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資料集-日常業務での効率の良い情報収集の方法
このページは,2006年11月12日に行われた日本家庭医療学会第14回家庭医の生涯教育のためワークショップで私が講演した,「今晩から使える!日常診療での効率の良い情報収集の方法」と題した情報検索のワークショップの内容から抜粋したものです.
参加者より,HPに再現して欲しいという要望がありましたので,こちらに載せます.
Caution!!
このページで紹介する内容は
南郷の少ない経験から
このような方法で情報収集すると良いのではと
ご提案するものです
検索の達人はこれをご覧になった方の中にもたくさんいらっしゃると思いますので
よりよい方法をご存じの方は
是非教えていただければと思います
よろしくお願いします
サイト管理者の薦める日常業務で有用な情報源へのリンクはこちらから
最もシンプルで分かりやすいPubMed検索方法の解説もこちら
情報検索のワークショップ開催を承ります.ご依頼はこちらから
情報収集のアルゴリズム
大まかにまとめると,以下のアルゴリズムに従って検索する情報源を選ぶと良いと思います.
解説
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臨床業務で疑問が生じた場合,まずどのようなことについての疑問かを明らかにします.
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薬剤についての疑問,特に副作用に関する情報や添付文書が欲しい場合は,
独立行政法人医薬品医療機器総合機構が運営する医薬品医療機器情報提供ホームページで検索するのがいいでしょう.
添付文書をGoogleなどで探すのは,以外と難しいものです.
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薬剤の副作用や添付文書以外についての情報が欲しい場合は,
まずその疑問がBackground questionかForeground questionのいずれかを判断します.
Background questionとForeground questionについては,
資料集のEBMミニレクチャースライドにある「あなたの疑問をまとめよう」をスライドを参照のこと.
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自分の疑問がBackground questionかForeground questionのいずれかよく分からない場合は,Googleでの検索をお勧めします.
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自分の疑問がBackground questionの場合は,教科書を見るといいでしょう.
メルクマニュアル日本語版とUpToDateがお勧めです.
メルクマニュアル日本語版は日本語での検索が可能です.
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自分の疑問がForeground questionである場合は,PICOで定式化します.
その方法については, 資料集のEBMミニレクチャースライドにある「あなたの疑問をまとめよう」をスライドを参照のこと.
PICOで定式化したら,検索をするためのキーワードを抽出し,優先順位を付けます.
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Foreground questionの検索は,UpToDateとDynaMedがお勧めです.
この両者はよく比較され,どちらの情報源を購読した方がいいでしょうかという質問をよく受けますが,
両者はEBMの手法に基づいて作成されたという共通点はありますが,本質的に異なるものだと思います.
基本的に,調べたい事柄(疾患,病態)について,あまり知識がないならUpToDateが,
ある程度の知識を持っているならDynaMedが有用でしょう.
つまり,その分野について全般的に知りたい場合はUpToDateを,
エビデンスをピンポイントで知りたい場合はDynaMedを使用するといいと思います.
特に,プライマリ・ケアに従事する方は,両方の情報源が使える環境におくことをお勧めします.
2次資料,データベースの使い方 - 素早く情報を手に入れるには
2次資料やデータベースを上手に使えると,日常業務で抱く疑問の解決がより簡単になります.それには,それぞれのデータベースの特徴を知っておくことが必要です.また,全ての2次資料やデータベースで共通するのは,それが英語で書かれている情報である場合に,多くの英語が苦手な日本人にとっては,読みとるのに労力を必要とすることです.そこで発想を変えていただきたいと思います.「英語が読めること」は代用のアウトカムであり,真のアウトカムは「2次資料やデータベースに書かれた内容を理解することである」と.つまり,英語をろくに読まなくても,内容が分かればそれで全く構わないのですから,なるべく英語を読まずにその内容のポイントをつかむことを努めましょう.
具体的には,数字,略語,太字を追うことです.日本語は極めて優れた言語で,漢字,ひらがな,カタカナ,アラビア数字,アルファベットが混在しています.私達日本人が日本語の文章を速読する際には,いちいち1字1字読んでいるわけではないと思います.漢字や数字を拾いながら読んでいるはずです.だから早く読めるのです.ところが,英語はアルファベットと数字しかないので,いわゆる飛ばし読みができないのです.そういう状況下で早く読むためには,比較的馴染みのある数字,略語,太字を拾い読みすればいいことになります.実際に,私達が求めている記述は,治療を行う際にどれくらいの量の薬を,どれくらいの日数使えばいいかといったものだったりします.ですから,数字を追うことはとても有効です.是非,一度試してみていただければと思います.
PubMed検索法:
医療情報を検索する際にPubMedを用い手Medlineを検索すればいいと考える人は多いと思いますが,日常業務で疑問を解決する際にPubMedを検索するのは,多くの場合止めた方が得策です.PubMed検索はコツがいるので慣れていないと難しいのと,見つかった論文は玉石混淆なので,どれが優れた論文かはそれを見る目がないと,正しい情報に到達するのに時間がかかります.
PubMed検索,研究を行うとき(=過去の研究を網羅的に調べる)や,稀な症例や病態などについて調べたいとき(=症例報告を探す),2次資料に取り上げられている論文がどうやって採用されたかを学ぶときなどに行うのがお勧めです.
最もシンプルで分かりやすいPubMed検索方法は こちらで解説しています.
効率の良いUpToDate使用法:特にUpToDateを挫折した人に
UpToDateは多くの大学や研修指定病院で契約されています.しかし,実際には利用率が高くないようです.多くの研修医や学生,あるいは医療従事者の方々に聞いた意見をまとめると,UpToDateの利用率が低い理由は2つ考えられます.1つはトピックスの検索の障壁.もう1つはトピックスの内容理解の障壁.いずれも,コンテンツが英語であるために生じている障壁です.
1つ目の障壁は,入力する検索語が英語でなければならないために,日本語から英語の変換にいちいち辞書を必要とするために起こります.さらに検索されたトピックスの一覧が英語表記であるために,求めている記載のあるトピックスがどれであるのかが容易には探せないのです.
2つ目の障壁は,UpToDateの記載が(箇条書きで表記されているDynaMedと異なり)文章で記述されているために起こります.特に,右側に示されたスクロールバーの小ささにトピックスの分量の大きさに気付かされ,読む気を失ってしまうのです.
1つ目の障壁に対して,これまで無料のweb辞書である 英辞郎の利用を推奨してきました.これは医学分野に強い辞書で,web上で無料で利用でき,コピペすることでつづり間違いも防ぐことができ,有用でした.しかし, 2011年10月20日より,日本語検索システムが構築されました.これにより検索語として直接日本語で入力すると自動的に英語で変換され(どのような語に変換された確認でき,修正の候補も表示される),検索されたトピックスタイトル一覧も日本語で表示されます.検索語として,薬剤名を(日本の)商品名で入れても自動的に一般名に変えてくれます.これで,1つ目の壁はだいぶ解消されたと思われます.
検索は1~3個のキーワードを掛け合わせれば目的のトピックスにたどりつけます
.なるべくキーワードの数を少なくすることが,検索のコツです.最初のキーワードは必ずしも疾患名でなくてもOKです.
2つ目の障壁に対しては,英語が不得意な方の場合は,全部読もうとする事は止めましょう.
英語が得意な方はもちろん全部読んでも構いませんが,UpToDateのトピックスの分量では,英語が不得意な方では途中で挫折すると思います. 最初に見るべきところは末尾のSummary and Recommendationsです.記載が長いトピックスには大抵付いています.そこで大まかな内容を把握したら,細かい記述を見ます.
その際も,左側の目次をフルに活用して,見たいところだけを選んでみるようにしましょう.
繰り返しますが,くれぐれも,全部読もうとしないことです.印刷もいけません.印刷しただけで満足してしまい,どうせ読みません.第一,エビデンスが出るたびに記述が変わりますから,印刷した古い情報は使えなくなってしまいます.
効率の良いDynaMed使用法:
DynaMedの特徴は,箇条書きで記述されているためにUpToDateより読みやすいことです.
疾患名のアルファベット順に並んでいるので,検索というよりは疾患名の先頭の1文字をクリックして探してもすぐ見つかります.
絞り込み検索はあまり有用ではないようですので,キーワードを掛け合わせての検索はお勧めしません.
1語でだけ,それも病名を入力して検索することをお勧めします.
DynaMedは原則的にはエビデンス集なので,知りたいことが分かっている場合は,素早く検索することが可能です.知りたい情報によって,治療therapy,診断diagnosis,予後prognosis,病因cause
and risk factorなどといった項目を展開します.目的が分かっていれば,ブラウザの検索機能(Ctrl+F)を利用して,素早く記載している場所に飛ぶのが
最もうまい使い方です.あるいは,重要な内容(論文の結論やガイドラインの推奨など)は太字で書かれており,細かい内容になるほど右に字下げされていくので,時間の節約のためには,なるべく太字と左に飛び出している文章だけを見ながらスクリーニングして,欲しい記述のある箇所を見つけたら,そこだけ読むようにします.
DynaMedはエビデンス集なので,結局どの検査や治療をすればいいの?という疑問に答えるのは得意ではありません.一見矛盾するような記述が併記されていることもあります.特定の研究について知りたいという場合には,特に有用です.UpToDateと同様,印刷することはお勧めできません.
日常診療で検索をする場合のコツ
日常診療では時間がありません.したがって,効率よく検索したいものです.最も大事なことは,自分の疑問を解決してくれる適切な情報源を選ぶことです.
これを間違えるとなかなか解決しません.したがって,それぞれの情報源の特徴を知っておくことが大事になります.
ときどき,いくつもの検索語をたくさん入れて,目的の情報の記載場所が得られないと騒ぐ人がいますが,検索語はなるべくシンプルにするべきです.最近の情報源は優秀なので,1~2つ,せいぜい3つのキーワードを入力すれば,十分目的の記載にたどり着くことができます.もう一つ大事なことは,見つからなくてもメゲないことです.ダメでもともと,3分で見つからなかったら他の情報源へ乗り換えることも必要です.
情報検索をするときに大事なこと
情報源を作成するときには,中立の立場で,エビデンスに基づいて利害関係なく作られることが大前提になりますが,どの情報源も不完全でバイアスを含みます.
したがって,利用者である私たちとしては, 1つの情報源の記載を鵜呑みにしないというスタンスを取るべきです.これは,情報の網羅性と改定の迅速性についての研究でも明らかにされています( J Clin Epidemiol 2012 Sep 10).
UpToDateに書いてあるから正しい,DynaMedに採用されている論文だから信頼できる,というわけではないことに注意した方がいいです.実際,これらの2次資料の記載は,批判的吟味が不十分だと思われる場合も多いです. 複数の情報源に当たり,それらの内容が同じようなものならば,その情報の確証度は上がると言えるのではないでしょうか.
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