加える方が血糖コントロールが良好で,しかも,1日1回持続型の方が低血糖エピソードや体重増加も少なかったのです.
結果のまとめは,以下に表に示します(治療前HbA1c以外の全てにおいて有意差あり).
1日2回二相性 1日3回超速効型 1日1回持続型
治療前HbA1c(%) 8.4 8.2 8.1
3年後HbA1c(%) 7.1(6.9-7.3) 6.8(6.6-7.0) 6.9(6.6-7.1)
HbA1c≦6.5%(%) 31.9% 44.8% 43.2%
HbA1c≦7.0%(%) 49.4% 67.4% 63.2%
体重増加(kg) 5.7±0.5 6.4±0.5 3.6±0.5
低血糖発作(%) 49.4% 51.0% 44.0%
インスリン投与量(IU/day) 70(58-82) 86(73-99) 88(74-102)
インスリン投与量(IU/day/kg) 0.78(0.67-0.90) 0.94(0.82-1.06) 1.03(0.90-1.16)
試験から脱落(%) 5.1 11.7 8.5
そのため,長期的な心血管系イベントや死亡に対する効果はまだ分かりませんが,インスリン治療を行う場合は,現時点では,1日1回持続型のインスリンを用いるのが良いと思われます.
患者にとっても,1日に複数回注射をするよりも,1日1回で済むのであれば,よりアドヒアランスも維持できるでしょう.
インスリンの使い方
インスリンの具体的な使い方は,次の項の「絶食患者での血糖コントロールの方法」を参考にしてください.
これは,絶食患者での方法ですが,実際には食事を食べている患者でも同様の方法でインスリン投与量の調整をして良いと思います.
インスリンにはメトホルミンを併用
インスリンと併用するOHAを何にすべきかは,明確なエビデンスがないので難しいところですが,作用機序を考えると,インスリンを放出させるSU剤(アマリール,オイグルコン,ダオニールなど)や速効型インスリン分泌促進薬(ファスティック,スターシスなど)よりも,メトホルミン(メデット,メルビンなど)やαグルコシダーゼ阻害薬(グルコバイ,ベイスンOD,セイブルなど)を選んだ方が合理的だと思われます.
メトホルミンは肥満患者で有効というエビデンスがあるのみで,痩せている患者で同じだけの効果があるかどうかは分かりませんが,実際に使用している印象では,痩せている患者でもHbA1c低下効果としては悪くはないです.
メトホルミンの投与量は,インスリンの投与量を最大限抑えるために,500mg1×夕食後(または500mg2×朝夕食後)で開始し,血糖値を見ながら,1週間毎に増量を検討します.最大投与量は1500mg3×です.なお,メトホルミンは高齢者には慎重投与,腎障害がある場合には禁忌になっているので,男性ではsCr>1.3mg/dL,女性ではsCr>1.2mg/dL以上では使用を控えます.

病棟での血糖コントロールの方法−スライディングスケールは使用すべきではない (項目新設2009/9/7,最終更新2016/2/22)

従来より行われていたスライディングスケールによる血糖調節は,実際には血糖値が乱高下するのが問題です.
血糖が高くないときにはインスリンを打たないので,じきに高血糖になり,これに対して高用量のインスリンを打つので低血糖になります.
しかも,患者によってインスリンの感受性や抵抗性は異なるため,また合併する急性疾患に応じて耐糖能も変化するため,たとえ同じ血糖値であったとしても,同じ量の速効型インスリンを投与することによる血糖低下効果は異なります.
そもそも,スライディングスケールの効果と安全性については,ほとんど研究が行われていません.
生理的な基礎分泌と食前の追加分泌を組み合わせた強化インスリン療法が,スライディングスケールよりも血糖コントロールが優れていたというRABBIT-2 trialというRCT(Diabetes Care 2007;30:2181)がありますが,総インスリン投与量に違いがあり(42U/日vs 12.5U/日),一概にはスライディングスケールの方が劣るとも断言しきれません.
ただ,逆に言えば,スライディングスケールでは投与量が少なくなりがちだということも意味するとも取れます.
RABBIT-2 trialのインスリン強化療法プロトコール(Diabetes Care 2007;30:2181
●入院時にすべての経口糖尿病薬の中止
●開始時1日インスリン総量
 入院時血糖値が140〜200mg/dLのとき,0.4単位/体重/日
 入院時血糖値が201〜400mg/dLのとき,0.5単位/体重/日
●1日インスリン総量の半量をランタス注,残りの半量をノボラピッド注とする
●ランタス注は1日1回,同じ時間に投与する.眠前が勧められる
●ノボラピッド注は3等分して毎食直前に皮下注する.食べられない場合はスキップする.ランタス注は継続する

追加インスリン
 血糖>140mg/dLの場合はスライディングスケールに従い,ノボラピッド注を追加する
 ●患者が食事をほぼすべて摂取できる場合は,食前および就寝前に「通常」列に従い用量を決定,投与する
 ●患者が食事を摂取できない場合は,6時間毎に「インスリン感受性」列に従い用量を決定,投与する

基礎インスリンの調節
 ●空腹時血糖もしくは平均血糖が140mg/dLを超え,低血糖が見られない場合には毎日ランタス注を20%ずつ増加
 ●低血糖(<70mg/dL)を呈した際にはランタス注を20%低減させる。

血糖のモニタリング
 血糖は毎食前と就寝前(食事が取れない場合は6時間毎)に確認する。


 血糖値(mg/dL)  インスリン感受性  通常  インスリン抵抗性
 141〜180  2  4  6
 181〜220  4  6  8
 221〜260  6  8  10
 261〜300  8  10  12
 301〜350  10  12  14
 351〜400  12  14  16
 >400  14  16  18
※「インスリン抵抗性」列はRABBIT-2 trialのスライディングスケール群で使用
低血糖の害
 ・血糖<70mg/dLでは,カウンターホルモンとして分泌されるカテコラミンが不整脈を引き起こすとされています.これは特に高齢者や虚血性心疾患患者で起こします.
 ・血糖<50mg/dLでは,一過性に起こる認知障害により転倒や誤嚥が起こります.
 ・血糖<40mg/dLになると,痙攣や昏睡が起こります.
では,どうすればよいでしょうか?
※非集中治療患者:ADA(American Diabetes Association)の推奨
 血糖コントロールの目標:空腹時血糖<140mg/dL,任意の血糖値<180mg/dL.
 ただし,これにはほとんどエビデンスはありません.
 空腹時血糖を90〜100mg/dL以下にすると低血糖が起こりうるので注意すべきです.
絶食患者での血糖コントロールの方法
2つの方法があります.どちらでも構いません.
方法1:より簡便な方法(眠前ランタスのみ使用)
まず,全ての内服中の経口血糖降下薬を中止します.
血糖値が150mg/dL以上の場合,眠前ランタス開始します(ランタスが使用できない場合は,ノボリンNなどの中間型製剤を朝晩に等量2分割して使用します).
以下の表で開始量を決定します.
開始単位数 ランタス単位数 (体重60kgなら)
150mg/dL<入院時血糖≦200mg/dL 眠前0.1単位/kg (6単位)
200mg/dL<入院時血糖≦250mg/dL 眠前0.2単位/kg (12単位)
250mg/dL<入院時血糖≦300mg/dL 眠前0.3単位/kg (18単位)
300mg/dL<入院時血糖 眠前0.4単位/kg (24単位)
血糖4検で測定し,以下の表に従って毎日増量の必要性を判定します.
最低値(通常は朝食前値)によって単位数を調整すると良いです.
増量単位数 ランタス単位数
血糖4検の最低値≦ 80mg/dL 8単位減量
80mg/dL<血糖4検の最低値≦140mg/dL 変更なし
140mg/dL<血糖4検の最低値≦200mg/dL 4単位増量
200mg/dL<血糖4検の最低値≦250mg/dL 8単位増量
250mg/dL<血糖4検の最低値≦300mg/dL 12単位増量
300mg/dL<血糖4検の最低値 16単位増量
多くの教科書(Harrisonなど),レビュー(NEJM 2006;355:1903など)では,絶食患者においても6時間毎に速効型or超速効型インスリンを投与するよう指示していますが,絶食患者では食事による血糖上昇がないわけですから追加分泌を補充するという意義のある日中の速効型インスリンの投与は不要と考えられます.
つまり,ランタスのみで空腹時血糖<140mg/dL,任意の血糖値<180mg/dにできれば,速効型or超速効型の追加投与は不要です.
複雑すぎるプロトコールでは実践不可能ですので,管理者はなるべく単純化して考えることを推奨します.
方法2:より厳密な方法(強化インスリン療法)
以下,絶食患者での血糖コントロールのアルゴリズムです.入院前にインスリン治療中でなかった場合も,なるべく基礎インスリンを使用して,修正インスリンの量は減らすべきです.
経口摂取中患者での血糖コントロールの方法
基本的には,絶食患者での血糖コントロールの方法と変わりません.
管理者は,多くの専門医の意見と異なり,経口摂取中の患者の場合でも,速効型or超速効型インスリン投与は必ずしも必要はないと思っています.
その一番の理由は効果とコンプライアンスのバランスです.
恐らくほとんどの糖尿病患者では,インスリンを1日に何度も注射しなければならないことには抵抗があり,それがインスリン療法の開始を遅らせていることに繋がっていると思います.
もちろん,強化インスリン療法を行えば血糖コントロールは厳格に保つことはできるでしょうが,どのみち2型糖尿病ではインスリン治療によって合併症が予防できるというエビデンスはどこにもないのですから,患者の苦痛が増すだけでしょう.
そうすると,入院中だけ血糖コントロールを厳格にするのは意味がないですし,そもそもインスリン療法自体の必要性も疑わしくなります.
特に高齢者では,発症から10年以上経過している例も多く,そういった場合は後述のように血糖の厳格なコントロールによってかえって死亡率が上がる可能性も指摘されていますから,経口血糖降下薬のみで可能な程度の血糖コントロールで大目に見るという勇気も必要なのではないでしょうか.
本当にインスリンが必要な患者であっても,可能な限り1日1回注射で済むかどうかトライしてみても良いと思われます.
※集中治療患者:ADAとACE(American College of Endocrinology)の推奨
 血糖値を140〜180mg/dLにコントロールします.
 外科ICU患者では,80〜110mg/dLにした方が予後がよいという報告もあります(NEJM 2001;345:1359)が,内科ICU患者では予後は変わらず低血糖が多かったという報告(NEJM 2006;354:449)があるため,そこまで厳しいコントロールにはしない方が良いでしょう.
 経口血糖降下薬,インスリン皮下注は中止し,微量輸液による持続インスリン(0.5〜1単位/mlの濃度で調整)の使用が必要です.
以下,絶食患者での血糖コントロールのアルゴリズムです.
周術期の血糖コントロールの方法
周術期は内因性のステロイドやカテコラミンの分泌が亢進するなど,血糖コントロールが悪化するのが一般的です.
普段の血糖コントロールが良好の場合,侵襲度の低い手術であれば,絶食期間中のみスライディングスケールで対応可能です.
もともとの血糖コントロールが悪い場合や絶食期間が長くなる場合は,強化インスリン療法を行います.
もともとの血糖コントロールが悪い場合は,手術日の1週間前に入院して,強化インスリン療法を開始します.
侵襲度の強い手術で術後の輸液管理が必要となる場合は,入院後に強化インスリン療法を開始し,絶食期間中はインスリン持続注射を行います.
以下,周術期の血糖コントロールのアルゴリズムです.

発症10年以上経過している2型糖尿病では,厳格な血糖コントロールをすべきではない理由 (項目新設2009/7/27,最終更新2016/12/7)

ここで話すのは2型糖尿病の話です.
プライマリケアの現場では圧倒的に2型糖尿病を診る機会が多いためです.
2008年はすごい年
2型糖尿病患者における血糖コントロール集中治療の効果を検証した研究が一挙に4件も発表されました.
しかも,この4本の結果が全くバラバラだったため,話題を呼びました.
2008年以前
1型糖尿病では,DCCT(Arch Ophthalmol 1995;113:36,N Engl J Med 1993;329:977,Am J Cardiol 1995;75:894)で細小血管障害が減り,その後長期フォローしたEDIC(N Engl J Med 2005;353:2643)で大血管障害も減ることが分かっていました.
これに対して,2型糖尿病では,UGDP(Diabetes 1970;19:747)とUKPDS33(Lancet 1998;352:837)からinsulinとSU剤では細小血管障害は減らすが,大血管障害は減らさず,さらに低血糖を増やし,SU剤は死亡率を上げる可能性も示唆されていました.
一方,肥満2型糖尿病では,UKPDS34(Lancet 1998;352:854)の結果からメトホルミンは大血管障害を減らしましたが,細小血管障害は減らさないと逆の結果が示されていた.

まとめると,以下のような結果であり,2型糖尿病患者において血糖コントロールを厳格にするべきか否か,結論は得られていない状態でした.
臨床試験 大血管障害 細小血管障害 備考
1型 DCCT insulin強化療法(ポンプ使用or 3〜4回/日打ち)と従来療法(1〜2回/日打ち)
EDIC DCCT後7年間継続して追跡
2型 UGDP × トルブタマイドで心血管死が3倍に上昇
UKPDS33 × 非肥満患者にSU剤とinsulinで厳格な血糖コントロール
UKPDS34 × 肥満患者にmetforminで厳格な血糖コントロール

2008年に発表された2型糖尿病に対する厳格な血糖コントロールの4本のRCTから言えること

2008年に発表された4本のRCTは,以下の通りです.
 ・ACCORD N Engl J Med 2008;358:2545 【原著論文の批判的吟味】ACCORD
 ・ADVANCE N Engl J Med 2008;358:2560 【原著論文の批判的吟味】ADVANCE
 ・UKPDS80 N Engl J Med 2008;359:1577 【原著論文の批判的吟味】UKPDS80
 ・VADT N Engl J Med 2009;360:129 【原著論文の批判的吟味】VADT
※2008年に4本発表と書きましたが,VADTは2008年12月にEarly releaseされ,2009年1月に正式リリースされました.
特に,最初に発表されたACCORDの結果は,目標HbA1cを7.0〜7.9%から6.0%未満に下げたときに目標をPrimary outcomeである心血管疾患の発症が抑制できなかっただけでなく,死亡率が22%有意に増加した,というものでした.
他にも,ADVANCEでも心血管疾患は減らず,VADTでは有意差がないながら死亡率が4倍増加するという,似たような結果でした.
一方で,UKPDS33,34追跡研究であるUKPDS80では,心血管疾患は有意に減りました.
4本の論文の結果をまとめると,以下のようになります(より詳細なまとめの表).
臨床試験 大血管障害 細小血管障害 備考
ACCORD × × 心血管イベントが減らせなかっただけでなく,死亡率が有意に増えたため,3.5年で中止
ADVANCE × 有意差があったのは,マクロアルブミン尿だけ
UKPDS80 発症直後から厳格な血糖コントロールした.肥満患者では細小血管障害は予防できなかった
VADT × 有意差があったのは,尿中アルブミン増加の抑制だけ.有意差はないながら,死亡率は約4倍

2008年に発表された4本のRCTでは,UKPDS80のみが血糖コントロールの集中治療が大血管障害の発症予防に有用とされました.
4本の研究とも,ベースラインのA1cは8.0%程度と似ており,集中治療と標準治療のプロトコールはほとんど同じです.
UKPDS80と他の研究の違いは,糖尿病発症の早期に治療を開始したか,10年程度コントロール不良の期間があった後に治療を開始したか,の違いです(UKPDS80も研究開始時点で発症から10年程度経っているが,その間に先行研究のUKPDS33, 34で治療が行われている).
したがって,2型糖尿病は発症早期に治療をすれば,その後治療を甘くしても効果は持ち越されると考えられます(Legacy effect).
逆に発症早期に治療を開始しなければ,その後一生懸命治療しても効果はないばかりか,かえって害があると言えます.
1型糖尿病で有効なのはDKAなどで発症し,発症してすぐに治療を開始するからだと思われます.
2型糖尿病では自覚症状なく発見が遅れて治療を開始するために効果が小さくなると考えると辻褄が合います.

この考えを支持するVADTのサブ解析が発表されました.

2型糖尿病に対する厳格な血糖コントロールについてのメタアナリシス

2型糖尿病に対する厳格な血糖コントロールの効果を評価したRCTのメタアナリシスは幾つかあります.

2009年に発表されたシステマティックレビュー/メタアナリシス(Ann Intern Med 2009;151:394)では,UKPDS33,UKPDS34,ACCORD,ADVANCE,VADTが採用されました.
2型糖尿病患者における血糖の厳格なコントロールは,一貫した結果が出ていません(先の解説から,明かではあるが).
このレビューでは,以前の研究(発症早期の患者に介入した研究)と最近の研究(発症から長期間コントロール不良の患者に介入した研究)の2群に分けて解析されました.

結果は,心血管疾患,冠動脈疾患は全体では有意差がありましが,群別では発症早期に介入したものの方が効果が大きい傾向でした.
脳卒中,心血管死や総死亡などは,どちらの群でも血糖の厳格コントロールが効果を示しませんでした.
重篤な低血糖については,両群とも増加する傾向がありましたが,特に発症から長期間コントロール不良の患者に介入した研究で大きく増加しました.

RR(95%CI) risk differnce(95%CI)
(/1000人/5年間)
心血管疾患 Eearly trials 0.79(0.57〜1.09) -25(-56〜5)
Recet trials 0.94(0.86〜1.02) -7(-12〜-2)
Total 0.9(0.83〜0.98) -15(-14〜-5)
冠動脈疾患 Eearly trials 0.78(0.59〜1.04) -20(-38〜-1)
Recet trials 0.91(0.83〜1.01) -6(-9〜-3)
Total 0.89(0.81〜0.96) -11(-17〜-5)
脳卒中 Eearly trials 0.91(0.53〜1.58) -3(-16〜9)
Recet trials 0.97(0.84〜1.12) -2(-6〜2)
Total 0.98(0.86〜1.11) -2(-6〜2)
心血管死 Eearly trials 0.75(0.48〜1.19) -15(-36〜6)
Recet trials 1.13(0.79〜1.63) 4(-9〜17)
Total 0.97(0.76〜1.24) -3(-14〜7)
総死亡 Eearly trials 0.83(0.59〜1.16) -18(-46〜10)
Recet trials 1.08(0.88〜1.32) 5(-10〜21)
Total 0.98(0.84〜1.15) -4(-17〜10)
重篤な低血糖 Eearly trials 1.37(0.58〜3.27) 16(-26〜58)
Recet trials 2.48(1.78〜3.47) 54(-6〜115)
Total 2.03(1.46〜2.81) 39(7〜71)

(Figure 2:別ウィンドウで拡大

(Figure 4:別ウィンドウで拡大

さらに,厳格な血糖コントロールが予後を悪くすることを指示する観察研究の結果が発表

2010年に発表された後ろ向きコホート研究(Lancet 2010;375:481)では,平均糖尿病罹病期間7.8年の患者を対象としており,最も死亡率の低いHbA1cは7.5%であることが分かりました(下図,A:経口血糖降下薬使用患者,B:インスリン使用患者).
しかも,metforminとSU剤の経口血糖降下薬による治療ではHbA1c 7.0〜9.0%の間でほとんどリスクが変わりませんが,insulin使用では,リスクが低いのは7.5〜8.0%の狭い範囲に限られます.
つまり,この研究の結果からは,経口血糖降下薬で治療を行う場合にはHbA1c 7.0〜9.0%に,insulin治療を行う場合にはHbA1c 7.5〜8.0%にコントロールすべきで,それより高くても低くても良くないことになります.
一般的に知られているのは,糖尿病患者における合併症発症率や死亡率は,HbA1cが高ければ高いほど上がり,低ければ低いほど下がることだと思います.ところが,それは未治療の糖尿病患者の場合であり,治療中の患者では異なるのです.
つまり,未治療のHbA1c 7.0%と,未治療で8.5%の人が治療して下がった7.0%は数値として同じでも全く意味が違うということです.
2012年に平均年齢80歳の施設入所者を対象とした前向きコホート研究(J Am Geriatr Soc 2012;60:1215)でも,同様の結果が発表されました.
ACCORD試験で血糖の厳格なコントロールを行うと死亡率が有意に上がることが示され,また,2010年のLancetに掲載された後ろ向きコホート研究から,血糖コントロールを厳しく行ってHbA1cを低くし過ぎると,かえって死亡率が上がることが確認されました.
このような事実がある以上,HbA1cだけを見て,血糖コントロールを行ってはいけないと言えるでしょう.これまで見てきたように,糖尿病の罹病期間によって,コントロール目標を変える必要があります.

米国糖尿病学会の血糖コントロールの推奨

米国糖尿病学会(ADA)の推奨
米国糖尿病学会(ADA)の2012年のガイドラインにおける糖尿病の血糖コントロール目標はA1C 7.0%(NGSP値)未満です.ただし,2009年に出された勧告(Diabetes Care 2009;32:187)では,以下に該当する人は,より甘くした方がいいだろうと書かれ,糖尿病の罹病期間の長い患者での血糖コントロールの目標を厳しくしないことが勧められています(C-level recommendation; ACC/AHA, class IIa recommendation(level of evidenceC)).ただし,どれくらいの目標にすればいいかについては,記載がありませんでした.
 ・重度の低血糖発作の既往のある患者
 ・余命の短い患者
 ・重度の細小血管障害や大血管合併症を合併した患者
 ・併存疾患が重度である患者
 ・糖尿病の自己管理を教育し,適切な血糖管理とインスリンを含む抗糖尿病薬の多剤併用でも一般的な目標が達成されない糖尿病に長期罹患した患者
2012年10月にADA/AGS(米国老年学会)から高齢者における血糖コントロール目標の声明が出されました(Consensus Report: Diabetes in Older Patient. Diabetes Care 2012 Oct 25).ADAの声明として,初めて血糖のコントロールの目標値が示されました.
これによれば,65歳以上の高齢者では3つのカテゴリに分けます.カテゴリー毎のコントロール目標については,以下の様な記述です.
健康な患者(併存する慢性疾患がほとんど無い,認知機能やADLが保たれている)では,生命予後が長いと考えられるので,HbA1c<7.5%を目標とします.
健康問題のあるまたは中等度の健康状態の患者(多数の併存する慢性疾患(投薬や生活管理を必要とするような疾患,例えば関節炎,癌,うっ血性心不全,うつ病,肺気腫,転倒,高血圧症,失禁,StegeV以上の慢性腎疾患)があるか,iADLの2点以上の低下や軽度〜中等度の認知障害がある)では,生命予後は中等度で,治療困難,低血糖発作を起こしやすく,転倒リスクが高いと考えられるので,HbA1c<8.0%を目標とします.
極めて健康問題の大きいまたは健康状態が悪い患者(長期治療中または末期慢性疾患があるか,中等度〜中等度の認知障害があるかiADLの2点以上の低下がある)では,生命予後が限られており利益が不明であるので,HbA1c<8.5%を目標とします.HbA1c 8.5%は平均血糖値〜200mg/dLと推定され,これより甘い血糖目標とすると,尿糖,脱水,高血糖性高浸透圧性症候群,創傷治癒の悪化といった急性の危険性がもたらされる可能性があります.
このように,具体的な数値として血糖コントロール目標が示されたのは画期的ですが,それぞれのカテゴリでの血糖コントロール目標の設定根拠が不明です.また,上限が定められているだけで,下限が定められていないので,とりあえず低くしておけばいいと考える人が出てもおかしくありません.ところが,問題なのは血糖を下げすぎると高い場合と同様に死亡率が上がることですから,下限が定められていないのは問題と言えます
実際に,高齢者の61.5%が血糖コントロールを厳しく(HbA1c<7%)されており,多くでは,インスリンやSU剤といった低血糖を引き起こす薬剤が使用されていると報告されています(JAMA Intern Med 2015;175:356).
米国臨床内分泌学会(AACE)の推奨
米国臨床内分泌学会(AACE)の2011年のガイドラインにおける非妊娠成人の糖尿病コントロール目標は,HbA1c≦6.5%,空腹時血糖≦110mg/dL,食後2時間値<140mg/dLと,ADAのコントロール目標よりも厳しいです.
しかしそれでも,重度の低血糖歴のある患者,余命の短い患者,進行した合併症のある患者,重篤な併存症のある患者,強化治療を行っているにもかかわらず目標を達することの難しい長期罹患糖尿病患者では,より緩やかなコントロール(HbA1c 7〜8%)とすることを考慮せよと示されています.
米国老年学会(AGS)の推奨
米国老年学会(AGS)の2003年のガイドライン(その後更新なし)では,健康な高齢者はHbA1c 7.0%未満を目標とするとされていますが,虚弱高齢者や余命が5年以下と推定される高齢者は8.0%未満としています.

日本糖尿病学会の診療ガイドラインにおける血糖コントロール目標

2010年の診療ガイドラインの推奨
一方,日本糖尿病学会が作成した「科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン 2010」で記載されている血糖コントロール目標は以下の通りです.これによれば,糖尿病の血糖コントロールは,HbA1cを6.5%未満に,可能な限り5.8%未満ににするべきとされています.8.0%以上に至っては,「不可」ですから,「ダメ」とレッテルを貼られることになります.
しかし,この基準は,年齢や糖尿病罹患歴(有病期間),合併症の有無などは全く関係なく,一律になっています.一見分かりやすいので良さそうに見えますが,これまでは述べてきたことを考えると,これではいけないことが分かります.
指標 コントロールの評価とその範囲
不可
不十分 不良
HbA1c(NGSP)(%) 6.2未満 6.2〜6.9未満 6.9〜7.4未満 7.4〜8.4未満 8.4以上
6.9〜8.4未満
HbA1c(JDS)(%) 5.8未満 5.8〜6.5未満 6.5〜7.0未満 7.0〜8.0未満 8.0以上
6.5〜8.0未満
空腹時血糖値
(mg/dl)
80〜110未満 110〜130未満 130〜160未満 160以上
食後2時間血糖値
(mg/dl)
80〜140未満 140〜180未満 180〜220未満 220以上
注1)血糖コントロールが「可」とは,治療の徹底により「良」ないしそれ以上に向けての改善の努力を行うべき領域である.「可」の中でも7.0%未満をよりコントロールがよい「不十分」とし,他を「不良」とした(この境界の血糖値は定めない)
注2)妊婦(妊娠前から分娩までの間)に際しては,HbA1c5.8%未満,空腹時血糖値100mg/dl未満,食後2時間血糖値120mg/dl未満で,低血糖のない状態を目標とする.
2013年の声明における推奨
そしてついに2013年4月23日,日本糖尿病学会は2013年6月1日から目標値を改定することを発表し,新目標値でのコントロールを推奨しました.学会が作成した「医療従事者用Z折リーフレット」には,以下のように定められています.
 血糖正常化を目指す際の目標 → HbA1c 6.0%
 合併症予防のための目標 → HbA1c 7.0%
 治療強化が困難な際の目標 → HbA1c 8.0%
これを見ると,ひとまず一律の目標値ではなくなったことは評価できます.しかし,この分類はちょっと奇異です.合併症予防のための目標と,血糖正常化を目指す際の目標が異なりますが,「合併症予防を目的としない血糖正常化」とは何でしょうか?血糖を下げるという手段が目的化していることに他ならないと思います.また,「治療強化が困難な際の目標」というのもよくわかりません.HbA1cが8.0%未満と以上とで,何が違うのでしょう?これらの数値に根拠はありません.
晴れてこれで日本のガイドラインも一律の目標値ではなくなりましたが,米国のガイドラインとは異なる分類で目標が決められてしまっているので,現場は混乱してしまいます.コントロール目標の数値が違ったとしても,せめて同じ分類にして欲しかったです.そうでなければ,議論になりません.
2016年の声明における推奨
2016年5月,高齢者糖尿病の治療向上のための日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会は「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標について」と題した声明を発表し,血糖コントロールの目標を新たに変えました.
この推奨が画期的なのは,血糖管理目標に下限が設定されたことです.これはADAでもまだされていないことです.惜しいのは,下限が設定されているのは重症低血糖が危惧される薬剤をしている場合に限っていることです.低血糖を避けるべきであるのはすべての糖尿病患者に共通することですので,どのような患者であっても下限を設定するべきと思います.
 
治療目標は、年齢、罹病期間、低血糖の危険性、サポート体制などに加え、高齢者では認知機能や基本的ADL、手段的ADL、併存疾患なども考慮して個別に設定する。ただし、加齢に伴って重症低血糖の危険性が高くなることに十分注意する。
注1:
認知機能や基本的ADL(着衣、移動、入浴、トイレの使用など)、手段的ADL(IADL:買い物、食事の準備、服薬管理、金銭管理など)の評価に関しては、 日本老年医学会のホームページ (http://www.jpn-geriat-soc.or.jp/ ) を参照する。エンドオブライフの状態では、著しい高血糖を防止し、それに伴う脱水や急性合併症を予防する治療を優先する。
注2:
高齢者糖尿病においても、合併症予防のための目標は7.0%未満である。ただし、適切な食事療法や運動療法だけで達成可能な場合、または薬物療法の副作用なく達成可能な場合の目標を6.0%未満、治療の強化が難しい場合の目標を8.0%未満とする。下限を設けない。カテゴリーIIIに該当する状態で、多剤併用による有害作用が懸念される場合や、重篤な併存疾患を有し、社会的サポートが乏しい場合などには、8.5%未満を目標とすることも許容される。
注3:
糖尿病罹病期間も考慮し、合併症発症・進展阻止が優先される場合には、重症低血糖を予防する対策を講じつつ、個々の高齢者ごとに個別の目標や下限を設定してもよい。 65歳未満からこれらの薬剤を用いて治療中であり、かつ血糖コントロール状態が図の目標や下限を下回る場合には、基本的に現状を維持するが、重症低血糖に十分注意する。グリニド薬は、種類・使用量・血糖値等を勘案し、重症低血糖が危惧されない薬剤に分類される場合もある。
【重要な注意事項】
糖尿病治療薬の使用にあたっては、日本老年医学会編「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」を参照すること。薬剤使用時には多剤併用を避け、副作用の出現に十分に注意する。

2型糖尿病に対する厳格な血糖コントロールについての結論と私の考え

長期間の糖尿病治療による効果は,以下のようにまとめられます.
 ・血糖は下がる
 ・心血管疾患全体は減る(発症早期にメトホルミンで治療した場合に限り減る)
 ・冠動脈疾患は減る(発症早期にメトホルミンで治療した場合に限り減る)
 ・脳卒中は減らない
 ・死亡率は減らない(増えるかも知れない)
 ・細小血管障害は,非肥満患者に限って減る
 ・低血糖は増える
これを踏まえて,私は以下のように2型糖尿病の治療を推奨します.
発症早期(8〜10年まで)であれば,HbA1c 6.9%未満の厳格な血糖コントロールを目指す(低くしすぎない)
発症から8〜10年以上経っているコントロール良好例では,続けられれば厳格な血糖コントロールを継続します.
発症から8〜10年以上経っているコントロール不良例では,治療法によってコントロール目標が変わります.
 経口血糖降下薬で治療している場合: HbA1c 7.0〜9.0%を目標
 インスリンで治療している場合: HbA1c 7.5〜8.0を目標

  血糖管理目標  
   経口血糖降下薬使用  インスリン使用
発症早期(8〜10年まで)
若年者
 HbA1c 6.9%未満
FPG 126mg/dL未満
随時PG 200mg/dL未満
発症から8〜10年以上経過
高齢者
HbA1c 7.0〜9.0%
FPG 130〜180mg/dL
随時PG 220〜320mg/dL
HbA1c 7.5〜8.0%
FPG 140〜150mg/dL
随時PG 250〜280mg/dL

いずれにしても,血糖コントロールに執心するよりは,禁煙,血圧コントロールや脂質低下療法,アスピリン投与など集学的治療に重点を置くべきです.
特に高齢者の場合は,低血糖の回避のために,
HbA1c 7.0〜8.0(〜9.0)%程度を治療目標とするのが良いと考えられます.
この主張をLancet 2010;375:481に対するレターとして投稿したところ,Lancetに採用され,掲載されました(Lancet 2010;375:1433full text).

糖尿病患者における血圧管理 (項目新設2012/9/23,最終更新2012/9/23)

日本高血圧学会 高血圧治療ガイドライン2009では糖尿病患者は130/80mmHg未満にコントロールすることが推奨されていますが,その根拠は明確ではありません.
詳しくは,「なんごろく−高血圧症>糖尿病患者における血圧管理」の項を参照(現在工事中).

※なんごろくの記載内容に間違いをご指摘頂ける方やご意見をお寄せいただける方は,是非,こちらまで御連絡下さい.




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