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なんごろく−感染症

敗血症と敗血症性ショックの新しい診断基準(Sepsis-3) (最終更新2016/3/1)
インフルエンザ治療にラピアクタ(R)(ペラミビル)を使うべきか (最終更新2016/1/28)
インフルエンザ治療にゾフルーザ(R)(バロキサビル)を使うべきか (最終更新2019/2/11)
インフルエンザ治療にどの抗ウイルス薬を使うべきか (最終更新2018/11/15)
ワクチンを打つときのテクニック (最終更新2012/12/29)
食中毒発病までの時間・症状 (最終更新2009/8/6)

 敗血症

敗血症と敗血症性ショックの新しい診断基準(Sepsis-3) (項目新設2016/2/23,最終更新2016/3/1)

European Society of Intensive Care MedicineとSociety of Critical Care Medicineが提唱する新しい敗血症の診断基準が発表されました(JAMA 2016;315:801).

これまでは,感染+SIRS(体温,心拍数,呼吸数,白血球数)で診断されていましたが,これでは非特異的すぎて,over diagnosisが問題になっていました.今回はSOFA scoreをベースしていて,3段階で判定するアルゴリズムになっています.臓器障害があることを重視した診断基準となっている一方,判定が容易になるように,検査をせずに判定できる項目で最初にスクリーニングをするようになっています.また,Severe Sepsisはなくなりました.

1.まず,感染があることを確認.そして,qSOFA(Quick SOFA)Criteriaでスクリーニング.以下の2つ以上該当すれば次に進む.

 呼吸数≧22/分
 意識変容(指示に従えない)
 収縮期血圧≦100mmHg

2.次にSOFAで臓器障害の有無を評価.SOFA score(0〜24点)が2点以上の上昇で敗血症と診断(一般病院では2点以上で死亡率10%).Baselineのscoreがわからない場合は0点と仮定する.

      SOFA score
 0  1  2  3  4
 呼吸器  PaO2/FiO2比  >400
(RAでは>84)
 ≦400
(RAでは≦84)
 ≦300
(RAでは≦63)
 ≦200
呼吸器補助下
 ≦100
呼吸器補助下
 中枢神経  GCS  15  13〜14  10〜12  6〜9  <6
 心血管  平均動脈圧(mmHg)
 昇圧剤使用
 なし  <70 mmHg  ドパミン≦5γ or
ドブタミン投与
 ドパミン>5γ or
エピネフリン≦0.1γ or
ノルエピネフリン≦0.1γ
 ドパミン>15γ or
エピネフリン>0.1γ or
ノルエピネフリン>0.1γ
 腎機能  血清クレアチニン(mg/dL)
尿量(mL/日)
 <1.2
 1.2〜1.9
 2.0〜3.4
 3.5〜4.9
or <500
 >5.0
or <200
 肝機能  ビリルビン(mg/dL)  <1.2  1.2〜1.9  2.0〜5.9  6.0〜11.9  >12.0
 凝固  血小板(×103/mm2  >150  ≦150  ≦100  ≦50  ≦20
RA:room air

3.敗血症性ショックになっているかどうかを判定.十分な補液後に以下の2つとも満たすならば,敗血症性ショック

 平均動脈圧≧65 mmHgを保つために昇圧剤が必要
 血清乳酸値>2 mmol/L
 

SOFA scoreはベースラインが0であることが前提であるので,基礎疾患があってはじめからスコアが高い人ではそこからの2点以上の上昇があるかどうかで判定するとされています.
特に,今回敗血症性ショックの診断基準を作成するのに,Delphi法を用いて合意形成したとあります.これは診療ガイドラインの推奨決定などで用いられる合意形成と同じ方法です.

ちなみに,同じ号に掲載されたスコアを評価した論文(JAMA 2016;315:762)では,qSOFAの各項目の院内死亡に対する調整済みオッズ比が示されており,呼吸数≧22/分は3.18(95%CI 2.89〜3.50),収縮期血圧≦100 mmHgは2.61(95%CI 2.40〜2.85),意識変容GCS≦13は4.31(95%CI 3.96〜4.69)と,意識変容が最も院内死亡と相関が高いという結果でした.

一方,今回の号の別の論文(JAMA 2016;315:775)によると,血清乳酸値が>2 mmol/Lをcut offとした時,院内死亡に対して感度82.5%,特異度22.4%,陽性尤度比1.06,陰性尤度比0.78ですので,必ずしも識別能が高いわけではありません.

新しい診断基準が発表されたのち,それに対する賛否両論が出ています.例えば,以下のような指摘があります.

新しい敗血症定義の10の問題
問題#1.Sepsis-Vは主観的な判断が残っている.
問題#2.qSOFAとSOFAは死亡予測であり,敗血症の検査ではない.
問題#3.Spesis-VはSepsisU(感染+SIRS)と比較して特異度が低い.
問題#4.qSOFAは死亡予測においてSIRSと同じような特性を持つ.
問題#5.qSOFAは低血圧,頻呼吸,せん妄を直接起こす疾患ではより特異的ではなくなるだろう.
問題#6.qSOFAは検証された予後モデル(CURB65)と矛盾する.
問題#7.qSOFAとSOFAスコアの組み合わせはICU外の患者ではエビデンスに基づかない.
問題#8.qSOFA+SOFAの組み合わせの死亡への特性は報告されていない.
問題#9.敗血症に対するSepsis-Vの全般的な感度はICU外では50%未満になるだろう
問題#10.Sepsis-Vは米国においてコンセンサスガイドラインではない.

 インフルエンザ

インフルエンザ治療にラピアクタ(R)(ペラミビル)を使うべきか (項目新設2016/1/28)

ラピアクタ(R)といえば,2014年にタレント教育学者を担いで露骨な宣伝CMを打ったことで,私の中では印象が悪いです.おそらく同様に悪い印象を持っている医療者は多いと思います.

ラピアクタは単回投与するもの思っていましたが,症状によって連日反復投与できるようです.添付文書の記載は以下のようになっています.

用法・用量
成人:通常,ペラミビルとして300mgを15分以上かけて単回点滴静注する。
合併症等により重症化するおそれのある患者には,1日1回600mgを15分以上かけて単回点滴静注するが,症状に応じて連日反復投与できる。
なお,年齢,症状に応じて適宜減量する。

そして,「用法・用量に関連する使用上の注意」には,1回投与量の目安として,「重症化する恐れのある患者の場合」には腎機能に応じて倍量投与するよう定められています.

DynaMedを見ると,peramivirは発症24時間以内に使用しないと意味が無いとして,peramivirについてのRCTのサブ解析の結果(Antimicrob Agents Chemother 2010;54:4568)が根拠として挙げられています.
300人の生来健康な20〜64歳のインフルエンザ成人患者に対するperamivir 300mg,600mg,プラセボの比較で,全体ではプラセボと比較してperamivir投与で有意に有症状期間が短くなりました.その差は300mgと600mgのどちらも22時間ほど.投与量を増やしたからといって有症状期間が短くなるわけではありません.
ウイルスサブタイプについては,A/H3で600mgを使用した場合に一番効果がありそうな結果でしたが,症例数が少ないので,なんとも言えません.
薬剤投与開始までの罹病期間については,DynaMedの記載に反して,発症24時間以内でも24〜48時間でも有意差は見られませんでした.発症24時間以内に使用したほうが短くなりそうな感じではありますが,おそらく症例数不足による検出力不足だと思います.

健康インフルエンザ患者の有症状期間に対するperamivirの効果
Subgroup Peramivir 300 mg
(n = 99)
Peramivir 600 mg
(n = 97)
Placebo
(n = 100)
Overall 59.1時間
p = 0.0092
59.9時間
p = 0.0092
81.8時間
ウイルスサブタイプ   
A/H1 52.5時間
p = 0.1458
62.6時間
p = 0.5384
81.4時間
A/H3 76.1時間
p = 0.0556
50.5時間
p = 0.0008
81.0時間
研究前の有症状期間 
発症0〜24時間(n = 158) 57.2時間
p = 0.0516
56.1時間
p = 0.0516
86.7時間
発症24〜48時間(n = 138) 69.1時間
p = 0.1118
64.7時間
p = 0.1118
79.8時間
p値は調整済みの検定で,すべてプラセボとの比較

一方UpToDateには,FDAの文書として,297人のインフルエンザ患者をプラセボ,peramivir 300mg,600mgで比較したRCTの結果が示されていて,600mg投与はプラセボと比較して症状を平均21時間,解熱を12時間早かったとしています.しかしなぜか300mgの効果は示されておらず,また入院が必要となるようなインフルエンザ患者では効果はわからなかったと書かれていました.
もう1つ,oseltamivir(タミフル(R))との比較の1091人のインフルエンザ成人を対象したRCT(Antimicrob Agents Chemother 2011;55:5267)があり,こちらは,peramivir 300mg,600mg,oseltamivirの有症状期間が78時間,81時間,82時間でperamivir両群ともoseltamivirとの非劣性が証明されたとしています.この研究では300mgと600mgで効果に違いはないとされていましたが,37例のハイリスク患者(免疫抑制状態,慢性呼吸器疾患,糖尿病)でのサブ解析(Antimicrob Agents Chemother 2011;55:2803)では600mgの方が300mgよりも良かったことを示していました.しかも,有症状の中央値は42時間vs 114時間であり,HR 0.50(0.25〜0.98)となって劇的な効果であることを示しています(ただし,oseltamivirとの比較のデータはない).

健康インフルエンザ患者の有症状期間に対するperamivirの効果
Subgroup Peramivir 300 mg
(n = 364)
Peramivir 600 mg
(n = 362)
Oseltamivir
(n = 365)
Overall 78.0時間 81.09時間 81.8時間
ウイルスサブタイプ   
A/H1 80.2時間 83.6時間 88.8時間
A/H3 69.9時間 70.6時間 75.1時間
B 55.3時間 92.8時間 92.7時間
B型のperamivir 300 mgのみ,oseltamivirと比較して有意な減少あり,他は非劣性

Peramivirの効果と安全性についてのレビュー(Drug Des Devel Ther 2014;8:2017)があり,11件の臨床試験のうち,2件がoseltamivirとの比較で,残り9件中7件が用量反応関係にあったと結論付けられていました.ただ,その結果はメタアナリシスされておらず,そもそもこのレビューはシステマティックレビューではないので,本当に用量反応関係があるかどうかは不明です.

Peramivirの副作用は,oseltamiirと異なるところでは,下痢の副作用が多く(ただし,プラセボと変わらず15%程度),また稀ながらStevens-Johnson症候群や多形性紅斑などの重篤な皮膚または過敏性反応があるので,特別に注意する必要があります.

結論として,ペラミビルがオセルタミビルよりも有効するデータはありませんでした.薬価がとても高いので,インフルエンザ治療のルーチンでラピアクタ(R)(ペラミビル)を用いるのは厳に慎むべきであり,重症例だからより大きな効果を期待してペラミビルを用いるというのも論理的ではありません.経口摂取困難の患者の場合に限り,しかも(600mgではなく)300mgを単回投与とするべきだと思います.

インフルエンザ治療にゾフルーザ(R)(バロキサビル)を使うべきか (項目新設2018/11/14,最終更新2019/2/11)

ゾフルーザ(R)は,2018年3月に保険収載された新規抗ウイルス薬で,1回のみの服用で治療が完結すると鳴り物入りで発売されました.
報道やwebでの情報を見ると,1回のみの服用で済むことばかり強調されていますが,効果と有害事象についての理解は進んでいるでしょうか.タミフル(R)よりも有効性が高いと言われることもありますが,本当でしょうか.

実は,ゾフルーザ(R)は発売当時に第3相ランダム化比較試験の論文が発表されていませんでした.これは異例のことです.
2018年9月6日になり,N Engl J Medにインフルエンザに対するバロキサビルのランダム化比較試験(CAPSTONE-1 trial)の結果が発表されました.2018年11月14日現在,ゾフルーザ(R)についての大規模臨床試験はこの1本だけです.

【原著論文の批判的吟味】
Hayden FG, Sugaya N, Hirotsu N, Lee N, de Jong MD, Hurt AC, Ishida T, Sekino H, Yamada K, Portsmouth S, Kawaguchi K, Shishido T, Arai M, Tsuchiya K, Uehara T, Watanabe A; Baloxavir Marboxil Investigators Group.
Baloxavir Marboxil for Uncomplicated Influenza in Adults and Adolescents.
N Engl J Med. 2018 Sep 6;379(10):913-923. doi: 10.1056/NEJMoa1716197.
PubMed PMID: 30184455.

CAPSTONE-1 trialの批判的吟味の要点は以下のとおりです.
  • 本研究はリスクの高くない患者に対してバロキサビルを使用するとウイルス力価が治療後2〜3日にオセルタミビルより下がるが,症状の改善までの期間は変えず,むしろ120時間(5日目)後の以降は,バロキサビル群の治りが悪くなっているのではないかと疑われる(Phase 3 trial)
  • バロキサビルの効果は投与量と無関係である(Phase 2 trial)
  • 耐性ウイルスの発現率が高く,その場合バロキサビル投与によってもウイルス力価が下がらず症状が遷延する(Phase 3 trial)
  • プラセボ群のほうがバロキサビル群よりも有害事象発現率が高いという奇異な現象が起こっている(Phase 3 trial)
  • インフルエンザ様症状を呈する患者を組み入れて,解析時にrtPCR陽性患者を選んでいるので,患者の背景因子がバロキサビル群のほうに有利に分布している(Phase 3 trial)
  • 糖尿病や喘息,脳卒中を持つ患者や妊婦などは治療対象に含まれない.すなわちこれらハイリスクの患者では,バロキサビルの効果は本研究からは不明である(Phase 3 trial)
  • B型インフルエンザにはオセルタミビル同様効果が弱い可能性がある
  • 半減期が長く,1回服用で効果が持続するため,服薬アドヒアランスの向上が見込める一方,副作用発現時には休薬する手立てがなく,症状が遷延すると考えられる
I38変異があった場合のウイルス力価の推移についてはゾフルーザ(R)の添付文書にグラフがあり,3日目以降に再上昇することが示されています.
つまり,1回の投与で一旦効いても抑えきれなくなり再度ウイルスが増える現象が起きています.これは,CAPSTONE-1 trial中の,オセルタミビルとの比較でバロキサビルが120時間(5日目)以降に症状の治りが悪くなっていることとも一致します.そのため,症状改善後に活動を再開したら,ウイルス力価が高いために周囲に感染(しかも耐性ウイルスの)を広める可能性があります.オセルタミビルも耐性ウイルスが出現していますが,アマンタジンと異なり特にオセルタミビルが経年的に無効となっているわけではありません.変異株は感染性も変異してしまうのかしまうのかもしれません.実際,バロキサビルに耐性を示すI38変異株の増殖能の低下を細胞実験レベルで示されています(Scientific reports 2018;8:9633)が,これをもってヒトでも実際に感染性が低いかどうかは現時点ではわかりません.

B型については,ゾフルーザ(R)の製品説明概要にCAPSTONE-1 trialのサブ解析の結果が示されています(原著論文には記載がありません).症例数が少ないので有意差は出ていませんが,B型ではバロキサビルはプラセボやオセルタミビルよりもインフルエンザ罹病期間が長いという結果でした.したがって,B型にはゾフルーザ(R)は使うべきでないと思います

バロキサビル vs プラセボ,型/亜型別のインフルエンザ罹病期間:12歳以上65歳未満(intention-to-treat infected population)
 型/亜型    ゾフルーザ群  プラセボ群
 A型 H1N1pdm亜型    例数  7  7
 中央値[95%信頼区間](時間)  43.7[22.0, 109.1]  141.0[82.1, -]
 群間差(時間),p値  -97.3, p = 0.4212
 A型 H3N2亜型    例数  392  195
 中央値[95%信頼区間](時間)  52.2[47.0, 56.8]  79.5[69.5, 86.8]
 群間差(時間),p値  127.3,p < 0.0001
 B型    例数  38  20
 中央値[95%信頼区間](時間)  93.0[53.4, 135.4]  77.1[46.8, 189.0]
 群間差(時間),p値  15.9, p = 0.8568

バロキサビル vs オセルタミビル,型/亜型別のインフルエンザ罹病期間:20歳以上65歳未満(intention-to-treat infected population)
 型/亜型    ゾフルーザ群  オセルタミビル群
 A型 H1N1pdm亜型    例数  7  2
 中央値[95%信頼区間](時間)  43.7[22.0, 109.1]  65.9[23.0, 108.8]
 群間差(時間),p値  -22.2, p = 1.0000
 A型 H3N2亜型    例数  320  332
 中央値[95%信頼区間](時間)  52.1[46.1, 56.0]  51.6[46.1, 54.7]
 群間差(時間),p値  0.3,p = 0.6651
 B型    例数  33  34
 中央値[95%信頼区間](時間)  111.8[56.0, 136.6]  87.6[57.1, 112.4]
 群間差(時間),p値  24.2, p = 0.4698

CAPSTONE-1 trialでは,異常行動の発症についてのデータはありませんでしたが,市販直後調査(最終報告:6ヶ月目)の結果が公表されており,神経系障害57(主に頭痛25)と精神障害23(主に異常行動6,激越4,幻覚4),発疹16が多いというものでした.異常行動に対する懸念はあると考えるべきです

なお,ハイリスク患者に対するバロキサビルの効果を検証するRCT(CAPSTONE-2 trial)が行われており,まだ論文化されてはいませんが,その結果がプレスリリースされています.

つまり,ゾフルーザ(R)がタミフル(R)よりも優れているのは,治療後2〜3日のウイルス力価が下がるという点のみです.それ以外は症状の改善も含めてタミフル(R)と同等か,かえって劣ると思うべきです.特に大量に使用されると変異株の出現や拡散が急速に進んで効果を失う可能性があることと,副作用が遷延化する恐れがあること,また薬価が高いことは注意が必要です.現時点では,安易に使用するべき薬剤ではありません.ハイリスク患者での効果は確定的ではないですし,小児での効果も不明です.ましてや予防目的で使うことはご法度で,添付文書上でも「本剤の予防投与における有効性及び安全性は確立していない」と明記されています.また,作用機序の違いからタミフル(R)とゾフルーザ(R)を併用するといいのではないかという発想も起こるだろうが,併用効果を検証したエビデンスは皆無であるので,これも現時点では行うべきではありません(健康保険でも認められないと思われます)

インフルエンザ治療にどの抗ウイルス治療を用いるべきか (項目新設2018/11/14,最終更新2018/11/15)

まず,そもそもインフルエンザに抗ウイルス薬が必要か,という問題があります.
抗ウイルス薬の効果はいずれも1日程度早く症状を改善させるものですが,通常無治療でもインフルエンザ症状は平均で3〜4日で改善します.その間の症状を抑えるためには,抗ウイルス薬ではなく対症療法が必要です.抗ウイルス薬の使用は確実に耐性ウイルスを出現させます.したがって対症療法薬はインフルエンザ患者全例で必要ですが,抗ウイルス治療は全例に対して行う必要はありません.ゾフルーザ(R)の添付文書にも,「抗ウイルス薬の投与がA型又はB型インフルエンザウイルス感染症の全ての患者に対しては必須ではないことを踏まえ,本剤の投与の必要性を慎重に検討すること。」とわざわざ書かれています.個別の状況を勘案してどうしても必要な人だけが使うのが本来の使い方です

なお,イナビル(R)は2010年に発表されたRCT(Clin Infec Dis 2010;51:1167)で,治癒までの時間の中央値がオセルタミビルで71.3時間に対して,ラニナミビル20mgが82.5時間,40mgが74時間と,オセルタミビルよりも効果が弱い可能性があります(有意差はない).また,2013年に発表された別のRCT(J Infect Chemother 2013;19:89)でも,治癒までの時間の中央値はオセルタミビルで59.7時間に対し,ラニナミビル40mgでは64.7時間と長い傾向でした.
それどころか,ラニナミビルは第2相RCTで,プラセボと比較して臨床症状の有意な改善を示せませんでした.そのため,欧州では承認発売されていません.
したがって,イナビル(R)を用いることの妥当性はありません.

各抗インフルエンザ薬の薬価は,以下の通りです.

薬価 一連の治療での使用量 一連の治療での薬剤費
タミフルカプセル75(R)
(オセルタミビル)
先発品 272円 2T2×5日間(750mg) 2,720円
後発品 136円 1,360円
 リレンザ5mg(R)
(ザナミビル)
先発品 147.1円 1回10mg1日2回5日間(100mg) 2,942円 
イナビル吸入粉末剤20mg(R)
(ラニナミビル)
先発品 2,139.9円 2吸入×1回(40mg)  4,279.8円
ラピアクタ点滴静注液
バッグ300mg60mL(R)(ペラミビル)
先発品 6,216円 1袋1回(300mg) 6,216円
ゾフルーザ錠20mg(R)
(バロキサビル)
先発品 2394.0円 2T×1回(40mg) 4,789円

以上を踏まえて,現状ではインフルエンザ治療における抗ウイルス治療を行う場合には,タミフル(R)が第一選択であり,症状が辛く入院している内服困難な患者に対してはラピアクタ(R)を用いるのが良いです.症状が重いからタミフル(R)よりもラピアクタ(R)にするのではないという点に注意が必要です.イナビル(R)はそもそも効果がない可能性があるので使いませんし,1回服用で完結するので服薬アドヒアランスが向上するとしても,ゾフルーザ(R)も使うことは勧められません.リレンザ(R)もタミフル(R)と同等の効果が期待できますが,吸入が煩雑なのと,オセルタミビルのジェネリックが発売されるようになったので,わざわざ薬剤費の高いリレンザ(R)を使用する理由はありません.

なお現在の学校保健安全法では,「発症した後5日を経過し,かつ,解熱した後2日(幼児にあっては、3日)を経過するまで」をインフルエンザによる出席停止期間としています.そのため,抗ウイルス薬を使用して早く解熱したとしても,早く出席できるようになるわけではありません.成人では特にこのような規定はありませんが,出勤の基準はこの規定に準じて少なくとも発症後5日間は出勤停止とするべきです(発熱が遷延していたら解熱後2日まで延長).したがって,早く出席・出勤するために抗ウイルス薬を服用する,という選択肢はないことになります.

 ワクチン

ワクチンを打つときのテクニック (項目新設2012.12.29)

小ネタですが,乳児や小児にワクチンを打つときには,以下のようにする方が痛みが少ないようです(Clin Ther 2009;3:S48).
  • 臥位よりも,座位もしくは親が抱っこした状態で打つ(SMD -0.4〜-0.8,p<0.05)
  • ワクチンを打つ前や打っている間に刺入部の近くの皮膚を叩いたり,抑えたりする(SMD -0.53,p=0.03)
  • 筋注をする際には,一度陰圧にしてからゆっくりと注入するより,陰圧にせずに急速に注入する(SMD -0.62〜-0.97,p<0.05)

 食中毒

食中毒発症までの時間・症状 (項目新設2009.8.6)

病因物質名 主な感染経路など 発病までの時間 主な症状
シアン化合物 工業用用途(メッキなど),化学繊維の燃焼でガスが発生 数秒から1分程度 失神,痙攣,呼吸麻痺
有機リン 農薬・殺虫剤・除草剤など 数分 縮瞳,痙攣,失禁,嘔吐
トリカブト 鑑賞用の花・漢方薬にも使う 数十分 嘔吐,下痢,呼吸困難
貝毒 二枚貝(ホタテガイ・ムラサキガイ・アサリ・カキ) 30分から数時間 麻痺,水様下痢,嘔吐,嘔気,腹痛
セレウス菌 肉類,スープ類,焼き飯,ピラフなど中途半端な加熱料理など 嘔吐型は1〜5時間
下痢型は8〜15時間
嘔吐型は黄色ブドウ球菌食中毒に類似
下痢型ははウエルシュ菌食中毒に類似
黄色ブドウ球菌 常在菌・化膿した手などによる調理 1〜5時間(平均3時間) 嘔気,嘔吐,腹痛(下痢)
フグ毒 ふぐの肝臓・卵巣 5〜45分 嘔吐,しびれ,麻痺(呼吸筋)
リステリア 乳製品・食肉加工品など 数時間〜概ね3週間 発熱,頭痛,悪寒,嘔吐
ウエルシュ菌 多種多様の煮込み料理(カレー,煮魚,麺のつけ汁,野菜煮付け)など 8〜12時間 下痢,腹痛(通常は軽症で1日で回復)
ボツリヌス菌 缶詰,瓶詰,真空パック食品,レトルト類似食品など 8〜36時間 めまい,頭痛,言語障害,嚥下障害,呼吸困難,乳児では便秘
サルモネラ属菌 卵,またはその加工品,食肉(牛レバー刺し,鶏肉)など 8〜48時間 嘔気,嘔吐,腹痛,下痢,発熱
腸炎ビブリオ 魚介類(刺身,寿司,魚介加工品)とその二次汚染など 平均12時間 腹痛,激しい下痢,嘔気,嘔吐,発熱
病原性大腸菌(下痢原性大腸菌) 牛肉の加熱不足(牛レバー刺し,ハンバーグ,牛角切りステーキ,牛タタキ),牛の糞を堆肥に使った野菜など 12〜72時間(菌種により異なる) 下痢(血性を含む),腹痛,発熱,嘔吐
ノロウイルス 貝類(二枚貝),調理による食品の汚染(二次汚染) 24〜48時間 嘔気,嘔吐,激しい下痢,腹痛,頭痛
カンピロバクター 食肉(鶏刺し,生レバー等の生食など),飲料水,生野菜,牛乳など 平均2〜3日と長い 腹痛,激しい下痢,発熱,嘔吐,筋肉痛
エルシニア 食肉,サンドイッチ,野菜ジュース,井戸水など 平均2〜5日と長い 腹痛,下痢,発熱,その他虫垂炎様症状など多様な症状
キノコ毒 ツキヨタケ,クサワラベニタケ,カキシメジなど 毒性の種類により異なる 嘔吐,腹痛,下痢,痙攣,昏睡

※なんごろくの記載内容に間違いをご指摘頂ける方やご意見をお寄せいただける方は,是非,こちらまで御連絡下さい.




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