ゾフルーザ®(バロキサビル)を使うべきか

2018年3月,新しいインフルエンザ治療薬ゾフルーザ®(バロキサビル)が発売された.国内医療機関への売り上げが4月からの半年間で抗インフル薬市場の65%を占めていたという報道がなされたり,ゾフルーザ処方経験者の65%が「今シーズンも積極的に使う」と回答したり,勢いのとどまるところを知らない.しかし,ゾフルーザ®は夢の新薬なのだろうか.

ゾフルーザ®はランダム化比較試験の論文が発表される前に承認された珍しい薬である.2018年9月6日になり,N Engl J Medにインフルエンザに対するバロキサビルのランダム化比較試験(CAPSTONE-1 trial)の結果が発表された.2018年11月14日現在,ゾフルーザ®についての大規模臨床試験はこの1本だけである.

Hayden FG, Sugaya N, Hirotsu N, Lee N, de Jong MD, Hurt AC, Ishida T, Sekino H, Yamada K, Portsmouth S, Kawaguchi K, Shishido T, Arai M, Tsuchiya K, Uehara T, Watanabe A; Baloxavir Marboxil Investigators Group.
Baloxavir Marboxil for Uncomplicated Influenza in Adults and Adolescents.
N Engl J Med. 2018 Sep 6;379(10):913-923. doi: 10.1056/NEJMoa1716197.
PubMed PMID: 30184455.

ゾフルーザ®についての学術的考察はこちら.またCAPSTONE-1 trialの批判的吟味の詳細はこちらに示してあるが,要点は以下の通りである.

  • 本研究はリスクの高くない患者に対してバロキサビルを使用するとウイルス力価が治療後2~3日にオセルタミビルより下がるが,症状の改善までの期間は変えず,むしろ120時間(5日目)後の以降は,バロキサビル群の治りが悪くなっているのではないかと疑われる

  • バロキサビルの効果は投与量と無関係である

  • 耐性ウイルスの発現率が高く,その場合バロキサビル投与によってもウイルス力価が下がらず症状が遷延する

  • プラセボ群のほうがバロキサビル群よりも有害事象発現率が高いという奇異な現象が起こっている

  • 患者の背景因子がバロキサビル群のほうに有利に分布している

  • 糖尿病や喘息,脳卒中を持つ患者や妊婦などは治療対象に含まれない.すなわちこれらハイリスクの患者では,バロキサビルの効果は本研究からは不明である

  • B型インフルエンザにはオセルタミビル同様効果が弱い可能性がある

  • 半減期が長く,1回服用で効果が持続するため,服薬アドヒアランスの向上が見込める一方,副作用発現時には休薬する手立てがなく,症状が遷延すると考えられる

ゾフルーザ®がタミフル®よりも優れているのは,治療後2~3日のウイルス力価が下がるという点と,1回の服用のみで済むため服薬アドヒアランスの向上が見込めることのみである.それ以外は症状の改善も含めてタミフル®と同等か,かえって劣ると思うべきである.特に大量に使用されると変異株の出現や拡散が急速に進んで効果を失う可能性があることと,副作用が遷延化する恐れがあること,また薬価が高いことには注意が必要である.現時点では,安易に使用するべき薬剤ではない.ハイリスク患者での効果は確定的ではないし,小児での効果も不明だ.ましてや予防目的で使うことはご法度で,添付文書上でも「本剤の予防投与における有効性及び安全性は確立していない」と明記されている.また,作用機序の違いからタミフル®とゾフルーザ®を併用するといいのではないかという発想も起こるだろうが,併用効果を検証したエビデンスは皆無であるので,これも現時点では行うべきではない(健康保険でも認められないだろう).

なお,冒頭で紹介した「国内医療機関への売り上げが4月からの半年間で抗インフル薬市場の65%を占めていた」の解釈には注意が必要である.今シーズンのインフルエンザ流行に備えて,在庫確保のために大量に購入されているための一時的なものである可能性がある.またここで述べられているのは「出荷量」ではなく「売り上げ」である点もミソである.同じ数売れても,薬価が高い方が「売り上げ」は高くなる.

抗ウイルス薬の効果はいずれも1日程度早く症状を改善させるものだが,通常無治療でもインフルエンザ症状は平均で3~4日で改善する.その間の症状を抑えるためには,抗ウイルス薬ではなく対症療法が必要である.抗ウイルス薬の使用は確実に耐性ウイルスを出現させる.したがって対症療法薬はインフルエンザ患者全例で必要だが,抗ウイルス治療は全例に対して行う必要はない.ゾフルーザ®の添付文書にも,「抗ウイルス薬の投与がA型又はB型インフルエンザウイルス感染症の全ての患者に対しては必須ではないことを踏まえ,本剤の投与の必要性を慎重に検討すること。」とわざわざ書かれている.個別の状況を勘案してどうしても必要な人だけが使うのが本来の使い方だろう.

抗ウイルス薬を服用して仕事をするなどというのはもってのほかで,インフルエンザに罹患したら,発症から5日間か解熱後2日までのいずれか長い期間を出勤せずにしっかり休むことが重要である.また仕事を休むためにインフルエンザの診断書や迅速診断検査の結果を求めるというのもナンセンスだ.そのようなものを得るために医療機関を受診すると,インフルエンザにかかっていない患者にうつしてしまい,インフルエンザを拡散することにつながる.したがって,インフルエンザと思ったら,医療機関を受診せずに自宅で静養するほうがいいといえる.学校や会社も,インフルエンザの診断書や迅速診断検査の結果を提出させることをやめるようにすべきである.もちろん,重度のインフルエンザで命を落とす人もいるので,ご飯が食べられない,薬が飲めそうにい,ぐったりしている,症状がつらすぎてしんどいような場合や,妊婦(重症化する)は,受診が必要である.

現状ではインフルエンザ治療における抗ウイルス治療を行う場合には,タミフル®が第一選択であり,症状が辛く入院している内服困難な患者に対してはラピアクタ®を用いるのが良い.症状が重いからタミフル®よりもラピアクタ®にするのではないという点に注意が必要である.イナビル®はそもそも効果がない可能性があるので使わないし,1回服用で完結するので服薬アドヒアランスが向上するとしても,ゾフルーザ®も現時点では使うことは勧められない.リレンザ®もタミフル®と同等の効果が期待できるが,吸入が煩雑なのと,オセルタミビルのジェネリックが発売されるようになったので,わざわざ薬剤費の高いリレンザ®を使用する理由はない.

ゾフルーザ®について更に詳しい情報を知りたい方はこちらをどうぞ.

大事な薬を温存するためにも,必要な人に適正に使用されることを願っている.

DSCF3956.JPG
志摩市間崎島の狭い路地にて,2010/11/6撮影)

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