総合診療領域のサブスペシャリティとは?

2018年4月に新・専門医制度がスタートして,2019年2月の時点で,基本領域の専門医取得後のサブスペシャリティをどうするかという議論が起こっている.

まず,サブスペシャリティsubspeciality(通称「サブスペ」)とはなにか,ということを確認しなければならない.しかし,これがきちんと定義されていない.そのため,混乱の様相を呈している.日本専門医機構のサイトを見ても,サブスペシャリティについての定義は書かれておらず,厚労省の検討会資料に「基本領域から分化したもの」と書かれているのみである.ある医学生・研修医向けのサイトには,

サブスペシャリティとは、診療科の下に連なる細分化された専門分野のことです。実は「○○科」と言う診療科単位で示される領域は広い意味での専門であって、実際には「○○科」の下には細分化された専門分野があります。その専門分野をサブスペシャリティと呼び、たとえば循環器内科なら虚血性心疾患、不整脈、心不全、消化器内科なら上部消化管、下部消化管、肝胆膵などといくつもの専門分野に分けられます。

と書かれている.おそらくこれが一般的な理解と思われるが,これは縦割りの専門領域が多数存在する内科や外科領域を想定した用語である.日本専門医機構が公開している資料によると,

内科領域:消化器病、循環器、呼吸器、血液、内分泌代謝科、糖尿病、腎臓、肝臓、アレルギー、感染症、老年病、神経内科、リウマチ、消化器内視鏡、がん薬物療法
外科領域:消化器外科、呼吸器外科、心臓血管外科、小児外科、乳腺、内分泌外科
放射線領域:放射線診断、放射線治療

が日本専門医機構によってすでに認定されているとのことである.

いずれにしても,サブスペシャリティは各領域のうち,「さらに領域を限定して細分化された専門分野に特化した診療のスペシャリストとなるもの」といえるが,そうすると,全体を包括的に診るという総合診療の理念とは相容れないものとなる.すなわち,「総合診療医がサブスペを持つ」というのは非常に違和感が強い,というか困ってしまうのである.

よく医学生や研修医から,総合診療医になりたいと打ち明けると,「それは結構だが,何か専門を持つべきだ」と言われる,という話を耳にする.これは,総合診療には専門がないという前提に立っている.しかし,総合診療には専門がないわけではない,専門医機構も示す以下の7つのコアコンピテンシー(資質・能力)を身につけているという専門がある.

1.包括的統合アプローチ
2.一般的な健康問題に対する診療能力
3.患者中心の医療・ケア
4.連携重視のマネジメント
5.地域包括ケアを含む地域志向アプローチ
6.公益に資する職業規範
7.多様な診療の場に対応する能力

もし,総合診療医が何らかの別の資格を取得するとしたら,それらがいずれも永続的に維持できる必要がある.そうでなければ,転科またはjob changeとなってしまう.総合診療専門医と循環器専門医を併せ持つのはどうだろうか.循環器内科医として仕事をしながら,総合診療専門医を更新することは可能だろうか.あるいは逆に,総合診療医として働きながら,循環器専門医を更新することは可能だろうか.物理的には可能かもしれないが,かなり無理がある.「一般的な健康問題に対する診療能力」は特定の領域に限定せずあらゆる健康問題をカバーすることであるので,循環器の専門であると総合診療はできなくなる.また,疾患に焦点を当てる循環器内科医に対して,総合診療医は患者中心の医療を行い,地域志向アプローチを行うなど,どちらかというと生活背景や心理社会的問題に焦点を当てるので,循環器内科医であり総合診療医でもあるというのは両立しない.逆に,総合診療を行っていると循環器の専門的なスキルを維持するのは困難だろう.

同様に,日本専門医機構は複数の基本領域を取得するダブルボードを認める方向で検討しているが,例えば,救急専門医と総合診療専門医は永続的に維持できるだろうか.救急医として働けば継続的な外来診療に従事することは困難だろうし,総合診療医として従事すれば救急症例の経験がどうしても少なくなる.

このように総合診療には領域を狭めるという考えのサブスペシャリティはそぐわないし,総合診療であっても基本領域の専門医を複数持つダブルボードは維持することが困難である.内科や外科の考えを総合診療に当てはめようとするので混乱が生じるのであり,日本専門医機構は総合診療領域におけるサブスペシャリティという考えを捨てるべきである.総合診療は,総合診療の他にはありえないのが原則であるが,もし追加で資格を取るとしたら,サブスペシャリティでなく,スペシャルインタレストとして,特定の領域や技術を深く学んだという認証(認定)を用意すれば良いと思う.実際,米国では「CAQ(certificate of added qualification)」,英国でも「diploma」と呼ばれるような,追加の資格認証という形になっている.

米国のFamily medicineの定めるスペシャルインタレストの例
Addiction Medicine
Clinical Informatics
Geriatric Medicine
Hospice and Palliative Medicine
Sports Medicine
ACGME – Specialties – Family Medicine

カナダのFamily Medicineの定めるスペシャルインタレストの例
Care of the Elderly
Clinician Scholar Program
Emergency Medicine
Hospital Medicine
Mother and Child Health
Palliative Care
Sports Medicine
McGill University, CA – Department of Family Medicine – Enhanced Skills Programs

では,サブスペシャリティとスペシャルインタレストは何が違うのか.例えば,総合診療医は内視鏡検査を行うが,ERCPやESDなどの処置や治療は行わない.これらは専門性が高く,消化器内科医が行うべきだと考えているからである.したがって,総合診療医に必要なのは,内視鏡”専門医”ではなく,内視鏡”認定医”である.一通りの手技ができることを認証するが,それを専門としているわけではないというので,総合診療と両立する.したがって,専門医とは別の認証を付与するのがよいということなのである.つまり,内視鏡を「専門とする」総合診療医,ではなく,内視鏡が「得意な」総合診療医であれば,違和感はない.言葉の問題にこだわりすぎると言われるかもしれないが,言葉は共通認識を持つために重要である.定義せずになんとなく使うと議論がかみ合わないのである.

サブスペシャリティがないと,総合診療のキャリアパスに不安を覚える医学生や研修医もいるかも知れない.そういう人のためには,総合診療の道に進んだ者が専門医を取得したあとにさらなる成長のためにオプションとして学べるフェローシッププログラムがすでにいくつも用意されている.医学教育,研究,経営などは人気が高い.在宅医療や緩和医療といったサブスペに近い形の診療の「場」の得意分野というのを身につける者も多い.「場」というと,診療所,病院,大病院(大学),へき地・島嶼も総合診療の主戦場として重要である.あるいは漢方や女性医療,思春期医療,感染症,リハビリ,スポーツ医療もオプションとして考えられる.これらは,縦割りでなく横断的な概念なので,総合診療の資質・能力を維持したまま取得・更新することが可能だろう.しかし,大事なのは資格ではなく,自分のいる場で何が求められているのか,そして求められた役割を演じるためにどのようなことを学ぶのか,なのではないだろうか.

謝辞:本エントリーの執筆に当たり,藤沼康樹先生(医療福祉生協連家庭医療学開発センター)と岡田唯男先生(亀田ファミリークリニック館山)との深いディスカッションから多くの知見を得て,理解が深まった.厚く御礼を申し上げ,感謝の意を表する.


流山市のヴァイオリン工房にて,2013/2/25撮影)

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