新型コロナウイルス感染症で医師国家試験が受験できなくなる

11月30日,厚生労働省医政局は,2021年2月6日~7日に行われる医師国家試験について,新型コロナウイルスに感染している場合には受験を認めず,追加試験も行わないことを正式決定した.これは,医師国家試験に限らず,今年度の医療関係職種の国家試験の全てに適用される.

厚生労働省医政局の発表の骨子は以下の通りである.

○会場入口(原則施設外)にてサーモグラフィカメラによる検温を実施し、37.5度以上の者は再度接触型体温計により検温し、37.5度以上あった場合※3は、迅速抗原検査を実施。陽性反応が出た場合は、オンラインで医師が診察を行い、新型コロナウイルス感染症の診断がなされた場合は受験を認めない。それ以外の場合は、別室で受験させる。
※3 37.5度以上の発熱がない場合においても、咳等の症状を認めた受験者は同様の取扱とする。

○濃厚接触者※4であっても、試験当日に無症状である等※5の条件を満たせば、別室での受験を認める。
※4  保健所から濃厚接触者に該当するとされた者で、14日間の健康観察期間中に受験日が重なる受験者。なお、過去2週間以内に、政府から入国制限、入国後の観察期間を必要とされている国・地域等から日本に入国した者を含む。
※5 以下の条件を満たすこと。
ア  初期スクリーニング(自治体等によるPCR等検査)の結果、陰性であること
イ  受験当日も無症状であること
ウ  公共の交通機関を利用せず、かつ、人が密集する場所を避けて試験場に行くこと
エ  終日、別室での受験となること

○試験当日に体調不良等により受験出来なかった者については、これまでと同様に追加試験は行わない。

感染者が受験会場に入ることを避けたいという意図は理解できるが, かなり厳格なルールになっている.特に,濃厚接触者の受験条件として,「公共の交通機関を利用せず、かつ、人が密集する場所を避けて試験場に行くこと」とあるが,自家用車で会場へ行った場合に駐車スペースは確保されているのだろうか.医師国家試験は2日間,いずれも終日行われるが,その間民間の駐車場を利用するのであれば,その出費も相当のものになる.また国家試験の試験地は限られているので,宿泊が必要となる受験者も多数いるが,宿泊先までの移動にも公共の交通機関を利用してはならないのだろうか.

さらに,受験者への注意として,以下が挙げられている.

(7)新型コロナウイルス感染症の感染が疑われる場合の対応(体温が37.5度以上または咳等の症状を認めた受験者)
 試験監督員の指示により迅速抗原検査を実施し、陽性反応が出た場合は、オンラインで医師が診察を行い、新型コロナウイルス感染症の診断がなされた場合は受験を認めないほか、試験中であっても受験を停止させるため、その指示に従うこと。

(8)試験監督員の指示に従うこと。
 指示に従わない場合には受験をさせない、あるいは受験を停止させる場合がある。

試験日以降
(9)保健所等関係機関との連携・協力
 試験会場において、受験者から新型コロナウイルス感染者が出た場合には、保健所等関係機関の要請により受験者の連絡先等の個人情報を提示することがある。

試験中に試験監督員に感染が疑われると,迅速抗原検査を受けさせられ,陽性が出た場合にはオンラインで医師の診察を受け,新型コロナウイルス感染症の診断がされた場合は途中でも受験を停止しなければならないとある. 迅速抗原検査は,特にイムノクロマトグラフィー法では粘稠性の高い検体を用いた場合に偽陽性を示しやすいことが指摘されている1ので,陽性判定即受験停止と判断されると悲劇である.受験者ができることは, 症状を出さないようにする,試験監督員に疑われないようにする,検査で陽性が出ないことをお祈りする,オンライン診察する医師に新型コロナウイルス感染症と診断されないようにする,ことだろう. 試験会場において新型コロナウイルス感染症と診断されると,連絡先などの個人情報が保健所等関係機関に提示されるとのことだが,当然報道でも流れることになるだろう.誰だ?誰だ?ということになり,犯人探しが始まるのではないだろうか.

国家試験に加え,入学試験シーズンが差し迫っている.いますぐに新型コロナウイルス感染症の流行を抑える対策を取らないと,受験の機会を失う人が続出するだろう.入学試験が受けられなかったことがその人のその後の人生に大きな影響を及ぼすかも知れないし,数多くの医学生が医師国家試験を受けられなくなれば医師の供給が損なわれる.これは国として由々しき事態ではないのか.大学入試はシーズン中複数回受験可能だが,医師国家試験は現在年1回しか受験機会がない.仮に新型コロナウイルスに感染していると判定されて受験停止になると,自動的に1年間棒に振ることになる.能力を十分持つ医師の輩出が遅れることは,個人の不利益と国家の損失と両方の面からあってはならない.新型コロナウイルス感染症の診療に従事してくれる医師だって減るのである.

第3波はもう第1波,第2波を超えているのだから,段階的に行動制限をするのではなく,直ちに強力に感染者数を抑え込まなければならない.Go Toトラベルを即刻中止し,多人数の会食を禁止するなど,思い切った施策が求められる.ましてやこれから忘年会シーズンである.不要不急な移動や外食は避けるべきだろうし,どうしても避けられないのであれば,接触飛沫感染予防を徹底して行うよう,より一層注意喚起する必要がある.さもないと,結果的に制限が長期化するだろう.すでに「ハンマー・アンド・ダンス」の「ダンス」が踊れていないのだ.

受験者にはとにかく,これから受験当日まで,特に受験日の2週間前からは,できる限り人との接触を避け,自宅に籠もって受験勉強に励み,新型コロナウイルス感染症やインフルエンザに感染しないよう細心の注意を払って過ごしていただきたい.外出時には,マスク,手洗い,適切なフィジカルディスタンスを忘れずに.

【利益相反(COI)の開示】
学術的COI:感染症専門医ではない,公衆衛生専門家ではない,海外の大学院在籍歴なし,市中病院医師,総合診療医 ,EBMer/EBM educator,COVID-19 診療経験は軽症例のみ,2012~2018年厚生労働省医師国家試験委員,配偶者や一親等の親族に国家試験や入学試験の受験者はいない
経済的COI:製薬会社,医療機器メーカーからの利益供与は一切ない

  1. 一般社団法人日本感染症学会理事長 舘田一博.COVID-19 検査法および結果の考え方(2020年10月12日)
西伊豆の夕暮れ,2018/12/1撮影)

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